第二十話 深夜の狩り
森の奥で小さな泉を見つけたので、そこで食事をすることにし、泉で捕まえた魚を焼き休憩をした。
森の中を歩き回るより泉のそばで夜を待ち、水場にやって来る獣を狩る方が楽そうなことに気付きのんびりと過ごす。
神聖魔法のことを考えたり、昼寝をしたり。
森の奥の泉は静かで平和だった。
僕が指輪を発動させて強化魔法を調べてると、トゥーファンは土の剣を出したり、槍を出したりしては順番に振って感触を確かめてた。
作っては壊してイメージやバランスを調整してるようだ。自分の思った物を作れる反面、しっかりとイメージしないと思った物が出来ないようで試行錯誤してる。
夕暮れが近くなっても周囲の雰囲気は変わらない。
簡単に食事を済ませ、木の下で休みながら気配を探る。
雰囲気が変わったのは月が登り、泉の周りを月明かりが照らすようになってからだ。
最初は遠くで狼の遠吠えが聞こえた。
たまに微かな葉音が森の中から聞こえる。
泉の周りを囲むように気配を感じる。
五頭ぐらいか。
トゥーファンを見ると、気付いてるようだ。
人差し指を口に当てた後、泉の方を指差す。
狙いは僕たちのようだ。
泉に向かって静かに歩き、動きやすいようにスペースを確保する。
トゥーファンは右手に紅い土剣を握っている。
僕も魔剣を鞘から抜いた。
ゆらりと一頭の狼が木の陰から音もなく顔を出す。
……大きい。
四つ脚の状態で僕の身長ぐらいはある。
眼だけが闇夜に黄色く浮かんでいる。
完全に包囲されたようだ。
狼とはいえ統制されている。
!!
「六角格子!」
狼たちが飛び掛かってくると同時にトゥーファンが魔法を唱えた。
一瞬で僕とトゥーファンを囲むドーム型の土柵が出来上がる。
一斉に飛び掛ってきた狼たちは柵にぶつかり転げまわったが、体勢を立て直し様子見を始めた。
一、二、三、四、五、六頭の狼たちだ。
正面にいた狼が一番大きいようだが、他の狼も負けず劣らず体格がいい。
「二頭は剣で倒すぞ。
出来れば突きで。
首を落とさずに仕留めたい」
「いいけど、どうして?」
「剣で倒した奴を持ち帰る。その場合、バラバラじゃない方が都合がいいからな。」
「ふーん。分かった。
このままやっちゃってもいいかな?」
「好きにしろ。
それじゃいくぞ」
「堅扉開門」
正面の柵に穴が開いて出入りができるようになった。
しかし、その穴は人一人分なので出入りできるのは一人ずつ、あるいは一頭ずつだ。
トゥーファンがゆっくりとその出入り口に歩いてく。
トゥーファンの動きにあわせて、僕はドームの中から獲物を狙うと魔法を唱えた。
「捩風槍!」
「雷辰迅!」
右手から風が渦を巻き捩れて鋭い槍になる。
風の槍はトゥーファンの作った土柵の隙間から外にいる狼の腹を刺し貫いた。
左手からは別の狼に向かって稲妻が一直線に迸った。
こちらも狼の腹を貫き全身を雷が包み一瞬で狼を絶命させた。
手近な狼を倒し、トゥーファンを追ってドームから出ると狼の数が増えていた。
「あれ? 狼増えてない?」
「元から十二頭ぐらいだっただろ。
二重に包囲してた外側の狼も参戦してきたぞ」
「え、そうなの?」
「だから、さっさと戦え!」
「分かったよ。荊棘囲円!」
僕たちと狼を閉じ込めるように茨で大きな丸い柵を作り上げた。トゥーファンの作った土柵が十個ぐらい入りそうだ。これで戦闘スペースが限られる。
逃げも隠れもできなくなるし、この柵の中なら多少は無茶をしても森に被害は出ないだろう。
トゥーファンは飛び掛ってきた狼を土剣で軽くあしらい、その剣を狼の胸に刺すと、その剣は刺したままにしてすぐに次の土剣を作って構えている。
すでに三頭の狼を仕留めたようだ。
