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第二十二話 ヘイザース



 冒険者ギルドの裏口は大きな扉が開け放たれている。

 そして、倉庫のようなスペースの向こうにさらにいくつもの扉があった。

 報酬受付はいくつもの部屋に別れているようだ。


「どうかしたかい?」


 裏口の前で立ち尽くしていると、大柄な男がやってきた。がっちりした体格、隙のない身のこなし。

 それなりにできる人のようだ。


「獲物を狩ってきたので、買取をお願いしたかったのですが」


「うん? エリーナはどうかしたのか?」


「この人、エリーナって言うんですか?

 受付してもらって、裏口を案内してもらうときに貧血を起こしたみたいで」


「よく分からんが、エリーナはそこの椅子にでも座らせてくれ。台車はこっちのスペースに引いてくれ」


 気を失っているエリーナさんを椅子に座らせて戻ると、トゥーファンが木の枝を落とし狼を出すところだった。


「これはまた、物騒な。

 こんなでけぇ狼、どうしたんだ?」


 倒したから持って来たんだ、と思ったがトゥーファンが説明し始めたので任せた。


「森に入ったら迷子になって、夜に狼に襲われて逃げてたら運良く倒せたんだよ」


 なんだか胡散臭い説明だが、男は納得したようだ。


「狼なんて狩れる奴は少ないからな。エリーナもビックリしたんだろう。

 お前らも狼を隠して運ぶとは賢いじゃないか」


 おおぅ、隠して運んだことが評価されるとは、よく分からんが嬉しいもんだ。


「隠してなかったら危なかったかな?」


 トゥーファンは訳知り顔で話を続ける。


「まぁ、絡まれたり、どこで拾った、だとか色々聞かれるだろう。

 お前ら二人が無事で良かった。

 狼はこのままギルドで預かるから一番左の部屋に入って待っててくれないか?」


 男はギルド証のようなものをヒラヒラさせて人を呼びに行った。ギルド証を見せたのは、安心しろ、と言う意味だったのだろう。


「トゥーファン、話がよく分からなかったんだけど、説明してくれない?」


 部屋に向かって歩きながら、小声で聞いた。


「あぁ。狼は思いのほか危険で高額ってことだよ」


「んん?」


「まず、狼を見たら多分大事(おおごと)になるんだよ。狼が出たら大勢で倒しに行くか、そのエリアを避けなきゃならない。

 これは狼が強くて賢いからだが、数人のグループぐらいじゃ殺られてしまう。

 なので、狼を堂々と運ぶと色んな奴等が情報を聞こうとしたり後をつけたりするんだよ。

 次に、そんな狼だから当然買取も高い。

 オレたちみたいな子供が狼運んでたら、奪おうとする奴等がいるみたいだな。

 だから、隠して運んで正解だし。あらかじめ迷子になって逃げ惑ったことにしたんだ。

 予想以上の反応だな」


 扉を開けて中に入ると、簡単な机に椅子が六脚あった。

 入口のそばの椅子に座って待つことにした。


 コンコン。


 扉を開けて入って来たのは、気を失っていたエリーナさんだ。


「先ほどはすみませんでした」


 入ってくるなり頭を下げている。


「もう少ししたらヘイザース様が戻って来るので、それまでお待ち下さい」


 エリーナさんは慌てて僕とトゥーファンの前に水を並べる。


「無事で良かったね」


 声をかけると恥ずかしそうにして、部屋を出て行った。

 水を飲んでるとさっきの男が入ってきた。


「さっきはすまなかったな。

 私はヘイザースだ。ここでギルド長をしている。

 狼は調べさせてもらった。綺麗に一撃で仕留めたようだ。あれは君たちが仕留めたのかな?」


「運良く仕留めれた。狼はよく出るのか?」


 ギルド長ヘイザースの質問をトゥーファンが受けて返した。


「よく仕留めてくれた。礼を言う。

 街の近くには狼は出ない。ここ二、三年は森の奥でも出たことがない。

 君たちが出会ったのは何匹ぐらいの群れだろうか?」


「オレたちが見たのは五匹ぐらいの群れだな。」


「どの辺りで見たのか教えてくれないか?」


「場所は迷子になっていたから覚えていない。

 ただ、川は渡ってないから川よりは西側だ。」


「西側。スタルー川よりも西か。

 君たちは昨日ギルドに寄ったそうだが、それからすぐに森に入ったのかな?」


「あぁ、昨日ライセンスの話を聞いて獣を狩りに森に入った。全然獣に出会わなかったからドンドン森に入って行ったら、迷子になった。

 で、夜に狼に襲われた」


  トゥーファンは淡々と話す。


「無事だったのは何よりだ。

 狼はどんな様子だった?」


「群れでの狩りに慣れてた。

 オレたちは囲まれる前にとにかく逃げ出した。

 飛びかかられたときに突き出した剣で偶然倒すことができたが、それだけだ。」


「何故、狼を持って帰った?

