17 魔法の糸
昼の残りの焼肉とセラが作った卵と野菜の料理を食べた後、俺は転移魔法で宿に戻る。
焼肉はほとんど口につけてない。
にしても、グリフォンって生の卵食べるね。
共喰い?でも鳥は確かにほかの鳥を食べるよな。
そもそもグリフォンは鳥か?
ちなみにグリフォンの餌は、ヘレナ達が魔物や野獣を調達する、こいつの食事は心配いらない。
まぁ、鳥のことはどうでもいい。
今度戻る時、女子達に何を持って行くんだろう。
食事後ヘレナは素手でセラの髪をセットするのを見た。
可愛さしくて微笑ましい、やはり女の子だから、ブラシは要るよな。
ついでに石鹸やタオルなどの生活品とか。
そう考えて俺は自分が取った部屋のドアを開く。
そして一通の手紙が落ちた。
ラブレター?
『裁縫職人連合のガリサス・ノートリアン様がお見えになります。 魔導の虎鯨亭 ジェームより』
男だ。
宿主の旦那だろう。
でもなぜ裁縫職人連合は俺に用がある?
心当たりなんて、全然。
無いわけではない。
今日俺は魔法の糸*25と魔法の糸*180個をそれぞれ防具屋のおっさんとミールドワーフの姫様に売った。
市より高値で。
でもまさか、こんな早く裁縫職人連合の連中にバレるとは思わなかった。
俺の糸売りを知ってる人間は、防具屋のおっさん、ドワーフの姫とその手下、現族長。
あとミラちゃんぐらいだ。
「ミールドワーフだな。」
直感ですけど。
ほぼ間違いないだろう。
ミールドワーフには秘密もクソも無いのを知ってた。
そもそも秘密を守ってくれと頼んでない。
でも何故バラした。
理由は分からない。
ドワーフの姫はない。
俺が糸を売った後すぐ任務と言ったそうだ。
その時バラしたか?
でも隠れ家に帰る時彼女と会ったぞ。
そしてきっと今はグリフォン紛失で大パニックだろう。
彼女の線は薄いな。
族長だって、たかが金貨1枚に銀貨80枚の糸のことで、わざわざ裁縫職人連合にチクる?
確かに人徳ないし、暇そうだけど。
そこまでする?
姫の手下もそうだ、そもそも取引する側だから、俺と同罪だろう。
いやこれ罪ですか?
にしても分からん、誰がチクたのが。
こんなことがあろうと知ったら、市の価格で売ればよかった。
端金なのに。
幾らでも作れるのに。
そこまで厳重なことなのか?
俺を探るまで?
今あのガリサスって野郎は下にいるだろうか。
そもそもそいつ俺をどれぐらいを待ったのか。
「いや待ってよ、この手紙の意味は?」
なぜ宿の旦那はわざわざ俺に手紙を?
言うなればそいつ今、下で俺を待ってるだろう?
だったら手紙を寄越さなくてもいいだろう。
そもそも俺は転移魔法使った戻るとは限らないし。
やはりそいつやばいのか?
俺が僅かな可能性でも、逃げるとでも言うですか?
分からん、俺は魔法の都ど新人だから、分かるわけない。
「あっ、そういえば。」
魔光板を開く。
リティラファナ・イシェンドラをクリック。
「手書きか。」
メールを書く。
『リティラ様、転移魔法で宿に帰ったら、ガリサス・ノートリアンと言う男に絡まれた。助けてください。』
「送信、っと。」
リティラへの初メールだ。
リティラ、スルーしないでよ。
送った後、魔光板はすぐ鳴った。
「やっべ。」
俺は慌てて部屋に戻り、ドアを閉めた。
音をバイブにしてくれないかな。
でもビーパーだから無理か。
俺は魔光板を見る。
『なんで奴に絡まれてるんだよ、魔光板弄る余裕ある?』
さすが女子、手書きでも返信は早い。
俺は魔法の糸の件と今の状況を書いて、リティラに送った。
ちょっとやばい状況なのに、やはり女子とメールのするのは少し楽しいね。
『そんなことで?あいつ確かに裁縫職人連合の1人だけど、ノートリアン家7人会議の1人でもあるよ。なんでお前なんかに構う暇あるのよ。別のことやった?』
ノートリアン7人会議?なにそれ。
そういえば、4大勢力、ノートリアンあった。
偉い奴かこいつ。
そして別のことは、やってた。
グリフォンチクった。
でもバレてない。
例え姫がバラすにも、別に俺がバラされるわけではない。
そもそもフォーレ家のことだ、そいつ関係ない。
大丈夫。
『多分ないです、助けてください。』
しばらく。
『怪しいな。そもそもお前はあたしに散々無礼を働く度胸あるのに、こんな小物に怖気つくとは。とりあえずクライブをそっちに向かわせるか、クライブに任せろ。お前は彼に頼っていい。』
『ありがとうございます!』
クライブのおっさんか、とりあえず一安心だな。
でもおっさんはこっちまで少なく10分はかかるよね、下手すれば一時間だって。
暇だな、出るわけにもいかないし。
どうする?
