18 リティラと魔法の都
「ひどい目に遭いましたよ。」
「ほぉうか。」
リティラは俺が持ってきたチーズ頬張り、顎に右手を添えながら、興味無さそうで俺の話を聞く。
そしてちょっと小指に残ったチーズの味、小さい舌で確かめている。
はしたない、エロい、可愛い。
けど腹立つ。
食べる前に天使の笑顔を俺に見せたのに、かえて腹立つ。
「このベーコンも、中々。腕上がったなぁ、ジェームの坊主。」
「そのジェームの坊主が、リティラさんの晩酌用のつまみだと知って、いろいろおまけしたんだよ。」
「はむはむ。」
聞いてない。
「リティラさん、普段どうやって食べますか?外食は、無理ですよね。」
子供っぽい仕草と少女の見た目ですけど、リティラは確実に千年生きたエルフよな。
仙人とかみたいに雲を、いや大魔導師だから、空気中の魔素で生きてるわけではないだろう。
俺とヘレナみたいに、あんまり食べなくても生きていけるかもしれない。
「自炊よ。」
「リティラさんが?三食も?」
「悪い?」
顔をしかめた。
いや悪いというか、こんな金色輝くリティラに、油煙臭がつく想像が出来ないだけだ。
「いや、長く生きた方だから、料理の腕が上達かと思います。」
「普通よ。」
リティラは、引き続きちょっとはしたない食べ方で酒と料理を楽しむ。
それにしても、リティラって常にこの紺白いのロープを着てるなぁ。
着替えは?
汚れてないから、着替えはちゃんとしてるかもしれない。
見たまま凄い清潔感あるだな、リティラさんは。
でも変わり種持たなくて、美少女の周りの人に対しては非建設的な行動だ。
「リティラ様、僕が献上した服は?もう試着した?」
「献上って・・・・・・まぁ、まだだね。ていうか装備は試着する必要な。」
確かに、俺のコートは違う体形のセラが着てもピッタリだった。
「着てみれば?」
「あのなぁ、あれは高い奴だろう。飲み食いする間着るわけないだろう?」
突っ込まれた。
そういえば高かった、忘れてた。
作るのに簡単過ぎたので、いつも忘れる。
でも見たいよ、ドレス姿のリティラ。
「僕は構いませんよ。」
リティラはジト目で俺を見る。
何?来ますか?豚足発言?
そういえば今日忙しいから、全然三魔将とかオークとかのこと、調べる余裕無かった。
オークのフルネーム忘れそう。
「えっと、何オークだっけ?」
「・・・クリピア大オーク。」
酔ったけど覚えてたんだ。
明日調べよう。
「まぁ、もし外へ出る機会があれば、着てみよう。」
リティラはため息を吐きながら、酒をすすった。
まだ酔ってないないね。
残念。
俺の残念顔から何か察知したのか、リティラは、
「はぁ、最初会ったから思ったけど、お前は本当にませすぎるガキだな。色々な意味で。」
心はガキではないからしょうがない。
「リティラ様の可愛さが罪深いですから、しょうがないですよ。」
リティラは何を言わなくて、ただ俺を見る。
そしてなんか次の言葉軽く悩んでるけど。
前回は酔ったみたいなら、豚足発言はする時だろう。
でも別に酔うも酔ってなくても、リティラのガードは硬いね。
手強い。
でも嫌な訳も示してないから、ついついアタックする。
俺のことどう思うだろう、リティラは。
「まぁ、服の話。」
えっ?服の話に続きあるの?
「服というより、お前が糸を売り出すこと。聞かせて。」
その話か。
「それは、聞いてくださいよ!」
本当に聞いて欲しい。
フォーレ家とノートリアン家。
俺はガリサスとのことをちょっと大袈裟にリティラに話す。
でもリティラは聞く途中、結構穏やかていうか。
「想像通り」みたいに、麻痺してる。
「「お前!あの女と我々を潰したいのは分かったよ」だってよ、「あの女」に呼ばわりだよ、リティラ様、ありえなくない?まじ信じらんないだけどぉ!」
俺の必死なアピールに、リティラはただ
「はぁあ。」
ため息を吐いただけ。
「まぁ、「あの女」呼ばわり、結構される。特にノートリアン家。」
ガリサスみたいなチビおっさんの群れが、リティラを「あの女」「あの女」と呼んでるのを想像したら、本当に腹立ってきた。
特にミラちゃんあたり、マジギレするだろう。
「なぜですか?魔法の都のみんな、リティラさんのおかげでここにいられるみたいなものでしょうに。」
今日のリティラは控えめな空気で、少し慣れない。
魔法の都の話だからか?
