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第二話 空間魔法


「特に魔力的な違和感はないけど、ホウスウはどう?」

左を目の前にかざし嵌め具合を確認しながらホウスウに聞いた。


「オレも特に何もないな。

ちょっと魔法を使ってみるか」

ホウスウが左手を前に出して魔法を唱える。


土槍(どそう)!」


 ホウスウが唱えると、急に地面から土の槍が5本突き出してきた。

 土魔法で作った土の槍が生えてる。

 一本一本が成人エルフより一回り大きい。


「うん。いつもと変わらないな」


「属性によって違いとかは?」


風刃(ふうじん)!」


 今度は風の刃だ。

 初歩的な風魔法で、真空波のようにして風でモノを切り裂く。

 風の刃が先程作った土の槍を細かく砕いてく。


「うーん。ちょっと違いが分からないな」


「少なくとも、魔力使用に制限がかかる訳じゃなさそうだね」


「あぁ、それは大丈夫だ」


「相変わらず、ホウスウとシオンは細かいわね」

口に手を当てて目を見開いている。

ホウランからすると呆れることなのかも知れない。


「気にならないホウランの方が不思議だよ」


「ホント、姉貴は大雑把過ぎるんだよ。

オレだったら指輪にする前にもっと特性調べて石を厳選するよ」


「えーっ、石の厳選する前に作った方が早くない?

その後で、色々確かめればいいじゃん」

ホウランは感覚派だね。アーティストと言ってもいいかもしれない。


「とりあえず色々確かめるからちょっと待っててね」


 僕は透明な方の指輪を外して、濃い指輪だけを人差し指に残す。


 まずはもう一度魔力を通してみる。

 で、その後に治癒魔法を発動させる。

 淡い光が僕を包む。

 確かに体内細胞が活性化してるようだ。

 体が熱くなる。


 支援効果(バフ)魔法もあるかも知れない。

 ダッシュをしてみる。

 うん。身体強化をかけたときのような感じがする。

 筋力とか強化されたっぽい。


 火魔法を使ってみる。


炎陣(えんじん)!」


 轟音を立てて空中に大きな炎の魔法陣が現れる。

 いつもより効果が大きい。

 五割増しぐらいだ。

 これは支援効果(バフ)だろう。

 ……失敗したかも、支援効果(バフ)がいつ切れるか分からない。


 今、魔法を使うと指輪の効果かさっき発動した支援効果(バフ)か分からない。

 ……検証できない。



「うん。治癒魔法だけじゃなくて、|支援効果《バフ」魔法が発動するみたい。

指輪の魔力増幅効果は今の効果が切れてから改めて検証かな」


 僕は指輪に魔力を貯めながら言った。

 ついでに透明な指輪もはめておく。


「へぇー。支援効果(バフ)魔法がかかるの?」


 ホウランも知らなかったようだ。

 確認してきた。

 やっぱりホウランクオリティ、使ってみるまで性能が分からない。


「とりあえず、身体強化と魔力強化があるね。

それぞれ五割増しになってる気がする」


「五割増しってすごくね?」


「うん。指輪に貯めた魔力量と比べ物にならないぐらい効果が上がってる。

ホウランの刻んだ魔法回路が凄いんだろうな。

その分切れた時が怖い。五割増しの反動って、僕どうなるんだろう?」


 苦笑しながら言った。


 通常支援効果(バフ)魔法は一定時間で効果が切れる。

 切れるとそれまで魔法で無理をして身体機能を強化していた分がそのまま体に反映される。

 筋肉痛だったり、疲れ、眠気とかが一気に襲ってくるわけだ。

 能力強化が少なければ反動も大したことはないのだが、無茶をすると大変なことになる。

 身体強化を使い過ぎれば筋組織がズタボロになって数日間寝込むことにもなるだろう。

 僕とホウスウはホウランを見た。


「あはは。そんなに凄かった?

治癒魔法のつもりだったけど、体力とか魔力の活性化になっちゃったのかしら?

