第三十話 光剣
サバスさんを見ると、僕が逃げるのを諦めたからか、少しずつ人狼にダメージを与えている。
人狼の肩や脚、至るところに血が付いている。
でも、動きは全然変わらない。
鋼のような毛で覆われているため表面的な傷しかつけられないようだ。
その時、サバスさんの動きに一瞬躊躇いができた。
僕を包囲していた狼の動きがサバスさんの動きと交錯し、サバスさんが踏み止まった。
狼とサバスさんがぶつかり合い何とか転がることを避けたけど、動きが止まったサバスさんに人狼が腕を振り下ろした。
サバスさんなら避けれた筈だが、狼を庇いもろに殴打を受け地面に叩きつけられた。
サバスさんの身体が地面に打ち付けられ大きく弾む。
ぐはっ!
サバスさんが口から血を吹いた。
内臓が潰されたか、肋骨が折れたか。
僕はサバスさんと人狼の間に割り込み魔剣で爪を受けた。
凄い力だ。
片手の人狼に対して両手で剣を支えるのが精一杯だ。
その間に人狼の左手が襲ってくる。
人狼の右手の力を上に逸らし、自分は転がり出して身をかわした。
サバスさんを探すと、サバスさんは倒れている狼を庇ってまた人狼の一撃を受けるところだった。
サバスさんが吹き飛ばされ転がっていく。
それを追って人狼が跳躍した。
咄嗟に魔剣を投げつける。
人狼は空中で魔剣を払いのけると、そのままサバスさんに掴みかかろうとする。
「光剣!」
魔剣を投げてしまい、手元には人狼を防ぐ術がない。
とにかく速くてかわしようのない剣を光魔法で作り、人狼に投げつけた。
速さだけを意識して作ったが、ちゃんと剣の形になって飛ばせた。
人狼は魔剣と同じように弾こうとするが、逆に光剣に弾かれる。
光剣を弾こうとした腕が光剣の勢いで上に弾かれ、身体も上に飛ばされた。
?!
行ける!
「光剣!」
「光剣!」
「光剣!」
次々と光の剣を人狼にぶつけると、人狼が耐え切れるずたたらを踏み、後ろに倒れた。
勢いで放った魔法だが光剣は速いだけではなく、重い攻撃のようだ。
……当たると消えるが、今のところ人狼に切り傷はない。光の剣だけど斬れ味はそうでもないみたい。
もう少し慣れれば色々とできるかも知れないが、今はサバスさんが先だ!
「光剣!」
「光剣!」
「光剣!」
人狼が腕を十字に組み防御しているが、光剣の圧を受け止めきれていない。
光剣が当たるたびに一歩一歩後退る。
「サバスさん!」
サバスさんに駆け寄った。
「うっ!
……神父が?」
?
「いえ。何言ってるんですか。
それより逃げますよ!」
僕はサバスさんを庇い、周囲を警戒した。
人狼だけではなく、狼たちもまだ動けるやつがいる。
「俺は……大丈夫だ……」
「それよりも……光の剣で…」
「奴を……」
「救ってくれ……」
「ぐはっ!」
サバスさんは血を吐いて蹲ってしまった。
「サバスさん!!」
光の剣で救えって。
どうやって?
「光剣!」
光の剣を出し手に握った。
握れた。
さっきまでは光剣を飛ばして人狼にぶつけていただけだ。
初めて光剣を握り中段に構えた。
淡い光を発する剣。
ものすごく軽い。魔剣と比べると重さがないようだ。
しかし、これで人狼とやり合えるのか?
光剣の握りを確かめていると、体勢を立て直した人狼がゆっくりと近付いてくる。
「ギギャーアァー!」
人狼は雄叫びをあげると左右の手を振ってきた。
踏み込んで光剣で爪を受ける。
受けてすぐ横に流して、反対の手を受ける。
いける。
光剣には充分な強さがありそうだ。
受けている爪を上に流して一歩後ろに下がる。がら空きになった胴に光剣を振りつけると人狼は脚で光剣を受けた。
人狼の大きな身体に相応しい重量を感じる。
光剣を脚で蹴りあげられたが、逆らわずに円を描くように勢いを吸収して元の位置に戻す。
右、左、右と次々と振るわれる腕をいなして懐に入ろうとするが、脚を蹴り上げられて懐に入れない。
蹴りを半身に捻って躱すと手刀を突き出してくるし、爪を光剣で受けて動きを止めると体重を乗せた前蹴りがくる。
光剣が人狼の爪に負けないので攻撃を反らしているが、力をまともに受け続けるとこちらの身体が保たない。
動き続けていないと、体格と力に押し込まれる。
何合か打ち合っては、人狼の周りを回るようにして位置取っている内に狼たちまで間合いに入ってくるようになってしまった。
周囲の狼に気をとられた瞬間、人狼の拳が地面スレスレの位置から鳩尾を抉った。
がふっ!
痛てぇ!
モロに一撃を喰らい、宙に浮かされた僕の身体を光が包む。
指輪!
ホウランの指輪が反応して回復魔法が発動した。
助かった。
すっかり忘れていたが同時に支援効果もかかった。
ダメージを回復し支援効果で強化された勢いで宙に舞った体勢から後方に一回転して着地した。
人狼の追撃を力任せに光剣で相殺し、攻撃が途切れたところで距離を取る。
距離を取って仕切り直そうとしたところに狼が飛びかかってきたので、光剣ではたき更に距離をとろうとした。
……が、狼の突進を喰らってしまった。
バランスを崩して転げまわる。
何?
光剣で狼をはじいたはずなのに。
疲れか。
知らず知らずの内に人狼の重い斬撃で体力を消耗しているのかも知れない。
一旦飛び退ったところに違う狼が牙を剥いてくる。
まずい。
かわせない間合いだ。
光剣を狼の開いた口に向けて振り抜いた。
飛んできた狼は口から一気に光剣で頭を切り裂かれる筈だったのに、光剣は空を切った。
何?
狼が光剣をすり抜けた。
二度目だ。
狼の牙が左肩のあたりを掠め、激痛が走る。
服が避け左肩から血が出てる。
大丈夫だ。牙は掠った程度で、狼が肩にぶつかった衝撃だ。
狼を仕留めたと思ったのに逆にダメージを受けてしまった。
距離を取った筈の人狼がこちらに向かってくる。
不安を払拭するために光剣を噛み付いてきた狼に投げつけた。
光剣は一直線に狼に向かい、胴に当たると消えた。
……しかし、狼に傷はない。
どういうことだ?
不審に思って確かめるために光剣を狼に投げたが、実際に無傷の狼を見ると訳が分からない。
さっきまで人狼の攻撃を受けてきた光剣が狼に効かない。
「光剣!」
念のため光剣を人狼に飛ばしてみる。
人狼は左腕で防御し光剣を受けたが、光剣に押されて二、三歩下がった。
うん。
今までと同じように攻撃が効いている。
じゃあ何故、狼に効かない?
人狼に背を向けて走り出し、距離を稼ぐと、周囲を確認する。
サバスさんからは離れたが、サバスさんの方には狼がいないので大丈夫だろう。ミアの土宮も無事だ。
僕を包囲している狼も大体は遠巻きにしている。
近くにいるのは二、三頭だけだ。
「光剣!」
その内の一頭に光剣を放った。
距離があったのでかわされて脚に当たったが、何のダメージもなさそうだ。
光剣は狼に効かない。
人狼にだけ効く。
サバスさんの言葉が蘇る。
「光の剣で、救ってくれ」




