第六十五話 侵入者
「侵入者?」
トゥーファンの家の方に気配がある。
僕とトゥーファンは猪の肉をその場に置くとすぐに土の家の入口に駆け寄った。
家の中には二階への階段が出ていた。
僕たちは階段を隠してから出かけたので、侵入者が出したのだろう。
目を合わせるとトゥーファンは口元に指を一本当てた。
静かにして音を出さないようにする。
二階の様子を伺うけど、相手も気付いたのか静かだ。
トゥーファンの罠が簡単に破られるとも思えない。けど、仮に破られたとしたら上の部屋から地面に飛び降りるか、木の家に出てから降りてくる方法がある。
カサッ。
ここをトゥーファンに任せて僕は木の家側に行こうかと悩んだときに、微かに音がした。
侵入者は二階にいるようだ。
それなら暫くここで様子を見ようとしたら、天井に落とし穴が開いて一人落ちてきた。
「あ痛っ!」
腰とお尻を床に打ち付け声を上げた侵入者に向かって素早く駆け寄ったトゥーファンが雷鳴の剣を抜いて突きつける。
?
「兎……?」
トゥーファンの剣先にいるのは大きな桃色の兎だ。服を着た兎が倒れてる。特徴的な長い耳が頭から垂れている。
そして、もう一匹、白兎が天井からこちらを見下ろしている。
「雷針!」
「きゃっ!」
咄嗟に雷魔法で作った小さな針を飛ばした。
二階の白兎が避けようとしたけど、左肩に針を受けて雷で痺れたようだ。
他にもいるかも知れないので、僕はそのまま二階への階段を登る。
慌てて二階に登ると、そこには雷針を受けて倒れている白兎が一匹いた。この兎も服を着てる。
他には何もいない。
落とし穴から一階を覗いてトゥーファンに声をかけた。
「トゥーファン、こっちは一匹だけだよ。
そっちはどう?」
「こらっ! サーラに手を出すな!」
桃色の兎が声を上げる。
……兎が喋った?
「こっちは大丈夫だ。
取り敢えず今から上がるから待っててくれ」
途中で女性の声がしたが、桃兎が喋ったのだろうか?
そういえば、落とし穴から落ちたときも悲鳴を上げていた。
そんなことを考えながら雷魔法で気を失っている白兎に目をやる。
白兎の大きさは僕の胸ぐらいまでありそうで、今日仕留めた猪よりも大きい。
でも、細身の兎なので重さでいくと猪の方が重そうだ。
「あーっ!
サーラに何をした?」
再び女性の声がしてそちらを見ると、階段を登って来た桃兎が怒鳴ってる。
その桃兎がこっちに向かって飛びかかろうとしたけど、急に後ろに引き戻された。
……トゥーファンに紐で縛られているみたいだ。
「……兎が喋ってる」
僕が呟くとトゥーファンが補足してくれた。
「兎人だ」
「兎人?」
「あー、人狼とか鹿人みたいなもんだ」
「へえー、それで喋れるんだ」
「おい、こら、それよりもサーラに何をした?
