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第三話 巣穴


「貸して」


 ホウスウから剣を返してもらう。

 剣を使わないホウランが興味がなさそうだが続ける。


「見ててね」


 ヴォン。

 ヴヴヴォォォン。


 僕が剣に魔力を流すと剣から異音が発生した。


 ヴン。

 ヴォン。

 ヴォン。


 軽く振り回すとオモチャのようだ。


「魔力を流すとこんな音が出ちゃうんだよね」


 足元の石コロを拾うと軽く放り投げて、落ちてくるところを剣で切った。


「「!!」」


 石は音もなく真っ二つに斬れた。


「お!すげぇ」


「すごいでしょ」


「何でも斬れるの?」

ホウランも少し興味を持ったようだ。

ホウスウの方は顎を擦りながらやり取りを見てる。


「どれぐらい斬れるか分かんないんだ。

だから、試し斬り」


「その剣、私にも使える?」


「多分、大丈夫。

試してみてよ。はい」


 剣をホウランに渡した。


「ちょっと重いかな。

でも振れないほどじゃないわ」

ホウランが剣を構えた。

剣を使うことがない割にはちゃんとしてる。


 ヴォン。


 魔力を流したようで異音、いや駆動音が出た。


 ヴォン。

 ヴォー。


「斬れ味が段違いだから慎重に振り回してよ」


 音の出るオモチャで遊んでる感じだ。

 気に入ってるみたいだし説明を続けよう。


「使ってる魔法は空間魔法の初級。空間拡張と圧縮。

それを剣の表面にまだらに発生させてる。

そして、流れる魔力が均一にならず波打つようにする回路を足して、結果、全体の空間魔法に強弱ができて拡張と圧縮を繰り返してる」


「へぇー。

だから魔力を加減してないのに、この音がヴォンヴォン鳴るのね」

ホウランが剣を振り回しながら音を出してる。

さっきまでと違い楽しそうだ。


「姉貴、魔力を強くするとどうなる?」

やっぱりホウスウも興味があるのだろう、ホウランに聞いてる。


 ヴィン!


「強く流すと、空間魔法も強くなるようね。

でも、違いは分からないわ」


「じゃあ、ギリギリまで小さくしたら?」


 ウゥー。


「音は小さくなるようね」


 ホウランは言いながら小石を拾った。


 左手で放り投げると落ちてきたところを剣に載せようとする。

 剣先を水平にして小石を受けると、小石がシュンという音ともに粉になった。


「「?!」」


「あ、剣の表面は常に空間が捻れてるんだよ。

空間の亀裂が無数にあるんだと思うよ。

空間を切り裂き続けてるんだから、剣の腹でも小石なんかは粉々になるみたい」


「なんだそれ?

