第六十三話 孤島探索
「やっと陸地だよ」
視界の先に陸地が見えてきた。
三日間、自作の船で海を西に進んで見つけた。
トゥーファンに声をかけると、彼もデッキに出てきて陸地を確認する。
「やっとだな」
僕たちが乗っているのは自作の双胴船。
ニコキュリオスの街を出てフォシアン島からグランデン大陸に向かうことにしたが、色々と目立ちたくなかったから自分たちで船を作った。
最初は簡単に大陸に着くと思って軽い気分で小さな帆船にした。でも、朝から海に出て昼頃には波も大きくなり揺れが大きくなってきたので、船を一回り大きく改造したりしてる内に二艘の船をデッキで繋いだ双胴船になってしまった。
デッキに日差しを遮る天井を作って、波も防げる板壁をつけたりしてる内に簡単な小屋までできてしまった。
「うん?
グランデン大陸を目指してるんじゃなかったか?」
進路方向に陸地を見つけたトゥーファンが訝しげに呟いた。
「うん。
あれは西にあるグランデン大陸じゃないの?」
「いや、あれは多分島だぞ。陸地が小さい」
「えっ、そうなの?
一応、西に進んで来たはずなんだけどな」
そうやって着いたのは島だった。
いや、確定してないけど多分、島だと思う。
そんなに小さな島ではないけど、周辺には水平線が続いていた。
でも、とりあえず船を砂浜に着けて島の探索をすることにする。
……いや、船の旅はヒマだったんだよ。
風魔法を帆に当ててただ西に進むだけで、何にもすることがないから。
「どれくらいの大きさかな?」
砂浜に着いた双胴船を陸地に引き揚げながらトゥーファンに聞いた。
「あの岩山が島の中央だとしたら、端から端までで二日ぐらいじゃないか。
緑も多いから水場もあるはずだし、狩りでもしてしばらくゆっくりできるだろう」
僕たちが船を付けたのは島の東に広がる砂浜だ。
綺麗な砂浜だけど、北と南は岩場になっている。
というか、砂浜は周囲をグルリと小高い崖に囲まれていて、その崖の向こうに緑の木々が見えている。
「まずはあの崖を登って水場を見つけたいね」
「今、昼過ぎぐらいか?
早めに寝床を決めて、何か食べたいな」
そう言いながら砂浜を後にして、崖を登る。
崖を登ると、右側、島の北の方は樹木が生い茂り徐々に弧を描いて中央の岩山に向かって連なっている。
左手側は右側の森から一本の川が流れていて、海に向かって徐々に草原と砂浜が広がっていた。
森から砂浜に向かって流れる川の向こうには鬱蒼とした森。中央の岩山は途中から鬱蒼とした森になり、その森は島を横切る一本の川で堰き止められているみたいだ。
「アッサリと水場が見つかったね」
「あぁ、寝床もあの川の近く、草原と森の境目辺りで良さそうだな」
「これなら、獲物も近くにいそうだよね」
「あぁ、オレが寝床を作るから、シオンは近くを見てくるか?」
「いや、別に急がないし一緒に探索すればいいんじゃない」
「それもそうか。それじゃ、どんな家にするかな。
希望があれば聞くぞ」
トゥーファンは家を作るとか面倒なのかと思ったけど、意外にやる気になってる。
そんなトゥーファンを見てると僕もちょっと面白い家を作ってみたくなった。
「僕も作るから二軒の家をくっつけるのはどうかな?
