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第三十四話 釣り迷宮

 

 翌朝、宿で軽く腹拵えをして迷宮に向けて出発した。

 迷宮へ、というか気分は釣りそのものだ。

 一応、糸と釣り針は何種類か用意した。

 釣竿は現地で考えることにして、餌も途中で迷宮内の獣を狩って用意するつもりだ。

 一階層から九階層までは平原って言ってたし、兎とかいるだろう。


 他に考えたことは、どの階段を降りると人が少なそうか? ぐらいだ。

 釣りだから人のいない方がいいだろう。

 人がいない釣場は魚もいないかも知れないが、その時は移動すれば良いし。


 街を出て西に進むとすぐに砂浜が見えてくる。

 砂浜の手前で北に向かうと岩場と断崖が続く場所に迷宮の入口があり、人が溢れてた。


 奥の方の岩場には大きな洞窟が見える。あれが迷宮の入口だろう。

 その手前に広場があり、広場を一周鉄柵が囲っている。そして一箇所出入り口が設けてあり、そこで衛兵のような職員が入場管理をしている。

 横には小さな小屋もある。そっちには迷宮から出てくる人が入っていく。


 入口の列に並び進むと衛兵さんが声をかけて来た。


「見ない顔だな。

 ライセンス証を見せてくれないか?」


「はい。これです」


 トゥーファンのと僕のを合わせて二枚見せる。


「ほお、一つ星(シングル)か。

 釣竿はどうする?」


「釣竿は釣場を見てから考えます」


「そうか、何かあれば声をかけてくれ。頑張れよ」


 ……何だか印象の良いお兄さんだった。

 衛兵なのか職員なのか、ギルドの関係者か街の役人かも分からなかった。

 でも、何だか釣れそうな気がする。


 ライセンス証をしまって、迷宮の入口を(くぐ)る。


 入口を抜けるとそこは、……草原だった。

 一瞬目を疑う。

 さっきまで岩場の断崖にいたのに、迷宮の洞窟に入ると草原。しかも中に太陽がある。ってことはずっと昼間?それか、夜になると月が現れるかも知れない。


 迷宮の地図を出して方角を確認する。

 入口から真っ直ぐ行くと地下二階層目の階段があるのだが、ここでは左に進み奥の方の階段を目指す。


 地図の読み方も問題なく合っているようだ。

 そろそろと思った頃に階段が見つかった。

 入口は大混雑していたが、皆それぞれ目的の釣場に行くのだろう、一階で大分バラけている。

 僕たちの方に行く冒険者は少ないようだ。


 階段を降りるとそこは、……また草原だった。

 地下二階層に入っても、草原だ。

 一階層と同じように頭上に太陽がある。

 説明聞いてなかったら混乱してるな。うん。訳が分からない。迷宮ってこんな不思議なところなんだ、と受け入れるしかない。


「トゥーファンは迷宮に入ったことあるの?」


「いや、ないな」


「迷宮って、こんななの?」


「うん? こんな風なんだろう……。

 昔聞いたときはボスモンスターがいるとか、宝箱があるとか、そんな内容だったと思うが」


「この迷宮が特殊なのかな?」


「迷宮ごとに特徴がある、と聞いた気がするから、他の迷宮も似たようなもんじゃないか」


「そうなんだ。

 ライセンスが要るから、多分どこかに危険があるんだよね?」


「恐らくこの雰囲気なら十階までは大丈夫だろう」


 二人で平和な平原を歩き続けた。


 たまに地図を確認して迷子にならないように階段の場所を調べながら階層を降りる。

 兎を見つけたら素早く仕留めて、麻袋に入れていく。


 順調に迷宮を進んだ。


 最終、十階層に入ると様子が変わった。


「十階層に着いた。

 ここは、海岸だね」


 そこは入り組んだ海岸だった。

 砂浜、岩場、断崖が色々と組み合わさって特殊な景観になっている。

 そして、波も高いところや穏やかなところが混ざってる。


「すみません。

 今日は魚いますか?」


 とりあえず階段の近くにいた冒険者に聞いてみる。


「ん? 新人かい?

