009 おっさんと森の中
009 おっさんと森の中
おっさんは兵士と森の中にいる。
理由はレベルアップのためだ。
おっさんは魔力が無いのがわかっている。
肉体強化も使えない。
しかし、この世界にはレベルアップという概念がある。
兵士がいくらマッチョだとはいえ確かにおかしな動きをしていた。
おっさんこれでも武術やってたから少しはわかる。
それがどうもレベルアップによるものらしい。
明確な数字とかはわからないが、ある時突然それまでよりも良く動ける様になるらしい。
おっさんは召喚獣だけど人間です。
それで、レベルアップに一縷の望みを掛けて森まで来た。
「まぁ、今のお前ぐらいならゴブリン20匹も殺ればレベル1つぐらいは上がるだろう」
という事。
ゴブリンって、あのゴブリンだよな……
説明も聞いたが、ファンタジー作品に出てくる緑色の小さいアレらしい。
人型の獣を殺せるのか?
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結論から言うと、普通に殺せた。
槍でザクザクやった。
おっさんは動物愛護の精神を忘れてはいないが、命の危険を感じれば反撃はする。
つまり、ゴブリンめっちゃ怖かった。
あの皮膚の緑色が森の中では保護色になっていて発見し辛い。
シルエットがはっきりしないものが突然飛びかかってくる。
槍を突き出し、払い、ひたすら戦った。
やばい時は兵士が助けてくれたが、複数出てきた時も一対一になるように兵士が調節してくれて、結局おっさんがほとんどのゴブリンを殺した。
三日間の累計は100匹を超えた。
1日30匹以上である。
まとめて出てくる事も多いが、30分で一回は出くわす。
ゴブリン多すぎ。
「結構狩れたな。これでしばらく大丈夫だろう」
という兵士の言葉から、どうやら駆除の仕事も兼ねていたらしい。
実は召喚獣の野外訓練もこの森で、ちょうどゴブリンやその他のモンスターが増える時期に合わせている。
それまでまだ一ヶ月程あるのだが、おっさんは一足先に駆除活動の手伝いをやらされた。
三日間の結論として。
「だめだな。お前はレベルアップしないのかもしれない」
望みは絶たれた。
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「そう。レベルアップは無理だったの。まぁ、魔力も無いみたいだし、普通の人間とは違うのかもね」
フェリ様は相変わらずおっさんを責めない。
本当はもっと言いたい事…… いや、なさそう。
何か悲しそうな、達観したような表情を一瞬見せた後、
「オッサン、アレ、このあいだの続き話しなさい」
「と言いますと?」
「心と体が入れ替わる話」
「あ、はい。どこまで話ましたっけ?」
「好きになった女の子に会いに行くところ」
フェリ様はおっさんの話を楽しそうに聞いてくれる。
でもそれはまるで、おっさんが負い目を感じてしまわないように、おっさんにも出来ることがあるんだと思わせるためにそうしているみたいだった。
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