「いろいろね。」
そしてリティラは、酒の余談として、魔法の都の四大勢力の話をしてくれた。
リティラが千年前、賢者の長として、賢者達とこの魔法の都、ランディアを建設した。
更なる魔法の高みを極めるために、拠点を作ったのだ。
賢者達はアランという男を筆頭に、研究所をたくさん立ち上げ、魔法の研究を続けた。
一方魔法の都の創造主であるリティラは、賢者達がより簡単に魔法の都に通うため、転移の間を設置し、たくさんの新参賢者を受け入れた。
人類が魔法の研究を続ける、永久機関である。
みんな魔法と仲間のことばかり考えていた。
リティラ様は懐かしそうに語っていて、いかにも「あの頃は楽しかった」の感じ。
俺も初めて、リティラは中高生のコスプレ少女ではなく、千年生きていたエルフだと実感した。
「みんな、アランみたいに研究に没頭して、馬鹿ばっかりだ。まぁ、今もそうだけど。」
微笑ましく酒を嗜むリティラ。
特にアランという男のこと、懐かしく喋っていた。
これは、何かあったな。
ちょっと気になる、まさか俺、本当にリティラのこと気にはじめたかもしれない。
まぁ、詮索はしない。
アランって男はエルフでなきゃ、多分もう亡くなったかもしれない。
俺もそんなに野暮じゃない。
錯覚かもしれない、リティラも俺の表示を見て、表情を緩めた。
ちょっと悲しみが顔に残ってるけど。
「世の中は、魔法の都は賢者の都市だと言うけど、別に全員賢者ではないから。」
ああ、知ってる。
今日俺に弾丸を放ち、剣を構えたとある次期族長様。
あいつ、絶対賢者じゃない。
「でもアラン家、研究院は、唯一賢者、あるいは魔法使いにしか入れない組織だ、今でも。」
「なるほど。」
そしてリティラにとっての実家とも言える存在。
ミラちゃんの母方の実家であるバトン家は、八百年前、この魔法の都に訪れた。
バトン家は当時、この世界で最も強い国である神聖帝国に追われている賢者の一族だった。
彼らは避難のために、魔法の都まで引っ越した。
「当時の神聖帝国は、神聖術以外の魔法を全否定する方針でね。魔法の都も、目の敵みたいなもの。」
ちょっと険しい表情になってリティラ。
彼女と姪のアティラ、アラン家、そしてバトン家は、神聖帝国と二十年も長く対抗した。
最後の戦い、魔法の都存亡の戦の時。
神聖帝国の中、クーデターが起きる。
後に三教国に割れた神聖帝国は、魔法の都を構う暇もなく、あっさり兵を引いた。
その後、教義の改変と月日の流れで、魔法と神聖術の対立は無くなった。
「普通に三教国出身の奴が挨拶に来るから、最初はびっくりしたよ。」
そして今では笑い話で済ませる。
そんなこんなで、バトン家も魔法の都に移転した。
彼らは賢者だけではなく、兵も握っていたので、どんどん住民が増える魔法の都の治安を守る仕事を受けた。
「では、バトン家もリティラ派ですね。」
「それは、まぁ、そうですね。当主にも、よるけどね。」
一族の恩人であるリティラは、暗い顔になる。
バトン家は最初こそリティラを感激していて、喜んでリティラの下についたみたいだけど、だんだん冷たくなっていた。
特に百年前から。
その時のことを話すリティラの悲しげな顔を見ると、恩知らずめがとバトン家に罵りたい。
でも四十年前の大戦では、リティラ様は再度バトン家と手を組み、ていうか再度バトン家を救った。
一族の恩人、二回目だ。
だから先代と今の当主はリティラゴリ押し派に戻った。
その情熱はアラン家越えたとか。
だからミラちゃんみたいな、リティラ崇拝する子もたくさんいる。
「良かったんではないか。」
「悪くはないよ、悪くは。でも、また百年を経てば、今の子達は、どうなるだろう。」
どうなるって、それは死ぬでしょう。
エルフやドラゴンじゃないだから。
悲観的だな、リティラは。
一度傷つけたこころは、そう簡単に癒せるものではない。
人間を千年見てきたリティラにとって、バトン家の忠誠と憬れ、幻かと思うかもしれない。
確かにそれは、悲しい。
俺も少なくとも二千年を生きるつもりだったので、ためになる。
「勉強になりました。」
「どういう勉強よ。」
バトン家を受け入れた魔法の都は、神聖帝国と戦った後、国防のため、リティラは大いなる結界を築き始めた。
実に数十年をかかりました。
結界の建設の時はもちろん、結界を維持するため、リティラは毎日忙しいだった。
魔法の都の研究とまつりごと、手に負えなっている。
リティラへの負担が大きすぎるため、アランは知り合いである、ミールドワーフの王族に頼んで、火薬と銃と技師達を調達した。
俺の推測だけど、多分アランはリティラともっと一緒にいたいだから。
俺だったらそうしてた。
そしてミールドワーフの技師と、魔法の都の住民から募集した者は、結界側の維持と見張りを頼まれた。
ていうかアラン、生きてたか。
