07 時空術師
異世界の町に着いたら、先ずはどこへ行く?
冒険者ギルドで登録か?
冒険の始まりってやつだ。
宿か?
住むところはまず確保したいよな。
それともレアアイテムを売って資金を手に入れるか?
金がないとね。
しかし俺は違う。
俺はまず、町を出ようとする。
入ったばかりなのに敢えて出る。
居場所(巣)を探すんだ。竜としての。
当然この町には住むけど、もう一軒、竜としての自分の隠れ家が必要。
俺にはそこで、製作をする必要がある。
レベルアップをして、さらなるspを獲得し、いよいよ本格的にドラゴンのスキルツリーの第三層を埋める。
そして人間変幻lv4を確保したい。
人間変幻lv4でいよいよlv99になる。
リティラはlv99の可能性があると知ったら、自分もlv99の保険が欲しくなるよな。
なので製作活動で経験値を稼ぐ。
ついでに金も稼げる。
人間変幻は解除後、再発動するとmpが全快する。とても便利のスキルだが、一瞬姿がバレる。
だからの隠れ家だ。
「すみません、ここランディア周辺の地図をください!」
「迷宮の地図かい?」
そうか、迷宮の地図もあるか。
というか迷宮あるのか。
迷宮、魔物、アイテム。ワクワクする単語がいっぱい。
魔法で出来た装備だと能力の限りがあるよな。
迷宮の地図も確保するだな。
「そうですね。ここ周辺の地図と、各迷宮の地図もください。」
地図を手に入れし、いよいよ町を出る。
ここに入るには身分証明とか必要だろうか?駄目だったらまた転移魔法使うからいいか。
「上はライムの町、左には森右に川。そしてそれぞれ迷宮がある、と。」
さすがは魔法の都、周囲も賑やか。
魔法の都は附近は隠れ家になれそうなのは、南の山しかなさそうだ。
あそこには迷宮も村もない。
道もない。なんでもないだ。
でも、隠れ家というのはまさにそこがいいではないか?
俺はとりあえず左の森に入り、南の山へ迂回する。
人目のないところで飛んでいくのがいいだろう。
今俺の職業は「風奏者」、レンジャーの上位職業の一つ。
目当ては「風の加護」という森で早く走れるスキル。
そしてレンジャーの索敵と隠蔽もできる。
さすがは高級職業、利点は多い。
道無き道を風のように走ったかれこれ一時間。
「ここでいいよな。」
風奏者の索敵スキルで安全を確認。
まぁ、lv70以下の脅威がないだけだけど。
まさか俺以上の強者がいるとは思うまい。
「解除!」
竜に戻った俺は、山へ向けて飛んでいく。
「おお!」
俺、飛んでる。
つい数日振りだけど、我が本体が現した。
かっこいいだろうか。
でも空を飛ぶのが気持ちいい。
そしてさすがはドラゴン、風の加護を持つ風奏者より数段のスピードで山の麓を到達した。
再度変幻を発動して風奏者に戻る。
「反応あり、か。」
当然最初にやることは敵の探索。
この山に、気配は幾つあった。
気配探知lv1と2で魔物多数を探知出来た。
lv3で二つ、いや二人の気配を感じた。
そしてlv4で最後の一人。
三人、人間がいる。
この山は外れだったみたいだ。でもなぜ人間がいるのだろう。
地図から見ると、周囲には魔法の都以外何もない。
「山賊とか?」
山賊だって、こんな僻地に潜む必要ある?
