第五十三話 家族会議
海星守神殿の一行が帰ってから家族会議が始まった。
「向こうから来てくれて、手間が省けたな」
家族会議で開口一番、トゥーファンが言ったのがこの言葉だった。
「それより、やり過ぎたんじゃないか?」
僕が心配になったので、トゥーファンに聞いてみるとアッサリとした返事が返ってきた。
「まぁ、交渉のためにちょっと厳しめに話したが案外上手くいくもんだな」
「えっと、交渉のため?」
「あぁ、足元見られるのがイヤだったからな。
交渉のためにいくつか餌を撒いただけだ」
「うーん。
もう少し分かりやすく言ってもらっていいかな?」
「そうだな。なら、どこから話すか?
まず、オレたちの目的だがミクリがフォムアルフト神殿に行き、壁画を見ることでいいな」
「うん。それでいいよ」
「そのためにはフォムアルフトの首飾りが一つ手に入ればそれでいい」
「えっ、そうなの?」
「まぁ、それだけで上手く行く保証はないが、とにかく首飾りが一つあれば何とかなる可能性が高い」
「それで、鰐鮫の角を一本渡したの?」
「あぁ、あの一本が首飾りになっていれば他の三本は教会に売っても問題なかった」
「あれ?
トゥーファンはフォムアルフト神殿に行きたくないの?」
「行けるのなら行ってみたいが、別に行けなくても問題ないな。
シオンは行きたかったのか?」
「いや、一人でも行きたいかと言われたら悩むけど、ミクリが行くんだったら一緒に行きたいと思ってるよ」
「おぉ、そうだったのか、すまない。
オレの中では、シオンが行くのも、オレが行くのも、ガンドルさんが行くのも優先順位はかなり低かった。
角四本とか、四人で行くとか言うのは、最低でもミクリ一人は行けるようにするための交渉材料に過ぎない。
教会が色々言ってきたら、少しずつ妥協するつもりだったからな」
トゥーファンの説明にガンドルさんは賛成のようだ。
「私としてはトゥーファンの考えで問題ない。
私がフォムアルフト神殿に行くよりも大事なことがある。ミクリが神殿に行けるなら、私が護衛になるよりも角を渡してもっと強い護衛を雇って欲しいと思う」
「ふふっ。
まぁ、そう言う訳で角三本譲ってでも、一つ首飾りが手に入ればそれでいいんだ。
ただ、神父の言い方だと危険があるようなので、な」
そう言ってトゥーファンはミクリを見た。
「護衛の依頼を受けた方がいいってこと?」
「あぁ、もしものために護衛の依頼は受けるべきだろうな」
「護衛をすると何か問題があるの?」
「祭りが終わった後に首飾りをどうするか? という問題が残る。
教会に売ってもいいんだが、一つだけは記念に残したい。
勝手な話しだが、ミクリが神殿に行けたら首飾りはミクリに残してやりたいと思ってる」
トゥーファンが真面目に続ける。
「そんな訳で、ガンドルさん次第だったんだが、ガンドルさんの考えも確認できたからな。
とりあえず三本の首飾りは確保して、そのためには護衛も受ける。祭りの後は一本を残して残りの首飾りは教会に譲ってもいい。
そんなところか」
「ミクリは神殿に行けたら嬉しいです。
でも、ミクリのために誰かが大変になるならイヤです。
自分で、自分の力で行くです」
突然、ミクリがガンドルさんの腕を掴んで話し出した。
「父ちゃんがそうしたいんだ。
多分、トゥーファンやシオンもそうなんだ」
「僕もそうだよ。
ミクリと出会って鰐鮫を倒したからね。
ミクリの夢を叶えて欲しい」
「オレは別に鰐鮫の角が欲しい訳じゃないからな。
ちょっとミクリの夢のために駆け引きしただけだ」
三人がそれぞれに言うとミクリが泣き出し、家族はお開きになった。
改めて考えてみると僕とトゥーファンは様子見でダゴン迷宮に入って、そこでミクリに会った。
そこから先は付与を学ぶ以外はおまけでしかない。
鋼の亀、鋼の蛸、鋼の海豹とどんどんと大物になって、最後に鰐鮫が出て来ただけだ。
鰐鮫に歯が立たなくて逃げたままって言うのが嫌で退治したようなもので、最初から鰐鮫の角を狙って戦った訳ではない。
ミクリの夢を聞いてからはちょっとお節介焼いてるが……。
ついでだから、もう少しミクリを側で見たいもんだ。
翌日ーー
家族会議の結果を伝えに教会に行くことにした。
行くのはミクリとトゥーファンと僕だ。
ガンドルさんは工房でやることがあるのと、一緒に行ったときにミクリが不利になると嫌だからと固辞した。
街の住人として教会に協力しないのかと言われたり、暴力を振るったと因縁をつけられたら言い逃れできなくなるからだ。
教会も子供だけを相手に向こうから暴力を振るうことはできないだろう。
……僕とトゥーファンがいれば負けることはないと思うけど、一応、用心だ。
「昨日も変な夢を見たです」
三人で教会に向かって歩いてるとミクリが話し出した。
「うん?
この前も鰐鮫が何匹も出て来たって言ってたけど、今度もそんな感じ?」
「今朝のはたくさんの鰐鮫から走って逃げたら大きな広間があったです。
広間、みたいだったですけど、暗い部屋だったです。
必死で逃げて、そしたらいつの間にか足元が池みたいになってて、浅い水を歩くと祭壇があって祭壇の上には大きな亜水晶があったです。
見たことない大きな亜水晶だったです。
しばらくしたら足元の水が流れてるのに気付いて、流れる先を見たら何かがいて目が覚めたです」
「何だか意味深な夢だね」
「よく分からないけど、怖かったです」
「鰐鮫を倒したのに、何か不安なことでもあるのか?」
「不安がないのはトゥーファンぐらいです。
昨日の話しを聞いたらフォムアルフト神殿に行けるのか、行って怖いことないか心配になるです」
「うん。
言われてみればそうだね。僕も一緒にフォムアルフト神殿に行きたいんだけどなぁ。
トゥーファン、とにかく宜しくお願いするよ」
「あぁ、宜しくお願いされるよ。
オレも手荒なことはしたくないからな」
「おいおい、教会で手荒なことはやめてよね。
ホントにダメだからね」
「だから、オレもしたくはないんだよ。
向こう次第だから仕方ないだろ」
そんな物騒なことを言いながらミクリの案内で海星守神殿に向かった。