剣の腹でも切り刻めるってことか?」

ホウスウは理論が気になるようだ。


「けど、すごい斬れ方ね。私も短刀が欲しいな。

シオン、作ってよ」

ホウランは気に入ったみたいだ。感覚派だから理論はどうでもいいんだろう。


「ちゃんと、斬れ味とか使い心地を確かめて問題なさそうだったらプレゼントするよ」


「斬れ味は問題なさそうだから、宜しくね」

……ホウランは気が早い。


「このままだと斬れ過ぎて困りそうだけど……」


 とりあえずホウランから剣を返してもらい、緑英晶石や何か試し斬りできるものはないかと物色しながら河原を上流に向かいながら歩く。

 ホウスウは触らなくてもいいみたいだ。

 作ったばかりだから僕に気を使ってるのかも知れない。


 ヴォン。


 魔力を流したり止めたり。


 ヴーン。


 強くしたり弱くしたりしながら剣を振る。


 僕の身長と同じぐらいの岩があったので流す魔力をできる限り少なくして刃を当ててみた。


 ゥオン。


 刃が簡単に岩に入ってく。

 不安になってすぐに剣を引いたが、岩はしっかりと斬れていた。

 クマが木に爪を立てたみたいな切り跡が残ってる。

 岩なのに木のように切れている。


「ホント、何でも斬れそうだな」

切り跡を見ながらホウスウが言う。


「なら、こんなのはどうだ?」


 ホウスウが掌に水球を作って放り投げてくる。

 簡単な魔法なら詠唱なしでも発動できる。


 パシュッ。

 剣を振り抜くと、水球は二つに割れたがそのまま僕の顔にぶつかり割れた。


「あれ?」

ずぶ濡れになった。

正面から縦に一刀両断したので、頭から肩の辺りにもろに水球を受けてしまった。髪も濡れたので軽く振り払って水気を落とす。


「斬れ味が良すぎて飛んでくるものを撃ち落とすのは難しそうだな」

ホウスウは水に濡れた僕を笑いながら言った。


「ついでにこれはどうだ?」


 今度はその辺に落ちてた小さな流木を何本も投げてくる。


 カン、カン、カカン、シュッ。


 魔力を止めて剣で流木を叩き落とす。

 そして最後の一本だけ魔力を流して斬った。

 斬った感触もなく斬れた流木は水球と同じように勢いを殺すことなく僕に当たった。


「確かに斬れすぎてものを受け止めるには向いてないね。

剣の腹で受ければ多少はマシかもしれないけど、まぁ変わんないよね」


 抵抗なく切れるから切断するにはいいが、勢いを殺したり受けることができない。斬れ味は抜群だが剣で戦うとなると工夫がいる。

 戦いでは斬るだけではなく、受けたり逸らすことが必要になるからだ。

 受けができなければ全て躱さなければならない。


「魔力を強くしても一緒かしら?」

ホウランが離れたところから言ってきた。


「なるほど。試す価値はあるね。

ホウスウ、もう一度水球を放ってもらっていいかな?」


「いいぜ。いくぞ」


 早速さっきの水球と同じものを飛ばしてきた。


 ヴォン。


 ズシャッ。


 今度の水球は空中で斬ったときに弾けた。


「おお〜。

表面の乱流が大きくなると抵抗が発生するのかな?」


魔力を強くしたまま剣を頰に近づけても何も感じない。

魔力を強くしたら風でも出ないかと思ったが無駄だった。。


 でも、魔力量で斬った物体に対する抵抗が違うのが分かった。

 斬った瞬間に接した部分に力がかかるのかも知れない。

 流石に試しようがないが。


「火魔法も試すか?」

ホウスウが言った。


「……、

そうだね。何となく予測できるけど、やってみたいな」


「ほらよっ」


 早速ホウスウは先程の水球ぐらいの火球を放ってきた。

 火球でも簡単なものなら同じように詠唱はいらない。


 ヴォン。

 魔力が少ないときの結果は水球と同じだろうから、最初から魔力高めでいく。


 スン。


 斬った後に残り火に被弾するのがイヤだったので、右にステップして居合いのように抜刀する。

 火は斬った瞬間、吸い込まれるように小さくなった。


「「?」」


「これは、……あれだね。

風であおいだときみたいに一瞬火勢が衰えたってことかな」

一応、推論を口に出すがよく分からない。


「ふふふっ。私の指輪と似たようなもんじゃない」

ホウランが石を拾いながら笑ってる。


「確かに、よく分かんないね」

「なかなかクセのある剣みたいだな」


 僕とホウスウも目を見合わせた。


「さて、姉貴、石は拾えたかい?