 今日はそんなに釣れてないよ。

 竿や餌はあるかい? 無かったら売るよ」


 おぅ、入口付近で釣りをしながら竿や餌を売ってるとは思わなかった。


「この辺では、何の餌が主流ですか?」


「そりゃ兎だろう。

 九階に戻れば手に入れれるからな。

 けど、俺の餌は兎と特別製のタレが付いてくるぜ。

 一羽銀貨ニ枚でどうだい?」


「あ、まだ途中で捕まえたヤツがあるんで、また今度教えて下さい」


 一羽で銀貨二枚が高いのか安いのかも分からない。

 でも特別製のタレは気になるなぁ。


 ちょっと歩いて別の人にも聞いてみる。


「どうですか? 今日は釣れてますか?」


「小さいのがぼちぼち釣れてるようだよ」


「へぇー。

 ちなみに皆さん餌は何が良さそうですか?」


「この辺は兎が多いかなぁ。その辺はみんな秘密にしてるから場所決めてたら釣ってる連中を見て回った方がいいかもな」


「ありがとうございます」


 親切なおじさんだった。

 餌が秘密って、さっきのタレみたいに工夫がいるのか? 一筋縄じゃいかないなぁ。


「トゥーファン、どの辺にする?」


「初めてだし、ちょっとした岩場になってるあの辺りにしないか?」


「あぁ、人もいないし、良さそうだね」


 僕とトゥーファンはそれぞれ座りやすそうな岩を選び、釣場を決めた。


伸竹厘(しんちくりん)


 木魔法で細長い竹を出す。長い割には恐ろしく軽い竹だ。そして魔法で強度も増してある。

 獲物によってしなり強度などを考えるとキリがないが、お試しなら十分だろう。

 生み出した竹をトゥーファンに渡して、もう一度魔法を繰り返す。


伸竹厘(しんちくりん)


 今度は僕用の竿だ。


 仕掛けはお互いに内緒でコソコソと竿に結ぶ。

 餌もコソコソと麻袋の中で短剣を扱い兎を捌く。


 一投目、僕は少し遠くに糸を垂らし、トゥーファンは結構近場に糸を垂らした。


 最初に来たのはトゥーファンだ。


 掌ほどの魚を簡単に釣り上げた。


 おっ、やるなぁ。


 暫くして、また同じような魚を釣り上げる。




 トントン拍子でトゥーファンが五、六匹の魚を釣った。

 僕の方はアタリすら無い。

 トゥーファンは小さな甕を魔法で作って魚をそこに入れてる。今度はすこし仕掛けを大きくするようだ。

 僕はちょっとだけ確認のつもりで竿をあげたら、まだ餌が残ってた。


 暇なので竿をそのままにして、その辺の人の釣り方を調査してくることにした。


「トゥーファン、ちょっとその辺見てくるよ」


「あぁ、あまり遠くに行くなよ」


 トゥーファンは小さな土鈴を作って竿先に付けてる。


「あ、その土鈴、僕にも頂戴よ」


 トゥーファンに向かって手を合わせたら、ポイッと放ってくれた。

 竿先に土鈴を括り付けて、情報収集に向かう。




 何人かを見て回ったところ、総じて竿が短い。

 これはここまで降りてくるのに邪魔だからだ。

 僕たちも降りてくるのに一刻ほどかかった。

 継木の竿を使ってる人もいない。割と頑丈な竿を選んでるようだから、継木だと強度が足りないのかも知れない。


 餌は兎が主流だ。

 人によっては結構大きくカットしている。大物を狙う場合は仕掛けと餌を大きなものにしないと難しいのだろう。


 そうやって歩き回りながらその辺の花を摘んできた。

 試しにシオンブレンドの餌を作ってみようと思う。


 釣場に戻るとトゥーファンが釣竿を立て掛ける竿台を作ってた。


「それも便利そうだね」


「あぁ。

 どうだった? 大物を釣ってる人はいたか?」


「うーん。……大物はいなかった」


「そうか、ならもう少し様子を見ないと分からないか」


「? 何かあるの?」


「いや、何を狙うか決めずに釣ってても、大物は釣れないだろう。だから、せめてどんな魚か見てみたかったんだが……」


「そうだね。

 大物狙いの人は人差し指の先ぐらいの仕掛けに兎の脚を一本丸々刺してたよ」


「ほぉー」


 トゥーファンが顎に手を当てて考えてる。


「それから、僕が作ったような細い竿は誰も使ってないね。みんなちょっと長い鍬みたいな丈夫な竿が基本みたいだよ」


「ふぅーん。流石、シオンだ。

 みんなの狙いは同じように引きが強くて重いヤツなんだろうな。

 竿を変えた方がいいか?」


「大丈夫じゃないかな。

 この竿は細いけど、かなり丈夫だよ。

 それよりは餌を考えた方がいいかも知れない。

 みんなちょっと癖のある匂い付けしてるみたいだ」


「なら、早速試してみるか。

 オレはこの魚でも混ぜるかな」


 トゥーファンは何か納得したみたいだ。竿を上げてコソコソし始めた。


 僕も竿を上げると秘策の花を兎肉に揉み込んでから糸を垂らした。


 暫くして急に竿が大きくしなった。

 おおっ、これは大物かも。




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