第四十六話 懸賞金
鰐鮫の変異種の死体を台車に乗せて迷宮出口にあるギルド出張所に持って行くと、大騒ぎになった。
この鰐鮫のおかげで七番窟が半月ほど封鎖されていたし、冒険者ギルドでは討伐隊を編成しようと有力な冒険者に声をかけていたところだった。
迷宮のギルド出張所で鰐鮫を見せると、ニコキュリオスにあるギルド本部に行って欲しいと言われ四人で台車を押して運ぶ。
身長が僕やトゥーファンの二倍はある鰐鮫、でかいから重さも半端ない。
引いている台車の車輪跡がくっきりとつくぐらい重い。
これでいくらだろう? とかつい考えちゃう。
ニコキュリオスのギルドに着くと、入口から左の建物に向かった。
「確か右側が依頼受付で左側が買取り受付だったよね?」
ガンドルさんに確認しながら進むと、ちゃんと買取り受付があった。
受付に着く前から周りの人が台車を覗き、ザワつき始める。
「おい、アレ何だ?」
「あんなデカイ鋼の魔魚って何だ?」
「鋼の魔魚にしては色が変だな?」
周囲の人がガヤガヤと色んなことを話してる中、受付の方で女性が奥に向かって走って行くのが見えた。
暫くして、奥からさっきの受付嬢と一緒に真っ黒に日焼けした体格の良い男性が駆けてきた。
興奮してて、鼻息が荒い。
「おいっ! これはどうした?」
その男性が突然、僕の肩を掴んで問いただす。
「狩ってきました」
見た通りだよ、と思いながら答えた。
「狩ってきたって。
お前ら何人で? ってガンドルさんにミクリじゃないか?」
男性はこちらのメンバーを見渡すと、ガンドルさんとミクリを見つけてさらに驚く。
「ここの四人ですよ」
そう答えると、隣に居た受付嬢が男性の横から割り込んで来て男性に耳打ちする
「ギルドマスター、とりあえず奥の方へ」
「あ、あぁ。
えっと、私がギルドマスターのジョゼフ・バルアーだ。
こちらの獲物について話しを聞かせて欲しいので、奥に来てもらえるだろうか?
こちらの獲物も買取り評価をするために、少し奥で確認したいのだが?」
「……はい。いいですよ。
どちらに行けばいいですか?」
「すまない。
このまま台車ごと、奥まで入ってくれ」
ギルドマスターのジョゼフ・バルアーさんと受付嬢の二人について、奥へと進む。
買取り受付というだけあって、奥の個室て話しをすることも多いのだろう。
通路が広くて台車を引いたまま部屋に入れるようになっている。
個室に入ると、バルアーさんが一気に話しかけてきた。
「これは鰐鮫だな。
しかも今問題になってる変異種だろう?
どうしたんだ? これ?」
僕がトゥーファンやガンドルさんと目を合わせると、トゥーファンは肩をすくめ、ガンドルさんが軽く頭を下げたので、とりあえず僕が代表で話すことにした。
「今朝からこの四人で七番窟に入って倒しました」
「倒しました、って、おい。
鰐鮫、しかも変異種だぞ!」
バルアーさんが唾を飛ばしながら話す。
バルアーさんの言葉が終わると、受付嬢がすかさずサポートする。
「まずは皆さん、こちらの椅子にお座り下さい。
すぐに飲み物をお持ち致します」
窓際にある大きめの机には椅子が十脚ほどあった。
バルアーさんの興奮っぷりが激しいので、意図的に話さず静かにしたまま席に着く。
そして、受付嬢が帰ってくるまで、ジッと待つ。
「早く説明をしてくれ!」
「今は疲れてるので、ちょっと飲み物が来るまで待って下さい」
バルアーさんが喚くが時間を稼いで落ち着くのを待つ。
「お待たせしました」
受付嬢が部屋に入った瞬間、彼女の目がバルアーさんの血走った目に向かった。
「ヒィッ!」
それでも彼女は異様な雰囲気の中、全員に水を配ってから、バルアーさんの隣に座った。
水を飲んで、一息ついてから僕は話し始めた。
「えっと、まず始めからですが、半月ほど前に鰐鮫の変異種を釣り損ねたのは、僕たちです……」
そうやって簡単に経緯と今日の成果を話すと、やっとバルアーさんが納得してくれた。
「そういうことなら分かった。
今回の討伐、おめでとう。そしてありがとう。
今回、鰐鮫の変異種には金貨三百枚がかかっている。
これは街の領主様が掛けた懸賞金だ。
買取りは別料金になるが、ガンドルさんがいるから、そちらで自由にしてもらっていい」
三百枚か、四人で割ると何枚だろう?