リティラとメールの続きを?
確かに聞きたいことが山ほどある。
ガリサスのこととか、7人会議とか。
ミールドワーフのことも聞きたいなぁ、グリフォン隊も気になる。
とりあえず、今一番言いたいのを
『リティラさんって、酔う時可愛いですね。』
「うん〜〜」
返信中々来ない。
きっとクライブにぼくのことを説明してるから忙しいだろう。
「来た!」
『さすがは貴重なspを魔光板に費やした男、ろくなこと言わないね。』
うわっ、きつっ。
『ガリサスの件、解決してないのに、気分転換早いな。』
連発。
ここは恥知らずで押し通す。
『またリティラさんと飲みたいです』
『お前飲んでないよ、昨日。』
おお!誤魔化した。
さらに。
『リティラ様の呑み姿、見たいです。』
『敬称、一つに固定しなさい。お願い事といやらしいことを考える時しか様付けされるのも腹が立つだけ。』
バレた。
さすが千年以上生きた美少女、ガイドは硬い。
俺ぐらいのアタックはノーダメ。
メールの返信、全部きつい。
『もし本当にあたしと呑みたいなら、虎鯨亭のチーズ、持参すること。』
「…」
『普通のやつと、トロトロのやつ。二種類がいい。』
今夜飲む気だな、リティラ。
『では明日、参ります。』
『今日がいい。』
おお、これだ!
やっと俺が望んだレールに戻った。
リティラをからかうこそ、始めて暇潰しになるのよ!
『クライブ着いたみたい、もう降りていいよ。絶対今日来てね。』
クライブのおっさんめ、俺の楽しい時間はこれからなのに。
でも「絶対今日来てね」か。
デゥふふふ。
やむなく階段を降りて、クライブのおっさんが見えた。
他にチビ1人と黒ギャル発見。
チビは、本当にチビだった。
100センチちょいぐらいのチビだった。
ガキではない、髭が生えてる。
狡猾そうなおっさんだ。
これが噂のアスタ族?
いやいや、あんな身長、人間と間違われる可能性はゼロ。
小人だよな。きっと。
そしてこのおっさんこそ、ガリサス・ノートリアンだと俺は確信した。
いかにも小賢い商人ぽい。
小人の隣には、綺麗な小麦の肌色の女の子。
髪は白い、露出度高い服を着て、スタイル抜群。
年齢はヘレナぐらいに見える。
角とエルフ耳は持ってない。
そして可愛い。
カリスマカリスマカリスマカリスマカリスマカリスマカリスマカリスマ。
どうやら3人はすでに会話しはじめた。
「代理人クライブ、なぜあんたはここに?」
小人はクライブのおっさんが珍しいようだ。
「ガリサス様こそ、隣の女性はどなたでしょう、南の人はあんまり魔法の都には来ないだよ。」
「わたくしはマンティと申します。魔法の都に少し営業をしに。」
マンティだと?!腹減った。
「こいつが勝手について来たんじゃ。」
確かに、チビのおっさんは女の子、馴染んではいないようだ。
クライブのおっさんはやけに女の子を警戒してるそうだ。
「クライブさん、こんばんは!」
俺はタイミングを計って、割り込む。
「おお!可愛い男の子!」
カリスマ、このマンティという女の子に効いたのか。
女の子は俺をいただきたいような目を俺を見る。
俺ってそこまでやばいか?
セラにしか可愛いと言われたことないけど。
「お前が魔法の糸を市価より高い価格で売ったガキか!」
おっさんにはカリスマが効いてないみたい。
すぐ激怒した。
まぁ、おっさんに効いてたまるか。
そしておっさん、あまりにチビだから、全く威厳を感じない。
リティラも最初コスプレ女と思ったけど、美少女としての敬意は一応ある。
このおっさんの場合…
「ダメですか?魔法の都の法的では。」
俺はクライブのおっさんに訊ねる。
もし法的に駄目だったら、防具屋のおっさんとミールドワーフが俺の商品を買うことないだろう。
「なんだクライブ、知り合いか?」
ガリサスはクライブの方を見る。
白ばくんな、俺さっきクライブのおっさんに挨拶したぞ。
「リティラファナ様のお気に入りです。」
「「「本当か?!」」」
俺、ガリサス、マンティが同時に喚いた。
「なんで君まで…」
マンティさんは俺をつっこむ。
「カイトくん、リティラファナ様から、賢者のステッキを授けただろう。」
「これですか?」
俺は昨日貰ったステッキを出す。
「げっ。」
ガリサスはステッキを見て、なんとも言えない表情。
なるほど、クライブのおっさんは駄目なら、リティラの名前なら。
なんせ魔法の都の創造者。
これで解決?