ははは……」


 やっぱり狙った効果とは違うようだ。


「ちなみに、四つの指輪は石が違う他に何か違いがあるの?」

僕が尋ねると、ホウランは視線を宙に彷徨わせた。


「石が違うし、中の魔法回路もちょっとずつ違うかな……」


 あかんやつだ。

 完全に思いつきで作った試作品だな。

 石の違いと魔法陣の違い。


 どっちもあるから、四つの指輪は完全に別物の試作品だ。


 支援効果(バフ)魔法が切れてから順に検証しないとダメだな。


「だってさ。ホウスウの指輪は全く別効果かもね」

ホウスウに向き直り彼のしてる指輪を見た。


「そうだな。姉貴の作ったものだって忘れてたよ」

僕とホウスウは顔を見合わせ一緒に笑った。


「いいじゃない。効果があったんでしょ」


「けど緑英晶石も使い方でこんな効果が得られるとは思わなかったよ」


「ホント。上流に行けば、さっきみたいな石はもっとあるよ」


「ホウランはもっと石が欲しいんだろ。

とりあえず上流に行こうか」


「そうだな。オレも河原奥に入ったところで探したいから移動しよう」


 凄いものを作ったのに大雑把さを非難されたホウランはシュンとしてるが三人で上流に向かって歩き始めた。

 土手から河原に降りると石だらけで歩きにくい。

 でも三人とも軽装だし、天気も良いので散歩感覚だ。


「オレが探したいのは硬腕熊(こうわんぐま)

その毛皮が欲しいんだ。

河原で石を探しながら周辺に活動の痕跡がないか探したい。

すぐに見つかるとは思ってないからついでで頼む」


 ホウスウは軽く言った。

 硬腕熊(こうわんぐま)はクマの魔物だ。

 通常のクマよりもふた回り大きい。

 そして硬い毛皮で身を守る。

 長い毛で覆われた腕を切り落とすことができないとついた名前らしい。

 毛皮が欲しいとなると倒し方を工夫しないとなかなかキツイ。


「そうか。見つけたら倒し方を相談しよう。

サポートするよ」


「ん。頼む。

毛皮を台無しにしたくないからな」

ホウスウが手を合わせながら言った。


「僕は魔剣を試したいんだ」


 視線を足元に向け、緑英晶石を探しながら言った。


「自作の剣に空間魔法を組み込んだから、斬れ味を試したくて」


「へぇー。何だか凄そうね」

ホウランは興味あるようだ。

相変わらずそよ風で前髪が流されている。


「色々と意見も聞きたいから空間魔法の説明からしてもいいかな?」

天気もいいし、石を探しながら散歩してるだけなのでちょっと詳しく話すことにした。


「ええ、最初からお願い」


「まず、空間魔法の初歩は、空間拡張と圧縮。

これはアイテムボックスの魔道具とか聞いたことあるだろ。

見た目は小さいのに中が大きいとか、大きなものを小さくして持ち運べるようにする魔道具」


「それなら本で見たことあるわ」

「オレもだ」


 返事を聞きながら、土魔法で腕がすっぽり入るような長い籠手のような筒を作る。


土筒(どとう)


