第四十一話 フォムアルフトの伝説
グランデン大陸の南東にあるフォシアン島。
フォシアン島の北にはグランソルの海が広がっている。
グランソルの海は海産物の豊富な海で、グランデン大陸からもフォシアン島からも魚を求めて漁船が多く出てた。
グランソルの海には黄金子龍と言われる龍のような魚がいる。
黄金子龍には虹のように輝く鱗があり、透明な身は万病に効くと言われる。
漁師は競って黄金子龍を狙った。
黄金子龍は海にとって大事な龍の子だった。
海の王は龍の子を狙う漁師を懲らしめることにした。
そして嵐の子ダゴンをグランソルの海に遣わした。
嵐の子ダゴンは漁師を見つけると海を嵐にした、
グランソルの海は嵐が続くようになり、漁師たちは漁ができなくなった。
フォシアン島の漁師たちは困った。
元々小さな島である。漁ができないと食べ物にも困る。
グランデン大陸からの交易船が滞ると、島での生活すら維持できなくなる。
フォシアン島の漁師たちはフォムアルフトの星に海の怒りを鎮めてくれるように祈った。
フォムアルフトの星は漁師が崇拝する南天の星だ。南天の空にあり、常に他の星よりも明るく黄色に輝いている。
漁師たちは海の上で、夜になるとこの星に祈る。
船を導き、無事に陸地に帰してくれるように。
漁師たちは昔々からこのフォムアルフトの星を崇拝していた。そして、フォムアルフトの星も遠くから漁師たちを見守っていた。
フォムアルフトは漁師たちの願いを聞き、漁師の護りを遣わした。
フォムアルフトの護りはフォシアン島に舞い降りた。
星から来た護りは龍の姿をしていた。
八翼の黄龍。これこそが海星守のフォムアルフトである。
海星守フォムアルフトは漁師たちの話しを聞き、嵐を止めるために海に向かうことにした。
嵐の子ダゴンは海星守フォムアルフトが来たことに驚き、嵐を止めた。
そして話し合いのために姿を見せた。
人の頭を持ち馬の身体に魚の尾を持つ黒嵐、四腕六脚八尾の暴嵐魔ダゴンである。
暴嵐魔ダゴンは海星守フォムアルフトに問うた。
「汝、何しにこの海に来た?」
ダゴンの問いにフォムアルフトが答える。
「我、漁師を導くためにここに来た」
「これは可笑しい。
漁師が道を誤ったから私が懲らしめている。
余計な邪魔はしないでもらいたい」
ダゴンはフォムアルフトの言葉を退けた。
しかし、フォムアルフトも後ろに退けない。
「漁師を導くのは我の役である。
そちらこそ余計な邪魔はしないで頂きたい」
「汝の力が不足しておるから、漁師は道を誤ったのであろう。無駄なことは諦めて、星に帰るが良い」
「力が不足しているかどうか、我の力を見るが良い」
こうして、海星守フォムアルフトと暴嵐魔ダゴンの争いが始まった。
暴嵐魔ダゴンは嵐を起こし海星守フォムアルフトを海に叩きつけ陸に押し流そうとした。
しかし海星守フォムアルフトは嵐の中でも八枚の翼を使い、暴嵐魔ダゴンを追い詰め流星の槍で殴った。
暴嵐魔ダゴンは空での戦いは不利と覚り、海の上を六脚の馬の脚で走り、不利になると海の中を八本の尾で泳ぎ逃げた。
そして距離ができると雷鳴の剣で雷を落として海星守フォムアルフトの翼に傷を負わせた。
海星守フォムアルフトは海の上では暴嵐魔ダゴンに逃げられるので、一計を案じた。
翼に傷を負った振りをして、陸地に逃げたのだ。
暴嵐魔ダゴンは喜んで海星守フォムアルフトの後を追った。自分が誘われてると思いもせすに。
海星守フォムアルフトが逃げたのは、フォシアン島の北、砂浜と断崖が交互に続く海岸だった。
暴嵐魔ダゴンは雷鳴の剣を使い、あちこちに雷を落としながら海星守フォムアルフトを追い立てる。
海星守フォムアルフトは断崖の上まで逃げると、暴嵐魔ダゴンが追ってくるのを待った。
そして暴嵐魔ダゴンが断崖の上まで来たとき、流星の槍を天に掲げた。
すると、突然南天の星フォムアルフトが紅く輝き、空から星が落ちて来た。
星はいくつも海岸に落ち、辺り一面の地形が変わった。
暴嵐魔ダゴンは逃げようとしたが、地形が変わり上手く走れなかった。
海星守フォムアルフトに追われて、尾を一本ずつ、脚を一脚ずつ傷つけられて動けなくなった。
海星守フォムアルフトはフォシアン島の北に祠を作り、傷ついた暴嵐魔ダゴンを拘束して、暴嵐魔ダゴンが嵐を起こさないように見張っている。
こうして海星守フォムアルフトが漁師たちを導くことになった。
漁師たちがフォムアルフトを裏切ると暴嵐魔ダゴンの拘束が解けて、海に嵐がやってくる。
これがフォムアルフトの伝説だ。
僕とトゥーファンは自分たちで付与するために毎日ガンドルさんの工房に来てる。
ちょっと息抜きでガンドルさんの作業を見ながら、フォムアルフトの神殿について聞いたら教えてくれた。