ドラゴンの俺だってここに来るのに二時間かけたぞ。
でもまあ、もし山賊だったら、殲滅する手もある。
山賊だしな、賞金もあるかもしれないし。
どうせ魔王倒すから、いずれ人殺しはするだろう。
そんなことは気にしない。
月光暗殺狼もやったし。
俺はそう考えるながら、ひと気のする場所へ向かう。
しかし、風奏者のスキルで人が山を登る痕跡は見当たらない。
人の気配がするのに。
向こうから来たのか?向こう何にもないよ、超山だよ。
そして辿った場所は、盗賊のモグラのようなものではなかった。
そこには、黒曜のような金属の色が輝く巨大の門。
門の中に紫色の膜、忌々しいオーラが周囲に死臭を漂う。
「悪魔召喚?」
何と無くそんな気がする。
なぜなら、その門のそばに、大きな檻があって。
そこには、俺と同じぐらい年齢の子供が十数人が閉じ込められている。
生贄、だよね。
しかし何だろう、この子達の気配は全くしなかった。
脅威じゃない人間は探知出来ないというのは嘘だ。俺は魔法の都に、lv1とでたくさんの人間の気配を探知出来た。
「この子達、どうしたんだろうか。」
檻の中の子達は、みんな目が死んでる。
ショックや絶望で活くる希望を失ったのような目では無くて、ただただ目が死んでるだけ。
周りがまるで見えてないようだ。
そして檻の外は男三人。
術者らしい男と、槍を持つ男。
最後に剣を握る男。
術師から強いオーラを感じる。
ではlv3で探知出来た二人はこの槍男と剣士男か。
しばらく彼らの会話を聴く。
「さすがに子供を生贄にするには、心に忍びねえな。」
槍を持つ男はそう言った。
「そうだ、ベルグ。この数のガキなら、俺は帝都の奴隷商館にて、金貨500枚で裁いて見せる。」
剣を握る男はそう言った。
「バカ言え、アルン。こいつらは売り物にならねえ、そんなのお前帝都の奴隷商館の旦那達の前に置いて見ろ、犬以下の価額に貶されるにちげえねえ。」
「だからあんたは儲からねえよ。貴族って言うもんはよ、お前が想像以上の変質な野郎がじゃんじゃんいるぜ。」
「ガギのを抱く趣味か?それは分かるさ、ていうかそういうとこで奴隷を買う奴みんなそんなもんだ。けどよ、この檻の中のこいらよ。そこいらのガキとは違うよ。こいつらはもう駄目だ。死んでいる。だから売りもんにならねえ。」
「だから、売れるかどうかはお前みてえな用心棒が判断出来るものじゃねえよ。そもそもあんたはよ、貴族たちがどんなものを抱きたかったのを知ってる?同じ貴族の娘か?美しい純潔な娘か?国をなくした王族か?」
「それは、全部最高の売り物じゃないか?」
「そうだ。全部だ。その全部はただお前が知ってるジャンルのいい売り物だけじゃない。お前の理解出来ない好みの貴族は限りなく存在する。そして奴らの金貨の数は、奴らの欲しがる女よりも多く。求めてんだよ、奴らは。」
「それが檻の中の奴にどう関係ある?そいつらでも、欲しがる奴がいるってこと?」
「帝都の知り合いの商館の大商人に聞いた話がある。奴隷商館を抱える大貴族の誰かが、生きる希望を失い、生きる人形と化した女奴隷を大量に買収したことがあった。檻の中のこいつらほどではないが、買わされた男にひどいことをされ、抱く価値と労働力も失った女たちをねえ。当然こんな女、処分されるところか、はした金だけど売れるならそれはありがてえぞと、みんなそいつに奴隷を売っぱらった。」
「それはまたどうして。」
「そして翌月、その貴族はオークションを開いた。あれは俺やお前などが扱う女達が出れるオークションじゃあなかった。帝国に滅ぼされた国の王侯貴族達の姫と妃達だ。」
「それが壊れた女達にどう結びつくのか?」
「一緒にオークションに出たよ。」
「はあ?売れるか?あんなもん。」
「売れるさ、人形として。」
「はぁ?」
「あの貴族は、オークション台を王宮の姫の寝室のように設置した。そしてベッドの商品の隣に、壊れた女達を置いてたのさ。」
「…」
「捕まれてまだ穢されてない姫に、この世の最も悲惨な侮辱をされ、精神が麻痺された女達。その差は競売する奴らを狂わせた。オークションは大成功だったってね。」
「ちょっと、理解出来ない。」
「まぁ、俺も理解出来ないけど。こいつらは、あんな壊れた女達と違う、正真正銘の人形だ。買う手がないの状況には絶対にない。」
聞いて吐き気がする会話だった。
ちょっと俺の認識範囲を越えてる。
この世界はそんなハードの仕様になってるのか?