サーラに何かあったら絶対に許さない!」
相変わらずトゥーファンの捕まえている兎人が騒いでる。
今にも飛びかかって来そうな勢いだ。
「どうする?」
兎人を無視してトゥーファンに話しかけた。
探索から帰ってきたら兎人が二匹、いや二人か、家の中に侵入していて状況が分かってないのに、その内の一人が煩いという困った状況だ。
「取り敢えず縛っておいて、もう一人の意識が戻ったら色々教えてもらうのでいいんじゃないか?」
……確かに、桃兎の方は煩いから、もう一人の意識が戻って落ち着いてから話をした方が良いかも知れない。
となると、拘束はしといた方がいいか。
僕は腰に結びつけていた紐を取り出すと、白兎の手足を縛り上げた。
「トゥーファン、取り敢えず縛ったけど檻でも作る?」
「あぁ、一応作るか。
多分、魔法も使えるだろうし念のためだな」
「おいっ、本当にサーラは大丈夫なんだろうな!」
トゥーファンが怒鳴っている桃兎を連れてきて、白兎の横に座らせた。
桃兎が白兎に擦り寄るとその様子を伺う。
白兎の呼吸を確認して安心したのか、少し笑顔になった。
「気を失っているだけだから、大丈夫だよ。
落ち着いたら、この島のことを教えてくれると嬉しい」
「土柵檻」
白兎の様子に安心した桃兎だったけど、目の前にトゥーファンの作った土の檻が現れるとこちらを睨み返した。
「兎人もいるんだね」
兎人がいることに驚きもするけど、興奮もする。
大きな兎だと思ったら喋ったし、トゥーファンは魔法も使うって言った。
多分、急にこんな家ができたから僕たちが森に行ってる間に様子を見に来たんだろう。
そしたら、急に僕たちが帰ってきてテンパってしまったんだと思う。
「オレも会うのは初めてだ。
兎人は警戒心が強いから、人の来ないところに集落を作ると言われていたが、本当に居たんだな」
「へぇー、トゥーファンでも初めてなんだ」
「あぁ、見た感じ喋れる兎、立って歩く兎って感じだったな」
「うん。外見は大きな兎だった。
ただ、手は兎の手というよりも人の手だった」
「全体的には人よりも獣に近いようだ。
人狼でも人に近い奴と狼に近い奴がいたから、あの二人が兎に近いだけかも知れんが……」
「ふぅーん。
成長すると変わるの?」
「いや、成長しても変わらないと聞いた。
しかし、人狼の話だから参考にする程度だな。兎人は違うかも知れん」
「よく分からないんだね」
「あぁ。
これからどうするかな?」
僕たちは兎人を閉じ込めた檻のある二階の檻から離れたところで話をしている。
二回に分けた肉はさっき取ってきた。
トゥーファンが二人の入った檻の様子を見ながら声を小さくした。
「まず、兎人は魔法が使える筈だ。
さっきは一切使わなかったが、不意を突かれると厄介だ。
そして、この島に兎人の集落があるだろう。流石にあの二人だけとは考えにくい。
だから、まずは集落の規模を確認したいな」
「ふぅーん。
兎人って攻撃的なの?」
「いや、さっき魔法を使わなかったし、それほど攻撃的じゃないだろう。
だからといって、こちらも攻撃したい訳じゃないしな」
トゥーファンは兎人を傷つけたくないようだ。でも集落を確認しないと様子が分からない。だから、穏便に集落を突き止めたい、か。
「あの二人を逃して後を追う?」
「あの二人を追って、兎人の集落で大勢で取り囲まれるのも困るな。
かと言って救出部隊が決死の覚悟で突入してきても嫌だし……」
「あの二人の警戒を解かないとどうしようもないかな……?」
「そうだな。それが一番いいか。
しかし、桃兎は思い込みが激しそうだし、話が通じないかも知れないぞ」
「白兎はどうかな?」
「さぁな。そもそも奥地に隠れ住む種族のようだからな」
「……?
なんでそんな種族が二人でこの家に忍び込んだの?」
「さて?
この家が集落のすぐ近くにできたか? もしくはあの二人が好奇心旺盛か?」
「集落の近くだったら、この家の周りに警戒する兎人が少しぐらい居てもいいよね?」
僕は言いながら周囲の様子を伺うけど、家の中からではそこまで分からない。
「急にオレたちが帰ってきたら、もし周辺を警戒してる兎が居ればもう少し慌ててるか……」
「うん。
その雰囲気が感じられないから、あの二人が好奇心旺盛ってことでいいんじゃない?」
「なら、やりようもあるか」
「とりあえず、周囲の様子を確認するついでに残りのお肉を取って来るよ」
「それなら、いっそのこと食事の準備をするか」
トゥーファンがニヤリとした。




