第四十話 ミクリの告白
お昼寝から目覚めたミクリを加え、四人で鋼の魔魚を解体した。
まずは昨日の復習で、いきなり僕とトゥーファンが鋼の亀を解体した。
今回は計画的に鋼の亀の血を器に取った。
解体するときに付与された短刀を使ったのだけど、恐ろしい斬れ味だった。
魔力を流す前は全然切れなかったのに、魔力を流すとスーッと刃が入った。
短刀には鉱化と炎熱が二重付与してあるって言ってた。
金属性の鉱化だけでもいいけど、鋼の亀が金属性なので弱点属性の火属性を加えることでより強化してる。
ただ、火属性と言っても火を吹いたり熱くなり過ぎると扱いにくいため、刃先だけを少し熱くする程度の炎熱を付与してるらしい。
二匹目は鋼の海豹をガンドルさんとミクリ、そしてお爺さんの三人がかりで解体した。
鋼の海豹は亜水晶と毛皮が大事らしい。
皮をよく見てみると細かな毛が生えていて対打撃、対斬撃、対魔法に優れてる。
ミクリは初めて解体すると言っていたが、なかなか堂々とした作業振りだ。
亜水晶は身体の中央、心臓の位置に一際大きなものがあり、銀色の綺麗な光沢を見せている。
元の身体の大きさに比例して大きくなるようだ。
最後はガンドルさんが一人で鋼の蛸を解体した。
ミクリと違って、圧倒的に早い。
解説をしながら鋼の蛸をサクサクと小さくしていく様子は圧巻だった。
後から触手のような足を触らせてもらったが、付与してある短刀でも簡単には切れなかった。
ミクリとは別次元の技を見て興奮した。
そして、翌日から付与の修行が始まった。
最初は膠晶液をつくる。
膠晶液は魔法陣を描く塗料だ。亜水晶を砕いて水に溶いてベースを作る。
混ぜるのは迷宮産のシロハマ草の花の油、迷宮産の兎の内臓で作った煮こごりなどで、ベースの水溶液に粘りをつける。
これで魔法陣を描き定着させる。魔力を流すと魔法が発動する。
考え方はエルフの里と同じだ。
魔力の濃い素材を使い絵具を作る。
その絵具で魔法陣を描くと、魔力の流れの良い魔法陣が描ける。
翌日は金属性魔法、鉱化の魔法陣を描いた。
一筆書きの要領で魔力が途切れずに全体に行き渡るように描くことが大事だ。
強弱をつけることで文字を浮き上がらせることもできる。文字による魔法の宣言は図による魔法の効果発動よりも明示的なので、文字を巧く使うと魔法陣の効果が上がる。
ミクリには及ばないが、僕は鉄剣へ、トゥーファンは土剣への付与に成功した。
翌日は火属性魔法の炎熱を描いた。
前日の鉱化よりも簡単に描けたのは、膠晶液の扱いに慣れたからだろう。
膠晶液の伸びが良いと描きやすいが、乾燥すると伸びが悪くなりスムーズな線が描けなくなる。
かといって水で薄めたりすると、膠晶液の濃度が変わり、魔力の流れが乱れる。
そうすると、魔法陣の効果が落ちる。
更に翌日、二重付与をした。
鉱化と炎熱の魔法陣が干渉しないように独立して描くとそれぞれの魔法陣が効果を発揮する。
注意するのは二つの魔法陣が干渉しない、つまりくっついたり重なったりしないようにする。
くっつくと魔力の流れが乱れて両方とも発動しない。
それから魔法陣の大きさと形。
限られたスペースで魔法陣を二つ書く必要があるが、それぞれの形や配置、バランスに良い、悪いがある。
魔法陣の形は円形が一番魔力の流れがスムーズだが、二つになると配置と組み合わせの結果に明暗がでる。
シンプルに二つの魔法陣をそれぞれ独立して書くこともできる。しかしスペースに限りがあると、大きな円の内側に一つ目、外側に二つ目を描いたり、右半分と左半分に分けてそれぞれを中央で繋ぐなど色々な方法がある。
人が魔法を使うときに、詠唱の違いや魔力の違いによって差が出る。それと同じように魔法陣の組み合わせ方によっても効果が違うみたいだ。
膠晶液の作り方から魔法陣の描き方まで四日間で基本を学び、その後は自分で試行錯誤することになった。
僕とトゥーファンは鉱化と炎熱の二重付与を行う。
武器は自分で作って用意する。
……ミクリは悩んでる。
「ミクリ、どうした?
何を悩んでるんだ?」
ガンドルさんは自分たちで考えろ、と言って工房から出て行った。残っているのは、僕とトゥーファン、ミクリの三人だ。
「……私は、……私は強くなりたいです。
そのために強い武器が欲しい!」
ミクリは僕を睨むように見つめて言った。
「どうしたんだ?