でもやはり、この子達は精神的なダメージを受けたじゃなくて、魂が抜けられた。
なんの意識もなくて、まるで
「植物人間。」
かつての俺のようだ。
「…」
術者は剣の男と槍の男を構わず、ただただ門を見る。
「なぁ、リマンドの兄さんよ。その魔将クレオラフスってのは、召喚されたら俺達を殺る可能性はないよなぁ。」
「クレオラフス様は寛大なお方だ、大人しくすれば殺されることはない。」
「いや兄さんよ、別にあんたを信じない訳ではない。ただこっちも心細いだ、もうちょっと保険が欲しいだよ。」
「金か、今更。」
「何ならこの中のガキを一つや二つをくればいいぜ。この猫人族の小娘、ソードキャットのガキだよなぁ。きっと俺より優れる剣士になる。面相も体もいいだ、そいつを売れば金貨50枚は下らないな。」
術師は鋭い目つきで剣を握る男を睨む。
「わ、分かったよ。取らねえよ。」
山賊と思ったけどそれ以上の下衆野郎達だった。
お前ら先の会話全部ダダ漏れたんじゃないか?
俺はしっかり覚えている。
あの子達は普通の人間には戻らないんだ。
ここはもっとこいつらを泳がせたい。
こいつらの目的が知りたいからだ。
槍の男と術者の名前を知ったけど。もっと有意義な情報口走ってくれないか?
お前らの目的じゃなくていいんだ、せめてあの悪魔のようなことを考えた貴族の名を。
「腹減ったよ。」
そういえば俺も数日食事摂れてない。
寝てもいない。
そろそろ自分の体調を心配する方がいいか?
そんなことを考えるながら、時間は経つ。
男達はあれから有意義な情報を一つも言ってない。
「やる、しかないな。」
子供誘拐+殺害未遂。
躊躇することはない。
そして奴らは多分多くの人身売買をやっていた。
本当は帝都の大貴族のことをもっと情報を貰いたいが、時間はもうない。
今の俺は人間の全ての治癒魔法が取得出来ている。
かつて俺のような子達を助ける術があるかもしれない。
急がないと。
「風神矢…じゃないよなぁ。」
またしても月光暗殺狼の時の過ちをやろうとした。
弓を使うスキルは駄目だ。
そろそろ弓を買うほうがいいか。
俺は「聖剣騎士」にジョブチェンジする。
手持ちの聖剣にぴったりの職だ。
「極・十字撃!」
これは聖剣騎士第四層の必須スキル。
効果は知らない、だが範囲はデカイと説明文にあった。
手に握った聖剣は十字架の形になり、光は数十メートルと伸び、三人の男に襲い、圧倒する。
不意打ちを喰らった三人の中、槍と剣の男は即死。
奴らにふさわしい最後だった。
術師はまだ存命。
「聖剣騎士?それもガキ?いや、アスタ族か。」
術師は口元の血を拭く。
「くそ、なんてパワーだ。」
今のは剣技か魔法か分からないけど、腕力と知力どれも2倍プラス100だから威力は多分lv99越え。
そして多分これはおれが初めて使った攻撃系オオワザかもしれない。
前回の不発が恥ずかしい。
そしてどうやら腕の立場人間の子供は、アスタ族に勘違いされやすい傾向がある。
「ランディアの山でこんな物騒な扉を開いといて、何をやるつもりだ。」
「貴様に教える理由がない。」
喋らないね、ここは俺の貧弱の魔法の都知識を弄まくる。
「リティラファナ様は抜け目ないお方だ、貴様らが何を企んでるか全てお見通しなのだ。」
「ぐっ!」
図星か。ここは奴を煽る。
「そんな程度の扉で召喚できる魔将なんて、クレオラフスか?それともほかの魔将か?こんなんでリティラ様を倒せると思ったか、愚かな。」
「ほざけ、クレオラフス様は結界の魔女に負けるはずはない。あんな結界、すぐ破れる!」
どうやら魔将クレオラフスはリティラファナと同格か、それ以上。
この男は精々lv70ぐらいだろう、俺の索敵に反応するから。lv99同格の魔将を召喚するには、やはり生贄が必要か。
「本当はリティラ様が弱輩の魔将を倒すところをお前に見せたいだが。子供たちを見捨てるわけがない。お前はここで散る、リマンドよ!」
「リマンド、だと?そうか、そういうことか。」
あ、あれ?
