第四十五話 再戦
鰐鮫が現れた。
大きな身体は紫色や緑色に銀色が混ざった気持ち悪い輝きを発している。
特徴的なつるりとした鮫型の頭には、四本の角が生えて見えた。
ミクリがパニックになりかけたところにトゥーファンが指示を飛ばす。
「ミクリ、暫く餌を持ったまま投げれるように待機!
ガンドルさんはミクリの横まで下がって!
シオン! いくぞ!」
「ああ!」
言うと、僕とトゥーファンは竿を放り投げて剣を抜いた。
抜いてすぐ左右から鰐鮫に飛びかかる。
キィン!
この前と同じように左右からの挟撃を両手で受け止める鰐鮫。
魔力をさらに流す。
先に動いたのは鰐鮫だった。身体を捻り、その場で一回転するように僕の鉄剣とトゥーファンの紅土剣の力を逸らしてかわす。
「「いける!」」
前回は剣を折られそうになって、剣を引いた。
今回は鰐鮫が剣に押されて身をかわした。
僕とトゥーファンは付与の威力を上げるために、僕とトゥーファンしかできない方法を使った。
剣を縦に半分にした状態で付与するのだ。
そして、その上からさらに鉄や土を固めて剣を作る。
そうやって剣の表面だけではなく、中に何重にも魔法陣を重ねて描いた。
元の剣は表面に鉱化と炎熱を一つずつしか付与できなかったが、今の僕の剣は八重に魔法陣を重ねている。
トゥーファンも同じようなものだ。
こうして出来上がった付与剣ならアイツに負けない。
僕とトゥーファンは鰐鮫の正面に立たないように、鰐鮫の周りを円を描いて動く。
そして二人で鰐鮫を挟むようにして斬撃を放つ。
僕が上段から鉄剣を振り下ろし鰐鮫が手で鉄剣を受けたところで、トゥーファンが
足を払うように横薙ぎする。
鰐鮫は徐々に傷を増やしながら、海辺から陸地に移動する。
というか、僕とトゥーファンで海辺から陸の方に追い込んでいく。
「ミクリ、いけるか?」
トゥーファンの声にビクッとしたミクリが答える。
「はいっ!」
「ミクリが手に持っている餌を投げた後で、オレとシオンでアイツの動きを止める。
合図をしたら、餌を投げて、短剣を構えるんだ」
「はいっ!」
暫く僕とトゥーファンが鰐鮫と切り結んでタイミングを計る。
「今だ!」
僕とトゥーファンが一緒に上から斬りつけて、鰐鮫の両手が埋まったところで、トゥーファンが合図した。
ミクリが慌てて手に持っている兎を鰐鮫の顔に投げつけた。
兎に反応して口を大きく開く鰐鮫。
トゥーファンは素早く剣を引いて、紅土剣で鰐鮫の脚の甲を刺し貫く。
紅土剣は鰐鮫の脚を地面に縫い止めた。
鰐鮫が大きな悲鳴を上げて立ち尽くす。
続けて僕が鰐鮫の尻尾を鉄剣で縫い止める。思いっきり地面に突き刺して、動けなくする。
「「行けっ!」」
兎を投げた後、短剣を構えていたミクリが声を上げる。
「火の精霊よ、我の祈りに応えよ。
火の槍を顕現させ、我が敵を貫き給え!
火槍突!」
ミクリが足を踏み出し短剣を突き出すと、短剣から真っ赤な炎が鰐鮫の頭に向かって一直線に伸びる。
ガキィーン!
火槍突は鰐鮫の角に当たるとその光を白く変えて角を叩き折った。
鰐鮫はまるで爆発のような衝撃を頭に受けてグラリとした。
脚と尾を縫い止められた鰐鮫がその場で横倒しになる。
力を使い尽くしたミクリも膝から崩れたが、ガンドルさんが横から支えて後ろに下がる。
トゥーファンが折れた鰐鮫の角を見つけ、足元からミクリの方へ蹴り飛ばした。
アイツの動きを止めた。
アイツの角を折った。
もう一息だ。
僕とトゥーファンは、共に腰から下げた巾着をほどき、そこに手を入れて新しい剣を取り出した。
「!」
僕たちの戦いを見ていたガンドルさんがギョッと目を見開いた。
……後で内緒にしとくようにお願いしなきゃ。
これが二つ目の秘密兵器。
鋼の蛸の皮で作った巾着。その内側に空間魔法を付与した。
剣を一本しか持たないとそれが折れたときに困るし、かと言って何本も持つには嵩張るので作ってみた。
どれくらいの量や期間を保管できるのか分からないけど、とりあえず鰐鮫を倒せれば問題ない。
その巾着から取り出した剣を握る。
倒れている鰐鮫を突き刺そうとして、手で弾かれた。
トゥーファンは容赦なく紅土剣で鰐鮫を縫い止めた。
そして新しい紅土剣を巾着から取り出す。
僕も負けずに鰐鮫の腕を縫い止める。
鰐鮫は何本もの剣で貫かれて動けなくなった。
僕は縫い止めるのを止めると、身動きできない鰐鮫の首を袈裟斬りにした。
一刀両断された鰐鮫の首が落ちた。
「やったな」
「やったね」
僕とトゥーファンは顔を合わせて頷くと、ミクリとガンドルさんを見た。
ミクリは泣いている。
ガンドルさんは警戒を解いて、胡座で座り直した。
「おめでとうです」
「お疲れ様でした」
ミクリとガンドルさんが声をかけてくれる。
「ホントに何とかしちゃったです。
鰐鮫をやっつけたです。
あんなに大きな鰐鮫なのに。
すごいです。
すごいです」
ミクリが泣きながら僕たちのところに駆け寄ってくる。
「ミクリ、よくやったぞ」
トゥーファンが声をかける。
「ミクリの使った魔法、良かったよ」
実際、ミクリの魔法は威力があった。
一撃であの鰐鮫の角を折ったんだから。
僕たちは前回アイツに傷をつけることができなかった。
「あの魔法はとっておきの火魔法です。
あの魔法のために、短剣に炎熱を付与したです。
炎の槍です。
それを短剣でパワーアップしたです」
「ガンドルさん、さっきの角を」
トゥーファンが促すとガンドルさんは鰐鮫の角を取り出した。
「お前が折った鰐鮫の角だ。よくやったな、ミクリ」
ガンドルさんが膝をついてミクリの視線と高さを合わせてから、鰐鮫の角を渡すと、ミクリが泣き始める。
「父ちゃん、父ちゃん」
ミクリが角を握り、ガンドルさんに抱きつき泣きじゃくった。