シオンと二人で大丈夫そうなら、もうちょっと奥に行きたいんだけどいいかな?」

「うん。大丈夫だよ。

どうせその辺でしょ。好きにすればいいわよ」


「僕も一緒に行こうか?」


「いや、ちょっと獣道がないか見回す程度だから気にしないでくれ」


「それならいいけど」


 ホウスウが河原を離れ少し森に寄って行く。

 獣達も水辺へはよく来るのでしばらく探せば獣道が見つかるはずだ。

 この辺は森も深くないしそんなに危ないこともないだろう。


「込められる魔力量と得られる効果って関係あるのかな?」


 ホウスウが拾った石を陽にかざしながら聞いてきた。


「普通は関係あると思うよ。

魔力量が大きくないと効果が出ないから」


「でもさぁ、その指輪の石、透明な方が凄そうじゃない」


「……そうだね。

探しててもこんなに透明感のある石はないね」


 河原にはたまに緑英晶石がある。

 しかし透明な感じの緑英晶石はほとんどない。

 たまにある石も少し緑色っぽいだけだ。

 指輪に使ったようにちゃんと緑色の石は結構珍しい。


「指輪の石はどうやって見つけたの?」


「最初にその透明な石を見つけて、ひょとしたら他の石も透明にならないかなぁ?って思ったのよ」


「ふへっ?」

ホウランの言ってる意味が分からない。


「だから、河原でその透明な石を見つけて、そんな綺麗な石が他にもないかな?っ探したけど、全然なくて。

緑色の石なら何個かあって。

それで、緑英晶石は魔力を貯めるって言うじゃない。


だから、魔力を流してみたの」


「あぁ、そう言うこと」


「そう。そしたら透明な石は確かに魔力を貯めることができた。

なら、他の石は?って試したけど、ほとんどの石は魔力が貯まった気配がなかったの」


 ホウランはちょうどその辺の石に魔力を流したが何も変わらなかった。


「無理に魔力を流し続けると、石が砕けるのよ」


 そう言って実際に石を魔力で砕いて見せた。

 中から割れて砕けてる。


「でも、たまに魔力が貯まる石があったの。

その違いは何かな? って思って。

でも、分からなくて、魔力が貯まるのなら魔道具に出来ないか試してみたってとこ」


「へぇー、見かけによらず……」

「ん?」

「いや、すごい観察眼だ。

緑英晶石って碧泉にあるって聞くけど、見たことないから。

碧泉にあって綺麗で大きくて、魔力を貯めてる。

でも見ることってないよな」


「うん。

聖域になってて入れないのも、考えたことなかったけど魔道具とかに利用して谷を荒らさないためかも」


「確かに。

ホウランでも気付くんだ。

他のエルフでも試してみよう、とか石を取ってくるって発想になるよ」


「私でも、って言うのは余計だけど。

シンハの塔に緑英晶石の見分け方とか魔道具がなかったから、秘密にされてるんでしょうね」


「緑色でも色々あるからなぁ。

ホウランの見分け方を教えてよ」


「工夫も何もないわよ。

沢山集めて、魔力流して、しばらく放置。

しばらく経っても魔力が残ってる石で実験」


「はぁ。ホントにそのままだね。

ま、いいや。

その辺で試す?」


「そうね。そろそろ重たくなってきたし選別しましょ」


 ホウランと一緒に机ほどの大きさの岩の上で作業する。

 拾ってきた石を並べて、石を手に取り魔力を流す。

 あまり細かく考えずに魔力を流して並べてく。


 たまに何もしてなくても魔力を感じる石があるので、それは区別して置いておく。


「河原に転がっていただけなのに魔力が貯まってる石があるんだね」


「そうなの。拾ってるときは微量で気づかないけど、こうやって順番にやってるとたまにあるわよね」


 神域の緑英晶石はもっと綺麗で大きな魔力を貯めてるかもしれない。

 それなら、たまには割れて流れてくるだろうし、この河原をもう少しちゃんと探そうと思った。

 しばらくホウランと魔力を流す作業をしてたら遠くでホウスウの声が聞こえた。


「おーい。ちょっと来てくれー」


「ホウスウが呼んでるな」

「ホウスウが呼んでるわね」


 ホウランは動く気配がない。

 布袋の半分が終わったぐらいか?