 他の狼はどうなった?」


「他の狼がいなくなったから、狼を担いで降りてきた。元々、狩りの予定だったからな。」


「あの台車はどうした?」


「途中で拾った。

 オレもシオンもクタクタだったから、見つけた台車に狼を載せて来た」


「ふーむ。そうか。

 あの狼の討伐報酬は一頭あたり金貨五枚だ。綺麗に仕留めてあるので、毛皮なども取れるだろう。その素材の買取で更に金貨五枚程度だ。

 討伐報酬はすぐに払い、買取報酬は査定後になるがどうする?」


()めた場合はどうなる?」


「討伐報酬はどちらにしろ払う。

 買取は街の他の店に持ち込めば、もっといい値が付くだろう」


「なら、ギルドでの買取をお願いする。

 店を知らないし、面倒は避けたい」


「分かった。

 それなら、これからライセンス証を作らせてもらう。

 エリーナを寄越すから、いくつか質問に答えてくれ。

 ライセンス証の作成に二、三日かかるが、宿は決まってるのか?」


「まだ決めてない。

 安くていいから宿も紹介してくれると助かる。」


「ああ、分かった。

 エリーナに聞いてくれ。伝えておく。

 買取価格の査定も二、三日かかるから、それはライセンスを取りに来たときに払うので問題ないか?」


「問題ない」


「それまでに何かあればいつでもギルドに来てくれ。できるだけのことはしよう。

 では、私は席を外させてもらうが、もうしばらく待っててくれ」


 そう言うとギルド長のヘイザースは部屋を出て行って。

 結局のところ、親切そうに見えて随分な取り調べだった。

 まぁ、怪しいところがあっても今のところどうしようもないし、周辺の情報収集が先決だから解放されたんだろう。


「すみません。入ります」


 エリーナさんが恐る恐る入ってきた。


「ええと、ライセンス証を作らせて頂きますので、手続きをお願いします。

 まずはお二人の名前をお願いします」


「シンハのシオンです」


「トゥーファンだ」


「シンハのシオンさんとトゥーファンさんですね。

 年齢はおいくつですか?」


「……十五です」


「十五だ」


「同じ年なんですね。

 出身はどちらですか?」


「……森で育ったから分からない」


「オレも同じだ」


「……、ではクレイプモス出身とさせて頂きます。

 これまで、冒険者ギルドや他のギルドで登録をされたことはありますか?」


「うん? 始めてだけど、他にもギルドがあるの?」


「そうですね。商業ギルドや農業ギルド、工芸ギルドなどがありますので、参考までに確認させて頂いています」


「なら、分かった。

 二人とも他のギルドに登録してないよ」


「当ギルドのご利用も今回が初めてでよろしかったでしょうか?」


「うん。それも念のための確認?」


「はい。過去に発行したライセンス証を紛失された方などもおられますので。

 ライセンス証は三日後にお渡しできますので、お越しの際は、私、エリーナにお声掛け下さい」


「うん。分かった」


「それから、今回の討伐報酬ですが、狼二匹で金貨十枚です。

 ライセンス証の発行費用は大銅貨一枚ですので、お二人分で大銅貨二枚となりますが、今回はギルド長からお手続きをギルド負担とさせて頂くように指示を受けております。

 こちらはギルド負担で進めさせて頂いてよろしいでしょうか?」


「あ、いいです。お願いします」


 大したことはないんだけど、ギルド長は良い関係を築きたいみたいなので、受けることにした。


 革袋に入れた金貨、銀貨を受け取り、更に宿屋までエリーナさんが案内してくれた。


 金貨だけでは使いにくいだろうと銀貨も混ぜてくれたり、街中の道も分からないだろうと案内してくれたり、親切な対応でこちらの方が恐縮する。


 紹介された宿屋は一泊大銅貨三枚だった。

 二階建の宿で八部屋あり、食事は別料金だが定食屋が隣接してるので便利だ。


 トゥーファンは小さな声で、監視もしたいだろうから親切だけではないぞ、と言ってた。

 それでも昨日は一文無しだったのを思えば、たった一日でかなり快適になったものだ。




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