ミクリ?」
ミクリが何かを躊躇っている。
「オレたちと同じように、ミクリにも目的がある、ってことだろ」
トゥーファンが横から手を差し伸べるように言葉を促した。
「……私は、強くなりたい!
強くなって、鰐鮫を!」
! 鰐鮫!
この前、ガンドルさんから聞いた名前?
「……ミクリ、僕たちにも教えてくれないか?」
僕とトゥーファンはミクリを椅子に座らせると、机を挟んで座った。
「……私は強くなりたいです。
強くなって、鰐鮫の角を狩りたい。
鰐鮫の角には特別な力があって、フォムアルサクティ島に入れるから」
?
角?
フォムアルサクティ島?
「ミクリ、鰐鮫の角って何?」
ミクリはそれまでの自分の葛藤を忘れたようだ。
目をパチパチさせてシオンの顔を見てる。
「そうでした。
シオンもトゥーファンも知らないです。
なら、私が教えて上げるです。
知らないから教えてあげるです。
ニコキュリオスには伝説があるです。
このダゴン迷宮と対になるフォムアルフト神殿の伝説です。
沖にあるフォムアルサクティ島にフォムアルフト神殿があるです。
私はその神殿に行きたい!」
「へぇ、そんな神殿があるんだ。
でも、簡単に行けないの?」
「フォムアルサクティ島は特別です。
フォムアルフト神殿には海の魔物が封印されています。海の魔物は海を荒らすので海に出られないように封印したのです。封印だから魔物は神殿から出られないです。恐い魔物は強かったので、倒すことができなくて封印しかできなかったです。
でも、神殿が壊されたら魔物の封印まで壊れます。
だから、神殿ごと島も封印したです。
誰も入れないように封印されたです」
「島を封印?」
「そうです。
封印です。
フォムアルサクティ島は封印されていて入れないです。フォムアルフト神殿も封印されていて入れないです。
だから、神殿の壁画が見れないです。
でも私は神殿の壁画を見たいです」
「壁画があるんだ?
って、それよりも鰐鮫はどこで出てくるの?」
「あ、忘れてたです。
封印されてるフォムアルサクティ島に入るには、鰐鮫の角が要るです。
封印された島でも、神聖な鰐鮫だけはフォムアルサクティ島に入ることができるです。鰐鮫の角を持ってると人間も封印の中に入れるです。
鰐鮫の角は教会にもあるですけど、私は使えないです。
だから、自分で鰐鮫の角を見つけるです」
「鰐鮫の角を見つける?」
「そうです。
迷宮にある宝箱の中に鰐鮫の角があるです。
神聖な鰐鮫の角は宝箱に仕舞われているです」
「うーん。その角があると島の封印が解けるの?」
「封印は解けないです。
角を持ってると封印がかかっていても中に入れるです。
角を持っている人だけ中に入ることができるです」
「不思議な封印だね。
それでいいのか不安だけど」
「鰐鮫は神聖な生き物だから、大丈夫です。
神殿を守るため必要なのです。
封印の中に入らないと守れないです」
「なるほど。
ということは、ミクリはフォムアルサクティ島に行くために鰐鮫の角が欲しい。鰐鮫の角を手に入れるには、迷宮の宝箱を手に入れる必要があるってことだな」
そこでトゥーファンが話しに入ってきた。
「ミクリは短剣に何個付与できる?
迷宮は危険だ。
宝箱を手に入れるためには鋼の魔魚を倒すか、場合によっては逃げなきゃならない。
ミクリには何が必要だ?」
「何が必要?」
「そうだ。
オレとシオンは鋼の魔魚と戦って、剣が折れた。
だから剣が折れないように鉱化を選んだ。それだけではもっと硬い魔魚には歯が立たない。だから炎熱を選んだ。
オレたちは二重付与が精一杯だからな。重要な力を二つ選んだ。
ミクリには何が必要だと思う?」
トゥーファンはミクリに考えさせる。
ミクリは悩んでいるが、さっきの悩み方とは違うような気がする。
「私は戦えないです。
だから自分を守ります。みんなを守るです。
一つ目は氷結。氷で壁を作ったり、動きを止めるです。
二つ目は風飛。風で相手を飛ばします。
そして三つ目は炎熱。私の火魔法を強化する」
ミクリは自分の短剣を目の前に掲げて目標を決めた。
「うん。
いい考えだ。自分にできること、できないこと。
そして自分がしたいことがはっきりしてる」
「あ、ありがとうです、トゥーファン」
トゥーファンが合格点をつけた。
トゥーファンはこういうの上手いよな。
……王様だからか?