 今止めるとちょっと面倒だな、と思いながらもホウランに言った。


「ホウラン、一時中止だ。

ホウスウが可愛そうだから、そろそろ行こう」


「えーっ。いい調子だったのに、ホウスウめ」


「まぁまぁ。とりあえず魔力を感じる石を袋に戻して続きはまただ」


「ホウスウー。聞こえたよー。

ちょっと待っててくれるー」


 慌てて片付けながらホウスウに返事する。

 魔力を流した石も半分は既に魔力を感じなかった。

 魔力が貯まる石はかなりレアらしい。

 今試してる指輪も貴重な実験品だな。


「さて、ホウスウは何見つけたかな?」


「獣道見つけて、もっと森に入りたいんでしょ」


 河原から外れて木が生い茂ってる方に向かう。

 この辺りは平野とは違うので河原から離れればすぐ木が生い茂ってる。

 ただ、密林というわけではないので木々のまばらなところもあって森に入るのに困るほどではない。


「ホウスウ、どうしたの?」


 僕が前を歩いて道を選んでる。

 ホウランは僕の歩いた道を二、三歩遅れてついてきてる。


「悪い。獣道の方に巣穴があって、奥に獲物がいそうだったからさ」


「!! 獲物がいそうなの?」


 おっと、狩りになるかもと思うと興奮しちゃったい。


 狩りはたまにする。

 でも獲物を探すのに手間がかかる。

 兎や鹿を狩ること自体は魔法もあるし簡単だ。

 でも大きな獲物になるとそんなに頻繁に出くわす訳じゃない。


「奥にいそうだ。気配を感じる」


「どうする?」


「オレが先にいくから、シオン付いてきてくれ。

ホウランは巣の前で待っててくれ」


「分かった」

「分かったわ」


 ホウスウが見つけたんだしホウスウに任せる。


 早速二人で巣穴の前に立った。

 時間はまだお昼前。陽射しも高いが少し奥に入ったので影が多くなってる。

 巣穴の前まで獣道があるので近付くのは簡単だ。


「結構広いな」

巣穴は僕たち二人で並んで入れるぐらい大きい。

高さはちょうど大人の身長、ホウスウが手を伸ばしてやっと天井に手が届くぐらいた。

流石に剣を振り回せるほどの広さはないが移動するのに困らない。


「いるのは大物だな」

ホウスウが嬉しそうだ。


灯明(とうみょう)

ホウスウが魔法で明るくする。

その辺で拾った棒の先を明るくしてる。


 少し埃っぽいが視界は問題ない。

 足元は枯葉などがあるが歩くのは問題ない。

 小枝が混ざってるので、音を立てないように注意する。


「ホウスウ何で武器持ってこなかったの?」

小声で話すが、少し反響した。


「いや、こんなに簡単に獲物に出会えると思ってなかったから、重いしやめたんだ」


「それならこの剣貸そうか?」


「いや、いい。慣れない剣より魔法で行くさ」


 身体強化もできるから大丈夫だろう。

 僕も剣は腰に差したまま。

 その辺の小枝を拾って魔法で明かりをつける。


 どうせ剣を振り回せるほどの広さではないので、ホウスウと同じようにこの方が便利だ。


「いたぞ」


 ホウスウが腰を低くして前方に目を凝らす。


 赤手熊(あかてぐま)だ。


 手の肘から先が赤いのが特徴だ。

 熊の中では大人しいが大きくて力が強い。


 巣の奥は更に広くなってるようで赤手熊(あかてぐま)は中央にいる。


「奥にまだ続いてるようだな」


「GUAAAAA!」

赤手熊(あかてぐま)が唸りながら立ち上がる。


風刃覇(ふうじんは)!」

ホウスウが右手を突き出し魔法を放つ。

風魔法、風刃の上位魔法。真空波の刃だ。

こんな洞窟では範囲の広い魔法は使えない。

だから単発で威力のある風刃覇(ふうじんは)を選んだんだろう。


 赤手熊(あかてぐま)が立ち上がりガラ空きの喉に風の刃が突き刺さる。


 立ち上がった赤手熊(あかてぐま)の首が飛んだ。


 ズゥーン。

 一瞬で倒された赤手熊(あかてぐま)はゆっくりと倒れた。


「おぉー」

僕が手際の良さに声を上げるとホウスウは照れ臭そうに返事する。


「うまくいったな。まだ奥にいるぞ」


 赤手熊(あかてぐま)が死んでいることを確認して奥の気配を探る。


 確かにまだいる。


 子熊でもいるのか?

 通常赤手熊(あかてぐま)は一匹で一つの巣穴に住む。


「ホウランには後でいいか。

とりあえず奥に行こう」


 広さが若干狭くなった巣穴を更に奥に進む。


「「!!」」


 巣穴の奥に扉があった。

 木の扉だがしっかりとした作りだ。


「扉、ってことは人がいるのか?」

ホウスウが不審げにこちらを見る。


 少なくとも人が来たことがあるのは確かだ。

 熊は扉を作らない。


「さぁ、どうだろう?