「カイトくんは魔法の糸、幾つ売ってたの?」
「200個ぐらい。」
「では僕がリティラファナ様の代わりに、裁縫職人連合に弁償金を。」
「いいえ、いいんだ。」
ガリサスは引き攣った顔でクライブの金貨を拒否。
いや、仮に弁償でも、防具屋のおっさんとミールドワーフに払うべきだろう。
なぜこいつに。
「それにしても、ガリサス様随分とお暇のようですね。豪商のあなたに、こんな些細なことを。」
こいつ金持ちか。
うん、確かに小人は金持ちそうな感じがする。
「このガキがあんな糸を出すとよ、こっちはまずいんだよ。金の山なんて一瞬溶けるよ。」
金の山、持ったんの?
「そんな大袈裟な。」
さすがに俺は反論した。
たかだか金貨2枚の金を。
「ふんっ、白ばくれるのも無駄よ。お前は質の高いの糸を作り出し、高質の糸しか作らない孤高の職人を演じた。生半可の奴じゃあ分からないけどよ、ベテランの俺には分かる。糸を生成した時間、明らかに同じ日に作った。180個もな。」
え?
分かるの。
どうやって?
俺でも分からないよ。
にしても、180個。
ミールドワーフめ。
「数十人の職人を抱えたか、それとも結界の魔、じゃなくて。リティラファナ・イシェンドラが何かをやったか。お前の手品は分からないけど、お前と、あの女が我々を潰すのは分かったよ。」
「いや、いやいやいやいや。敵対する気はない。」
誤解。
とんだ誤解だ。
俺はそんなつもりじゃ。
「本当に魔法の糸、一日で200個作ったの?」
クライブも不思議そうに俺を見る。
確かに200個の糸は大したことない。
でもガリサスの目には、俺は毎日高質の糸を200個ぐらい出したら。
本来の糸の相場は、崩れる。
知ったことかとでも言いたいが、厄介ことは避けたい。
「臭い芝居だ!どうせお前もグルだろう!」
ガリサスの怒りはもう止められない。
どうする?どうする?
やはり親切な人?
親切な人は何もかもくれたパタン?
「ガリサス、落ち着け。その子とその人。白よ。」
さっきから高みの見物の少女、マンティ。
彼女はガリサスの頭を軽く叩き、話を続けた。
「男の方は何も知らない。男の子は隠しことこそしているが、あなたに敵対する気は確かにないですよ。」
「本当か?」
マンティの言葉を聞いたガリサスは俺に聞いてくる。
マンティに言葉、真に受けたみたい。
何かの能力か?
商人にその能力、チートだろう!
落ち着いたら俺も商人の職業見てみるわ。
「親切な人から貰った糸です。もうこれっきりです。」
そして俺はジョブチェンジをする。
人間変幻lv2で、lv50の裁縫職人になり。
「生成!」
今朝より質がだいぶ落ちた糸を生成した。
「これが僕が作れる糸の量です。すみません、ちょっと欲張ってしまいました。」
「なるほど。確かに、質が落ちた。」
ガリサスはじっと観察しながら、落ち着いた。
でもマンティは不意な笑いえおして俺をみる。
この子にはバレたな。
それから、ガリサスから市価を守らないといけない説教を受け、やっと解放された。
たくさんの職人の生活が関わるとか、今まで築いた信頼関係とか。
さすがに鬱。
「今日はありがとう、クライブさん。」
やっとガリサスとマンティが退散。
ここは先ず、助っ人に感謝を。
「まぁ、大したことではないよ。」
「向こうリティラ様にあんなこと言ったでも?」
なんか途中宣戦布告みたいなこと言った気が。
「ノートリアン家、いや商人はそういうものだから。金に関わるとああなる。」
「そうですか。」
怖いなぁ。
「まぁ、これはいつれ解決しなくては。にしても、よく魔法の糸200個持ってたな。」
「だから親切な人が…」
「ま、そういうことにしていこう。」
クライブさんは笑いながら去っていた。
クライブのおっさん、ちょっと嬉しいようだな。
ノートリアン家と何かあったのか?
しかし、今回の件で、今後裁縫職人関係で稼ぐのを暫くやめるつもりだ。
ちょっとやばい連中だ。
もし俺の作品がまた何か手懸りあったら、どうなるか。
ヘレナとセラが落ち着いたら、完成品の服を売って貰おう。
数は少ないし、高値になる。
とりあえず今日で、魔法の都4大勢力、フォーレ家とノートリアン家、全部やばい連中だってことは分かった。
後でリティラの顔見て癒されよ。