僕が木造、トゥーファンが土造で合体させたら住み心地が良さそうじゃない?」
「ふふっ。なかなか面白そうだな。
それならシオンに眺めの良い部屋をプレゼントしてやろう」
しばらくして僕たちの家ができあがった。
「これはこれで、奇妙な家だな」
「うん。ちょっと想定外」
僕たちはできあがった家を見上げている。
最初は簡単な家にするつもりだったけど、ついお互いのの作っている家を見て増築を繰り返して巨大な家ができあがってしまった。
基本的には僕の作った木の家とトゥーファンの作った紅い土の家が密着している。
ただ、僕の木の家は巨木の幹をくり抜い部屋だったり、枝先に四阿が載ってたりする。
自然との共生をコンセプトにしたリゾートコテージのようだ。
一方、トゥーファンの方も僕の巨木に負けない高い建物だ。分かりにくいけど多分五階建てぐらいだろう。
多分というのは、ワンフロアずつの構造になっていないからだ。
巨大なサイコロを何個も繋げた構造をしてる。
一部屋ずつ継ぎ足して作っていたので、外からでは中がどうやって繋がっているのか分からない。
「ま、何かあれば改造すればいいだろ。
簡単に案内するから好きにしていいぞ」
トゥーファンについて行くと入口を入った瞬間に戸惑ってしまった。
「これは、……どうなってるの?」
入口の部屋は十人ほど入れる広さがある。その部屋の中央に進み、立ち尽くした。
紅い壁でできた建物には出入口が一つあるだけで、それ以外には扉がない。
扉がないので、建物に入ったはいいけど、上のフロアに行けない。
というか、壁しかない。
入口以外の三方は壁になっていて、窓も何もない。
天井もツルリとした天井があるだけだ。
「あれ?
上の方に色々なかった?」
不安になってトゥーファンに聞くとニヤニヤしてる。
「上にもあるぞ。ちょっとしたギミックだよ。
そこの壁に手を触れて、魔力を流してみな」
何か仕掛けをしたようだ。
右の壁に進み、そっと壁に触れて魔力を流す。
すると、目の前の壁に穴ができて、窓になった!
「おぉっ!」
魔力を流すことで、壁の一部が動くようだ。
目の前には壁の中央が左右に開いてできた窓がある。
「凄いね。どうやってるの?」
「簡単な魔法陣を壁の中に組み込んでいるだけだ。
ゴーレムの部品のような感じだな」
「えっ?
膠晶液とか使ってた?」
率直な疑問。
僕が木の家を作っているとき、トゥーファンもサクサクと土の家を作っていた。
途中で魔法陣を刻んだり細々としたことはしてなかったはずだ。
簡単な魔法陣でも、何かでその魔法陣を定着させないと魔法が発動しない。
「ふふふっ。
魔力を多めに込めた土を膠晶液の代わりに使った」
「えっ?
それでこんな風に動かせるの?」
この壁自体は普通の土で作り、その中に紅剣にしてるような魔力を込めた土で作った魔法陣を埋め込んでいるみたいだ。
「複雑な動きはムリみたいだが、一方向なら何とかなるもんだぞ」
「いや、そうは言っても……」
不思議に思ってるとトゥーファンが反対側の壁に手をついた。
「ほら」
……壁から階段が生えてきた。
トゥーファンが魔力を流すことで、壁に埋まっていた階段が部屋の中に向かって一段ずつ出てきた。
階段の一段一段は独立して壁から突き出している。
ご丁寧に二階と繋がるように階段の先には天井にも穴が開いている。
「凄いね。
こんな使い方もできるんだ……」
階段を作り出したのか?
階段が壁に埋め込まれていたのか?
埋め込まれていたとして、出てきたときと同じ大きさで壁に埋まっていたのか、それとも大きくなって出てきたのか?
僕は何も考えずに魔力を流しただけなのに窓が左右に開いた。
もう一度壁に魔力を流すと左右から窓が閉まった。
予め動きが決まっているはずなんだよな。
ぐぬぬ……。
トゥーファンに聞くのは悔しいので窓枠を睨みつけてしまった。
魔力を流して窓を閉め、また魔力を流して窓を開けることを繰り返す。
……分からない。
どうなってるんだ、これ?