いつ作られた扉か分からないからな」


 しばらく音がしないか耳を澄ましてみたが音はない。


 ホウスウが一応ノックして扉を開けた。


 扉の中には誰もいないようだ。

 気配がするのに誰もいない。

 薄暗い部屋の中を小枝に灯した明かりで捜索する。


 ちょっとした倉庫のような部屋だ。

 しかし部屋は空っぽで奥の方に大きめの机と書棚がある程度で他には何もない。

 どこか隠し扉でもあるかも知れないので慎重に部屋を一周してみたが何もなさそうだ。


「何もなさそうだな」


「あぁ、一応姉貴を呼んでくるか」


「そうだね。何もなくても興味あるだろうし」


「内緒にしとくと後が大変だ」

ホウスウが緊張を解いて笑いながら振り返った。


「何を内緒にしとくのよ」

「「!?」」


「やあ、ホウラン。

今から迎えに行こうとしたとこだよ・・・」

「そうそう、姉貴が心配してるかもしれないって」


 咄嗟のことで焦ったが、こっちから呼びに行く前に心配になって様子を見に来たようだ。


「獲物の気配がなくなったのに返ってこないから心配したわ」


 ホウランが部屋の中を見回してる。

 僕たちも改めて部屋の中を見回す。


赤手熊(あかてぐま)を倒しても奥の方に気配を感じたんだ。

それで奥にきたらその扉があってさ。

迷ったけど、開けてみたらこんな部屋だったんだ」


「ホウスウ、それっておかしくない?

熊の巣穴の奥に隠し部屋があったの?」


 ホウスウの説明を聞いたホウランが混乱してる。

 直に見つけた僕たちも混乱してるから、聞いてるホウランも訳が分からないだろう。


「熊の巣穴になったのは後からじゃないかな。

隠し部屋に熊を飼おうとは思わないだろうし、熊の方もたまたまいい穴があったから住み着いたんだろうし」


「そうか。誰かが隠し部屋としてこのだだっ広い部屋を作った。

で、放置されて熊が居着いたってことか」


 僕の思いつきにホウスウが同意する。


「ふーん。この部屋に鍵はかかってたのかしら?」


「いや、かかってなかった。

オレもシオンも扉を開けただけだ。

隠し扉がないか探したけどそれぐらいしかしてない」


「そう? 隠し部屋を作って鍵も掛けなかったのかしら?」


 ホウランには気になることが多いようだがホウスウはお手上げポーズをしてる。

 感覚派なのにこういうことは気になるみたいだ。


「昔は鍵も掛かってた。

でもその後で誰かが鍵を開けて全部持ってった。とか?」


「それは、ありえるかもね」

僕が推測を追加するとホウランも少しは納得したようだ。


「残りものでも調べてみましょ。

ひょっとしたら何か分かるかも知れないわ」


「姉貴、一応注意してくれ。

何か気配がするんだが、理由が分からん」


「分かったわ。

少し明かりを増やすわよ」


 ホウランは右手を天井に向けてかざした。


灯光(とうこう)

右手から光が打ち出されて天井にくっついた。

結構高い天井だった。


 部屋全体が明るく照らされる。


 僕とホウスウはそれまで持っていた小枝を入り口の壁に立てかけて、部屋の探索を始める。


 僕が机に向かい、ホウランが書棚。

 ホウスウは部屋の奥の壁に向かった。

 気配のことが気になるのでもう一度壁を調べて回るのだろう。


 机は両袖に引き出しがついた大きなものだ。

 椅子もしっかりとした作りでここに持ち込むにしてもどうやったのか不思議になる。


 改めてこの部屋を見渡すと壁、床、天井が全て石壁。

 土の中にどうやってこんな部屋を作ったのだろう?


 机の引き出しには鍵はかかっていなかった。

 右上から見ていくが引き出しの中は空っぽ。

 左側は上の引き出しに鍵が一本入っていた。


「鍵があった」

鍵を左手で取り上げ二人にも見えるように顔の高さに上げた。

鉄製の鍵で錆びていない。

綺麗な状態で不思議になる。


「へぇ、見せて」


 言ったホウランが振り向いたときに書棚から本が一冊落ちた。


「あっ!」


 僕が目を見開くと、落ちた本のページから魔法陣が描かれた。


 やばい!


 何の魔法陣か分からないがこんな隠し部屋で何が起きるか分からない。


 僕はホウランに向かって駆け出し、突き飛ばす。

ホウランは突き飛ばされて転がっていく。


 魔法陣が眩い光を放つ。

 残された僕は魔法陣に包まれた。




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