「リマンドは偽名だと分からないとは、さては貴様は何も知らないな。」
「何でそう言い切れるか?俺はリティラ様の指示でここに来た!」
偽名か!やられた。
けどリマンドの名前に、さらに何か引っ掛けがあるような気が。
「魔将リマンドの名前も知らないとは、貴様はどうやら魔王軍の全て知らないだ。そもそも結界の魔女はそんなことも知らない貴様にそんな任務を託すか。お前は無関係の人間だな。」
「…」
「計画変更だ!本来なら撤退戦だけど、貴様は無関係の人間なら、お前を始末してから、召喚の儀を始まる!」
そう言って、リマンド(偽名)は、檻の中の子供達を見る。
誰もか目が死んでいる。
「そうか。」
そう言ってリマンドは檻の前に立つ。
「お前のク十字撃は、子供達を巻き込む」と言わんばかりの顔。
俺は剣を構えてリマンドの前へ突っ込んだ。
先手必勝、俺はステータスが優れたから。
「暗黒矢」
「なっ?!」
俺の背中は何かの攻撃に当てられたのが分かる。
しかしなぜ?
俺は後ろを見て、そこにはリマンドがいた、そして彼の後ろは、檻。
「どういうことだ。」
「ふんっ!時空術師とは戦ったことないか。」
ないよ、人と戦ったことすらないよ。
「見せてやろ、時空術師の力。」
リマンドは手を伸ばす。
何かを仕掛けるのか?
俺は先あいつに突っ込んだけど、逆方向を向けて攻撃を受けた。
この職業名からすると、時空間を操る魔法師型だろう。
でも空間魔法なんて、登場するのは早すぎない?
俺も転移を使ったけど。
檻の中に黒い風穴が空いた、そこに居たイヌミミの女の子は消え、喉掴まれ持ち上げられた。
リマンドの手に。
「貴様はどうやら生贄達の命が助けると心掛けたなぁ。無駄だ。召喚はすでに半分進んでいる。こいつらはもう精神力が無くなっている、生きるのも今後食事も言葉もできない。生ける屍だ。」
「う、う…」
イヌミミの女の子は苦しそうに呻吟する。
「しかしこの平原狼人族の子供は、ドルイドの神の加護があるからまだ助かる。どうだ、俺を攻撃するのか?唯一の希望がなくなるぞ?」
リマンドは悪役っぽくセルフを吐く。
しかしまぁ、俺も月光暗殺狼の時の失敗は繰り返したくない。
俺は今の自分の長所、治癒魔法を徹底的に勉強した。
聖剣騎士の少ないmpで、この場面を打開するスキルを選ぶ。
幾ら時空術師が凄いでも、各職業の第五層の一番後ろのスキルに敵うはずない。
「精霊召喚・シェンドラルスピリット。」
これはドルイドの第五層のスキルツリーにあるスキル。
この召喚された精霊に触れるものは全て上位回復魔法に手当てされる。
「精霊召喚だと?お前、聖剣騎士ではなかったのか!」
聖剣騎士だよ。
「退魔、鋭利、加速。」
俺は聖剣に各種のバフをつけた。
そして剣を構える。
リマンドはイヌミミの女の子を手放し、俺との戦闘を集中する。
「精霊よ、「生命の花扉」を開け!」
そして俺の背中は、花々しい扉が開けた。
「リマンドよ、お前は勘違いをしていた。」
「何が?」
「人質は俺にとって無用でことだ。俺は再度極・十字撃を使う!」
「な、バカな!こいつら死ぬぞ!」
「生命の花扉は、生える人間の背中に、一度致死の一撃を防ぐパワーがある。そして今ここにいる人間を見ろう。」
「い、いつのまに。」
子供達と俺の背中は花扉が生えている。
リマンドにはない。
「こ、これは大戦の時の!なぜお前は、精霊王イラリオの精霊召喚を使える!ありえない、ありえない!」
「知らない知識を解説してくれてありがとう。魔将クレオラフス、リマンド。そしてその精霊王イラリオのことは時間が出来たらゆっくり調べていく。お疲れ様。」
「おい、何とかしろう!死にたくない!」
リマンド(偽名)は再度十字撃に圧倒される。
「どうやらお前は、月光暗殺狼以下だな。」
俺は見事対人間戦の初勝利を納める。