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001オッサン、光に包まれる

オッサンは獣です


もう三十代半ばのおっさんが光に包まれた。気が付けばそこはファンタジー世界。そこでオッサン、獣になる。

※いつものうちの作品です※


001 オッサン、光に包まれる



三十代半ば。

週に一度剃る無精髭、昭和顔。

髪も面倒で丸坊主。

周りの同じ年頃の連中は酒にタバコに飲み会に。

しかし、元々酒もタバコもやらなかった私はなんとなくその波に乗り遅れ、付き合いというものとも離れている。

これでも二十代最初の頃は色々頑張っていた。

10年以上彼女がいないせいで皆んなに童貞と思われているけど、童貞ではない。

思い返すと恥ずかしい思い出だが。


三十も半ばになると、自分の程度についてわかってくる。

肉体の成長は四十ごろに止まり、後は維持するか鍛えないと筋繊維は減るばかりらしい。

脳はどこかで、もうここまでだと分かってるのだろう。


自分の程度に気付いたおっさんが取る手段は例外もあるが、大きく分けて2つ。

身を縮めて生きるか、周りに当たり散らして生きるか。


たまに同級生や同期と会えば「最近の若者は」などという言葉がよく出てくる様になった。

古代エジプトから何も変わらない。


私は身を縮める方に進んでしまったので、そういう話もできない。また付き合いが減る。


独居老人。何年も先だけれど、そんな未来が見える。


おっさんは割と筋肉質だった。

腹筋はあるものの胴体が太いので内臓脂肪かと悩んでいたが、健康診断では全く優良だった。表層の筋肉もインナーマッスルも太いのだろう。

筋肉は一年頑張っても5kg付くかどうかだ。

血流が良くなってすぐに太くはなるが、成長するのは遅い。

筋トレを続けていたおっさんだからこそ、筋肉が太いとも言える。


おっさんは読書やアニメ、映画も好きだったが、運動はそんなに好きとは言えなかった。

運動は嫌いだど必要性はわかっていて、その妥協点が筋トレだった。

もう一つ、武術系の道場に通っていた。これは三十歳を過ぎてから老後の不安に囚われたからである。

いつか筋肉が無くなった時のための備えとしてやっていた。


筋トレ趣味の部下に「すごいっすねー」と褒められるが、おっさんはもう身の程を知っている。

「三十半ばになれば君ならもっと大きくなるよ」

続けているだけだったのだ。

30半ばで、どうやら肉体的な才能も無いらしいという程度を知った。

周りより筋肉はあるし、運動神経はともかく単純な腕力ならある。

握力は無駄に80kg超。

食生活その他に気をつけて、健康状態も良い。

誰でも積み重ねれば到達できるものだし、三十代半ばでこれはやはり才能も無い。

周りがやらないから、自分が頭1つ抜けているだけというのも理解している。


だけど、おっさんにはもうこの体しか寄るところが無い。


妻も、子も居ない。

親とは離れて暮らしているが、兄弟がいるから大丈夫だろう。


それは恐れだった。

この先の人生に対する恐れから、おっさんは体を大事にしていた。

予想が付く未来。独居老人になったとき、自分で立って歩けるかはこの筋肉貯金に寄る。

太くなったこの筋肉を何十年もかけて切り崩していく。

後は下り坂から転がり落ちていくだけだ。



食事を終え、3時間はたっぷり趣味の時間だ。

おっさんは映画を観ようとしたのだが、再生ボタンを押すと、突然画面が激しく光った。

びっくりして顔を背けたが、それでも眩しい。

画面ではない、周りが全て光っている。


おっさんは強く目を閉じ、手で顔を覆って、体を丸めた。

「うああああああああっ!」

なんだかよくわからないが、悲鳴も出てしまった。



その日、おっさんは地球から消えた。



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