「おい、いつまでやってるんだ。続きを案内するぞ。
次は二階だ」
「あ、行くよ」
僕は窓を閉めて階段を登った。
二階は一階ほど不思議構造じゃない。
……というか、一応扉や窓がある場所が分かる。全面、紅い土でできているのは変わらないけど、扉や窓の場所は窪んでいるので、そこに扉があるだろうと分かる。
広さは一階の三倍ほど。
正方形の部屋のあちこちに扉や窓がある。
「どの部屋も魔力で開く扉にしたの?」
僕は手近な扉に近づくと横の壁に魔力を流した。
扉を開けようとしたら、足元に穴が開いて、落ちた!
「うおっ!」
咄嗟に無詠唱魔法で風を作り身体を浮かせる。
そしてすぐに一階の部屋に着地した。
……焦った。
頭上に開いた穴を見ると、トゥーファンが笑いながらこちらを覗き込んでいる。
丸い穴の周りに折れ曲がった床が見える。
「ちょっ、魔力を流したら穴が開くなんて、扉を失敗したの?」
「いや、簡単な罠だ。
つけといた方がいいかな、と思ってな。
すまんが、実験させてもらった」
「え?」
くそっ。
確信犯のイタズラだ。
わざとそれらしい扉や窓を見せて引きつけ、魔力を流すと本命の罠が発動するようにしてあった。
それにまんまと引っかかってしまった。
「まったく、二人しかいないのに罠なんて必要ないよ」
再び階段を登りながら愚痴る。
「いや、白煉瓦の城に罠があっただろ。
どんな風になってるのか気になってな。つい試してみただけだ」
そう言ってトゥーファンは僕が落ちた落とし穴を開けたり閉めたりしている。
「他には何があるの?」
「似たような罠を仕込んでるから当てみな。
あぁ、心配しなくてもこの部屋だけだ。色んな部屋に仕掛けると面倒だからな」
そう言われたので用心しながら足元の床や壁に目を凝らして調べながら歩く。
僕が落ちた穴の周りもよく調べてみたけど、他の場所の床との違いが分からない。
よく見ると薄っすらと格子状に線が入っているのでパネルを組み合わせた床に見えなくもない。
でも、どのパネルに仕掛けがあるかは全然分からない。
多分、微かな溝とかで気付かれるのを防ぐために逆に全面に溝を付けたんだろう。
……まぁ、そもそもトゥーファンの作った土壁、土床の中に仕込まれている魔法陣を見つけるなんて難易度が高すぎる。
床は見分けられなかったが、壁に集中すると一ヶ所少し違和感を感じた。
扉の形に窪みがあり、罠のことを知らなければ、普通に扉があると思われる位置だ。
これは罠か? それとも扉か?
作ったのがトゥーファンだからな。
扉と思わせて、罠が仕掛けてある、と思わせて普通に扉があるパターンじゃないか?
裏の裏は表ってやつだ。
僕はその扉模様の横の壁に手をついて魔力を流す。
目の前の扉が開く。当たりだ。
と、急に背後から天井の一部が折れて振り子のようにぶつかってくる。
左右に避ける余裕はない。迫る天井を避けて、目の前の扉から外に飛び出した。
またも咄嗟に無詠唱魔法で風を起こして身体を浮かせて着地する。
さっきは一階の部屋に落ちたけど、今度は外に放り出された。
くっ。
扉が開くのは当たっていたけど、まさか天井が折れて押し出されるとは思わなかった。
グルリと入口に回って階段を登るとトゥーファンが上から声をかけてきた。
「早く来いよ。
キリがないから先に三階に上がるぞ」
……結局、三階に行くには一階から二階に上がる階段の途中で壁に魔力を流す必要があった。
なんだよその仕掛けと思ったら、二階に上がる途中で三階への階段を準備した方が楽だろ。と言われた。
どうしても階段を見つけられなくて、二階の部屋全体に魔力を広げてみたけど、それはそれで窓を開く仕掛けと閉める仕掛けが両方起動するようで、見つけた扉も動かなかったりで、僕としては魔力を使って疲れただけだった。