串刺しになった狼の死体が無造作に転がっている。
首を落とさずに仕留めるには魔剣の斬れ味は不要だ。
トゥーファンの真似をしてみようと思い魔剣を鞘に納め、鉄剣を作ってみる。
「鐵細剣!」
トゥーファンの土剣ほど綺麗ではないが、細身の片手剣を作ると軽く振ってみる。
まぁまぁ良さそうだ。
狼退治のノルマはトゥーファンがクリアしてくれたので、ムリをしない程度に狼に立ち向かうことにしよう。
早速、右手から噛み付いてきた狼の顔を柄頭で殴り飛ばす。
背後からは別の狼が両前脚を大きく開いて飛んでくるので、振り向き様にそのがら空きの胸に細剣を一直線に刺し、背中まで貫いた。
細剣が深々と刺さり、抜けなくなったところに別の狼が突っ込んでくる。
細剣が刺さった狼の重さに引きずられ、反応が遅れる。
低い体勢から僕の足に噛み付こうとした狼の顎先を、右足を引いて身体を捻って躱す。
細剣を手放して何とか躱したところに次の狼が飛びついてくる。
「鐡砕斧!」
片腕ほどの片手斧を作り出し狼の横面を張り飛ばす。
自分で斧を振るう余裕がなかったので、空中に斧を作り出すと、そのまま叩きつけるように飛ばしてぶつけた。
狼は地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がった。
続けて、新しい斧を頭上に作り出し右手をまっすぐに振り降ろすと、振りに合わせて新しい斧は空中で回転しながら一気に狼の腹を切り裂き地面に突き刺さった。
殴り飛ばした狼がどこに行ったか分からないが、新しい狼が正面から真上に飛び上がった。
「長鐡剣」
今度は余裕があるので、長めの鉄剣を作り出すと大きく横に振るい宙にいて避けられない狼を両断した。
上半身と下半身に別れた狼がドサリと落ちると静かになった。
周囲を見渡すと倒した狼があちこちに転がっている。
トゥーファンがゆっくりとこちらに歩いてくる。
「倒し終わったな」
トゥーファンは返り血すら浴びず綺麗なままだ。
周り見渡しても魔法を使って形跡がないので、土剣だけで狼を倒したのだろう。
「うん。
トゥーファンって、剣を作ったのは今日の昼間が始めてじゃなかった?」
「あぁ、土剣は始めてだな」
「……の割には剣の扱いが上手過ぎない?」
「剣自体は昔も使ってたからな。嗜み程度には使えるさ」
「……そうですか。嗜みねぇ」
「だが、土剣はいいな。
大きさ、重さを自由に変えられるし、何本も作れるから便利だ」
「はいはい。分かりました。
で、思ったよりも多く狩れたんだけど、どうする?」
改めて周りを見回すと狼の死体が十二頭ある。
ほとんどを一撃で倒しているので、死体も綺麗なものが大半だ。
「綺麗なヤツを二体持ち帰ることにして、残りは埋めておくか。」
「二体だけでいいの?」
「持ち帰るのが面倒だし、多過ぎると色々勘繰られてうるさいからな。
二体でいいだろう。それで、ライセンスを取って宿を取れれば十分だ」
「ふぅーん。
持ち帰る方は頑張れば何とかなると思うけど、絡まれるのは勘弁して欲しいね」
「……その言い方だと、
まぁ、いい。
とりあえず、この狼とその狼を持ち帰るぞ。
後は埋めるから、ちょっと下がってろ」
「地堀採土」
トゥーファンが魔法を唱えると目の前に大きな穴が現れた。
二人で手分けして倒した狼を一頭ずつ穴に放り込んでいく。放り込み終わると。
「魂屍埋土」
地面を掘った時の土で狼の屍体を埋めた。
トゥーファンが作った土柵と僕が作った茨柵はそのままだが、崩すのは明日の朝でいいだろう。
二重の柵が獣の侵入を防いでくれる筈だ。
これ以上、獲物はいらないし、目的を達したから一眠りしたい。