 魔法で作った土の筒を持ちながら説明を続ける。

 筒は腕よりも一回り太く、片方は穴が開き、もう片方は土で塞いである。



「ますばこの片方が塞がれた筒。

そこに空間魔法をかけると簡単なアイテムボックスができる」


 肘ぐらいまでの筒に肩まで腕を突っ込んでみせる。


「「……」」


 まぁ、いきなり見せられると引くよね。


「この筒を応用すると、色々と面白いことができる。

まずは塞いでた蓋をなくす」


 筒を塞いでた片方の底を魔法で切り落とした。

 その上で空間魔法をかけ直す。


 両端が穴になっているただの筒に右手を入れると、もう片方の先から手が出る。

 長い筒の入り口に手の平を入れただけで、すぐに反対側から飛び出てくる。

 右手が一瞬で伸びたようになり、見た目はかなり気持ち悪い。


「「?!」」


 ホウラン達もさっきより引いてる。


「中の空間を縮めると、こんな風に入れた腕が一気に反対側に届くんだ。

さっきみたいに反対側を塞いで空間を伸ばすとアイテムボックスのように容量を増やすことができる

逆に縮めると中には全然物が入らなくなる。

そのときに反対側が開いてると一気に反対側からはみ出るんだ」


「見てて気持ち悪いわ」

ホウランが失礼なことを言ってるが、説明を続ける。


「この筒を半分に切り分けるとどうなる?」


「うーん。気持ち悪い筒が二本になるんだよね」

「そりゃ、切り分けたところから腕がでるんだろ」


「実際にやってみるよ」


 僕は石の上で筒を二本に切り分けた。

 片方を左手に持ち筒に右手を入れると、当然手に持っている筒の反対側から手が出てくる。

 もう片方は石の上に転がっている。


「半分にしたから、半分のところから手が出るよね。

では、この筒の出口を塞いだら?」


 言いながら、土魔法で二つの筒の出口を塞ぐ。

 片方は筒の底を塞ぎ穴の開いた方を上に向けて立てる。

 もう片方は筒の底を塞ぎ左手に持つ。


「そりゃ、最初のアイテムボックス状態になるだろ」

「そうよ。ただ塞いでるんだもの」


「そうなんだげど、実はただ塞いだだけじゃないんだ」


 僕が片方の筒に手を入れると、もう片方の筒から手が出た。

 石の上に立てた筒から手が出てる。


「「ぎゃっ」」


「なんで?」


「これが空間魔法の中級。

筒の中の魔法陣でそれぞれの空間を繋いでるんだよ」


「うっわ、反則〜」


 筒の部分を切り離して筒の底に描いた魔法陣を見せる。

 両方の筒から底を切り取ると、魔法陣を描いた円板が二枚になった。

 土に筒が二本、円板が二枚。石の上に並べる。


「この魔法陣に手を入れると、もう片方から出る」

と言って、手を出し入れして見せる。

石の上に置いた円板がに人差し指を突き刺すと、隣に並んだ円板から指が出る。


「ホントだ。私がやってもいい?」


「うん。大丈夫だよ」


 ホウランが恐る恐る魔法陣に手を伸ばし、指を突き刺す。


「「!」」

「ホントだ。何も感触がないのね」


「オレにもさせてくれ!」


 ホウスウも同じように試してみる。

 結果は同じだ。

 並んだ片方の魔法陣に手を差し入れると、隣の魔法陣から出てくる。


「何かすっげー違和感」


「私も。理解がついていかないというか。

見てること、起きてることが夢の中みたいに現実感がないわ」


 二人の釈然としない顔を見ながら更に続ける。

 ちょっと調子に乗ってる。


「次はこの魔法陣が片方なくなった場合、どうなるでしょう?」


 魔法陣の描かれた円板を一枚、両手でパキッと割った。

 目の前には一枚だけになった魔法陣。


「それは機能しないでしょ」

「ああ、行き先のない魔法陣だから、行き止まり。

手とか入らないよな」


 ホウスウが言いながら魔法陣に指を当てるが、魔法陣を押さえるだけで指は入らない。

 指で魔法陣を押さえてホッとするホウスウ。


「それはそうだよね」

魔法陣の円板を返してもらう。


 僕は左手に円板を持ち、右手は拳を握って胸の前で円板に当てて止めた。


「普通は手を押し当てても、通らないよね。

だけど、それをもう少し力を入れると……」


 僕がグッと力を入れると、拳が円板に吸い込まれ、顔の横に現れた。


「キャッ」

「うわっ」


 二人が驚く。

 魔法陣に手が入らないことを確認してもらったのだから当然だ。


「えっ? 何で?」

ホウランが胸の前にある円板と、そこに突き刺さっている僕の腕に顔を近づける。


「強引に魔法空間に手を入れて、無理やり出口を作ったんだよ」

何もない空間に出した手を開いたり握ったりしながら答える。


「いゃ、それは無理だ」

「ホント、ホント。無理やりでそんなことできないわよ」


 二人の腰が引けてる。


「多分、難易度的にはこれが上級。

初級は空間拡張。

中級で魔法陣による空間連結。

上級が魔法陣なしの空間連結。

どう?イメージはそんなとこかな。

やってることは難しくなるというよりも別の魔法を使ってる感じだけど」


 そう言って目の前に浮かんでる手を引っ込めた。


「そして、強引にやるときにちょっと工夫を加えると僕が使ってる転移魔法になるんだよ。

強引に空間魔法に体を入れたり、体の一部じゃなくて体全体を飛ばそうと思うと魔法の発動とかコントロールが大変だから、一応足元に魔法陣を作って、ジャンプから着地したときに(トラップ)みたく発動させて飛ばしてる」


「あー」

「その辺になると余計に分かんないな……」


 ホウランの視線が空を見てる。

 ホウスウは素直に頭をかいている。


「ここまでが空間魔法の概要かな。

そして、空間魔法を組み込んだ剣が、これです」


 僕は腰に差してた剣を持ち上げた。


 真っ黒な鞘に収められた剣だ。

 スッと剣を抜くと、剣も真っ黒。

 真っ黒といってもた鉄の光沢があるので黒鉄(クロガネ)色に近い。

 片刃の部分が蒼白く輝いている。


 片手剣としてはちょっと短いが、これは僕の身長に合わせたからだ。

 片刃で少し幅がある。

 黒い剣身には波打つ炎や楕円を組み合わせたような不思議な紋様が浮かんでる。


「魔法陣を彫り込んでから魔法陣が見えないように何層にも鉄粉を塗り込んだり磨いたりを繰り返してたら、真っ黒な剣身になっちゃった。

魔法陣を隠した上に偽の紋様を適当に載せたから、それっぽいでしょ」


「綺麗な剣だな。

ちょっと持ってみてもいいか?」


 ホウスウに渡すと彼は中段に剣を構えてみてから、剣を目の前にかざし歪みがないか見ている。

 ホウスウも多少は剣が使える。


「軽過ぎず、重過ぎず、バランスのいい剣だ。

普通の剣に見えるけど、どこが魔剣なんだ?」




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