少なくとも200年は生きてた。
人族ではないようだ。
「ミールドワーフと原住民、彼らはフォーレ家を結成したか?でもグリフォン隊は?またグリフォンを投入してないの?」
「それは・・・」
約七百年前、魔族はこの大陸を侵入した。
リティラ達は魔法の都の守りを固めながら、人間側に加えた。
前線へ出たリティラ、その隙を見て、魔族は魔法の都を襲撃した。
とある夜、魔将グランボは一部の魔族を率いた。
有翼の魔族を、空からだ。
魔族の侵入のリアルタイムを逃した魔法の都は、大きく損害を出た。
アランもその戦いで、戦死。
「まぁ、あれはやられたわね。」
リティラは意外と淡々に話している。
そして今回の教訓を得た魔法の都とリティラは、リティラの実家、精霊の森のグリフォンとグリフォンを躾け出来るエルフを招いた。
グリフォンの躾けは中々難しく、賢者の腕力ではとても出来ない。
かといて、腕力だけがあっても、魔法の力に知識がないと、結界の維持と見張りも出来ない。
幸い、ミールドワーフはエルフ以上の腕力持ち、魔法にも優れた。
その一族は、グリフォン隊の騎士に相応しい対象になった。
当然結界組の中心は、ミールドワーフであるフォーレ家に傾いた。
魔法の都、三大の勢力になった。
「てことは、ミールドワーフは魔法の都の傭兵みたいな立ち位置?」
「さあ。でもあいつら単純だけら、数百年も同じ態度で、やりやすい。」
「そうですか、僕は今日、ミールドワーフのせいでひどい目にあったよ。」
あいつらにも慣れるリティラも、中々あれですね。
「忠誠を誓わない、そしてやりたい放題。それもまた、一種の忠誠ですよ。それにフォーレ家も別に、ミールドワーフだけではないから。」
そして最後は、気になるノートリアン家。
リティラの雰囲気は、一気に変わった。
怒だな。
俺が最初、リティラに会った時と同じ。
「ノートリアン家は、四十年前の大戦後、ここに来た商会の団体だ。」
「商会ですか?」
「ああ、この世で唯一、アスタシア人族とラモリ小人族という敬遠の種族を束ねた大商会。」
アスタシア族、アスタ族のことですね。
僕が勘違いされた種族。
ラモリ小人族、多分、ガリサスの種族だろう。
敬遠の仲ですか。
「あいつらは四大勢力の中、唯一魔法の都となんの縁もなく、ただただ入り込んだ勢力だ。」
「商売のために?」
「ああ。おかげで魔法の都は盛り上がってるけど、ムキー。」
リティラは、イライラし始め、酒を多めに飲むようになる。
「リティラさんへの尊敬が足りないですね。」
ノートリアン家の話になると、リティラは一気に頭に来た。
先魔族の侵攻のことも落ち着いたのに。
「あいつら、あたしは会員でないと、新しい開いたレストランから追い出しただよ!このあたしをだよ!あたしが創造した町で、あたしを追い出した!思い出しても腹立つ!」
「それは、ひどいですね。」
リティラ、やはり舐めなれると、怒るよな。
プライド高いていうか、子供っぽい。
でも、ノートリアンも、中々アレですなぁ。
魔法の都の創造主であるリティラを、あんな不敬を働くとは。
商人だから、頭悪いではないよね。
リティラの話だと、ノートリアン家は全く魔法に興味なし、金儲けだけのため、魔法の都に活動をする。
そして完全にリティラアンチ派。
リティラの権力をもっと減らせ減らせと、毎月の勢力会議にうるさくて。
でもリティラの権力って一体なんだろう。
見たところ食っちゃ寝引きこもりではないか。
「ちょっと待って、リティラさん。あなたレストランに行っきたと、つまりここ、出れるってことだよね。」
「ああ、そうだけど。」
そういえば、出る機会があったらドレスを着るかどうかの話をしたな。
「制限されてるってことですか?」
「いや、それはない。ただ可哀想でしょう、新しい賢者がここへ来てあたしを見れないなんて。」
確かに、それは可哀想。
転移の間にクライブのおっさんだけなら、俺は次の町へ移動するかもしれない。
「にしても、散々飲んだのに、今日のリティラ様、酔わないね。」
「あんま嬉しい話してなかったから。」
どうやら魔法の都のこと、彼女にとって、嬉しくないではないよだ。
それもそうだ。
毎日転移の間に引きこもって、出る時は必ず戦争の時だけ。
俺だったら耐えられない。
「リティラさん、いつかこの魔法の都を出たいという気持ち、あるですか?」
聞きたいけど、言えなかった。
「では僕は明日、「大戦時魔王軍実力ランキングTOP10」とクリピア大オークのことを調べて、楽しい話をしにきますね。」
「魔将と変態オーク、どこが楽し話題だよ。」
リティラは今日、二度目の天使の笑顔を見せた。
一度目と違う。
彼女が落ち込むところを見て、彼女の一生を聞かれた、ここに縛られてるのを分かってから、俺に見せた笑顔だ。
本当に、彼女を好きになりそうな笑顔だった。