「もしもの話しだが、鰐鮫の角を手放すのであれば、教会が欲しがっているので高値をつけてくれるだろう」
……バルアーさん、いい人じゃん。
「それから、今回の討伐に関してギルドからは星を授与する。
とりあえず、今日予定がなければライセンス証を預からせて欲しいのだが、いいだろうか?
授与式は一週間後にこのギルドで行うことになると思う」
「はい、それは大丈夫です」
星を取得とか、金貨三百枚とか、一通りすっきりしたら何だか眠くなってきた。
色々と面倒だし、適当にハイハイ言って済ませよう。
ライセンス証を預けたらさっさと帰って休みたい。
「さっさと帰りましょう。
疲れたので、休みたいです」
つい、言葉に出てしまった。
「あぁ、解体とかも明日だな」
「えーっ、今晩はお祝いです。
ちゃんとお祝いしないとダメです。
父ちゃんもお祝いするです?」
「まだお昼だし、一度休んで夜にお祝いしような」
こういう場合は、お祝いするらしい。
ミクリの言葉にガンドルさんが賛成して決まってしまった。
「あ、一応賞金を分けますね。
金貨三百枚なので、一人七十五枚です。
ガンドルさん、ミクリの分も合わせて、百五十枚です」
ガンドルさんに金貨を渡そうとすると、ガンドルさんが私たちの力じゃないから、と断ってきたけど、ミクリが角を折ってガンドルさんがサポートしたのだから、と言って受け取ってもらった。
「それから、鰐鮫の角もできれば、一人一枚で分けたいです。
ミクリは自分で一枚取ったので、残りを三人で分けましょう」
鰐鮫の角は魔力的な力も強いようだから、ちょうどいいだろう。
なんだかおざなりな分配だけど、とりあえず今日はこれで。眠たくなってきたから、早く休みたい。
台車をガンドルさんの工房まで引いて行き、鰐鮫を降ろす。
そして夕方からガンドルさんの工房でお祝いをすることにすると肉串を何本か買って宿に帰り、少し食べた後は爆睡してしまった。
……多分、戦いの疲れじゃなくて、台車を引いた疲れだと思う。
ーー六刻後
昼寝して休んだらかなり楽になった。
お祝いをすると言うことだったので、トゥーファンと一緒に、串焼きや揚げ物の屋台で食べ物を買ってガンドルさんの工房に向かった。
ガンドルさんの工房に着くと、先客が大勢いて大騒ぎになってた。
?
どういうこと?
「なんだか騒がしいな?」
トゥーファンも訝しげだ。
「こんばんわ」
工房の門をくぐると、一層騒がしい。
「「おおぉー!」」
「主役のお越しだぞ」
「ガンドルさんを呼んで来い」
「よぉ、街の救世主さんじゃねぇか、もっと奥へ入んな」
「鰐鮫を倒すなんて凄ぇな」
恐らくガンドルさんの知り合いの人たちだろう。
庭から工房までひしめいている。
あ、ガンドルさんが奥からやって来た。
「シオンさん、トゥーファンさん。
すみません。何か色々人が集まっちゃって」
「いえいえ。驚きましたけど、お祝いですから沢山集まってもらって、嬉しいですね。
あ、これ、お祝いで食べようと思った串焼きです。
一緒に食べましょう」
「ガンドルさんも今日のヒーローだからな」
「シオン、トゥーファン、こっちに婆ちゃんの料理があるです」
ミクリが女の子たちの中から駆けて来る。
今日のヒロインも大忙しだ。
魔力を使い果たすほど使ったのに、元気なもんだ。
今朝までは鰐鮫が怖くて眠れなかったのに、今は元気に喋り続けてる。
鰐鮫から取り返したミクリの笑顔は最高だ。