「しかし、フォムアルフトの神殿って。
祭りが近づいて街で色々噂でも聞いてきたのか?」
「いや、知らないけど。
街で噂になるようなことがあるの?」
「そうだな。
フォムアルフトの神殿は六十年に一度しか行けないからな。街でも神殿に行ったことがあるのはほんの一握りだ。
しかも、六十年前のときは酷い災難があったとかで、帰ってきた人が少なかったらしい。
六十年に一度の祭りだからみんな興味津々さ」
「六十年に一度ってどういうこと?」
「そりゃあ、六十年に一度だけ潮の道が開いて神殿に行けるんだよ。
それが今年なんだ」
「六十年に一度。街の人が神殿に行けるの?」
「あぁ、六十年に一度だけ、潮の道が開く。
そのときは街から神殿に行くことができる。
来月その祭りがあるから、神殿の噂を聞いたんじゃないのか?」
「へぇー。そうなんだ」
僕は納得しつつ、ミクリのことを話すかどうか悩んだ。
そして、結局話さなかった。
話すなら自分で話した方がいいだろう。
「特別な首飾りがあるって聞いたけど、何が特別なの?」
「あぁ、フォムアルサクティ島は封印されてるって知ってるか?」
「うん。ちょっと聞いた」
「フォムアルサクティ島には封印があってな、潮の道が開くのが六十年に一度だ。
そして道が開いてもフォムアルフトの首飾りがないと門の中には入れない。
なんでも神聖な鰐鮫の角で作ったフォムアルフトの首飾りがないと入れないらしい。
つまり潮の道が開いてもフォムアルフトの首飾りがないと島に入れない。祭りの日でも首飾りがないと神殿に行けないっていう二段構えの封印だそうだ」
「そのフォムアルフトの首飾りは作れないの?」
「教会には秘伝の技があるらしいが、そもそも鰐鮫の角がないと作れないみたいだからな。
そんな貴重な首飾りが、六十年前の祭りで島に入った巫女たちの半分が帰れなかったって聞いた。
帰れなかった人の首飾りがどうなったか知らないが、多分、首飾りをつけたまま帰って来れなかったんだろう。
教会が困ってるらしいが、それは首飾りのことだと思う」
「首飾りが少なくて困ってる?」
「多分な。
祭りを行うには、巫女がフォムアルフトの神殿に行かなきゃならないからな」
「簡単には行けないんだね」
「そういうことだ」
「ありがとう。教えてもらえて助かったよ」
「大したことじゃないさ。昔、妻が色々と調べていたからな」
ガンドルさんは寂しそうに呟いた。
その後、僕とトゥーファンも付与しに工房に戻った。
工房に戻ったらトゥーファンがこっそり耳うちしてきた。
「まずは鰐鮫の角、それからフォムアルフトの首環作り、まだまだミクリの夢は遠いな」
「しかも、一ヶ月後。
そしてそれを逃すと六十年後」
「なかなか難易度が高いな」
そんな風に話してるとミクリが割って入ってきた。
「何の話をしてるです?
頑張らないと付与できないです。
私はもうすぐできそうですよ。
だから、ちょっとなら教えてあげてもいいです」
トゥーファンがこっちを見た。
まぁ、聞きたいことはたくさんあるし、ミクリの話しは僕が引き受けよう。
「それじゃあ、魔法陣について終えてもらおうかな。
付与の魔法陣の見本があるけど、もっと強い魔法陣とかってないの?」
実はガンドルさんに魔法陣の見本をいくつか見せてもらった。
でも、初歩的な魔法陣がほとんどで、僕やトゥーファンが使うような大規模な魔法や強力な魔法はなかった。
どうせなら強力な魔法陣を組み込みたいんだよね。
「強力な魔法は魔法陣が大きくなるです。
だから大きなものにしか付与できないです。
それに大きな魔法陣はたくさん魔力がいるです。
魔力がなくなると動かせないです。
だから小さな魔法陣を描いて、込める魔力で調整する方が使いやすいです」
「へぇー。なるほどね。
大きな魔法陣がない訳じゃなくて、使いにくいからなのか」
「そうです。
水桶に付ける魔法陣も大き過ぎると使いにくいです。
短刀に付けるときも、短刀の大きさに合った使いやすい魔法陣を付与するです。
魔法陣が大きいと解体するとき疲れるです。
疲れると付与の効果も弱くなるです。だから疲れないのは大事です」
おぉ! ミクリがいいこと言ってる。
「ありがとう。
とても参考になるよ。
ちなみにミクリが付与した魔法陣で一番大きいのは何?」
「……小さい頃に描いた氷結の魔法陣です」
「小さい頃からやってるんだ、さすが付与一家」
「……爺ちゃんの魔法陣を真似したら大きな魔法陣になって、魔力流したら気持ち悪くなって、工房でオエッてして、父ちゃんにムチャクチャ怒られたです」
「……。
魔法陣が大きくて魔力が足りなかった、のかな?」
「だから、大き過ぎる魔法陣は使いにくいです」
……ゴメン、ミクリ。
聞かない方が良かった。




