何もなかった日の次の日
読んでくださっている方々ありがとうございます。
あの日から授業中にであの生き物が僕がみえてないか探りに来ることが何回かあったがなんとかやり過ごし、比較的平穏な日が続いている。
そんなある日のこと。僕は昨日の晩遅くまでマンガを読んでいたために閉まりそうな目を擦りながら学校にやって来た。教室に入る扉の前で眠たくて出そうになるあくびを噛み殺して立っていると、
「ちょっと、廊下に突っ立ってないでどいてくれる?」
「あ、ごめん。」
思わずそう言って振り返ると、そこにいた女の子は隣のクラスの月見坂さんだった。彼女は僕と同学年で学年のいわゆるアイドル的な存在として有名だ。橋本さんも人当たりがよくて明るいので人気があるのだけれど、月見坂さんは彼女とは反対に近より難い雰囲気を持っているのだけれど、その可愛らしさもあり人気がある。
僕が廊下の端によると彼女は、
「ふん。」
そう言って隣のクラスに歩いていった。僕は教室に入り自分の席に座ると、小沢くんが寄ってきて、
「よう、朝から姫に絡まれたのか?」
さっきの様子を見ていたのか、話しかけてきた。
「姫って?」
「月見坂のことだよ。影でそう呼ばれているらしいぜ。廊下で何か言われてなかったか?」
「あぁ、ちょっとね。廊下でボーッとしてたら怒られちゃった。」
「まあ運が悪かったな。隣のクラスのやつに聞いてみるとときどき機嫌が悪い時があるらしいぜ。そんな時はみんな近づかないらしいからな。」
そう教えてくれる小沢くんに「そうなんだ。」と返していると、チャイムがなりホームルームの始まりを告げた。先生は少し遅れているらしい。
「お、そろそろ先生が来そうだな。じゃあな。」
と自分の席に帰っていく小沢くん。先生がやって来るのを座って待っていると次は隣から橋本さんが話しかけてくる。
「月見坂さんと何かあったの?小沢くんと何か話してたみたいだけど。」
「うん、教室の前でボーッとしてたら邪魔だったみたいで怒られちゃった。」
「あはは、なんでボーッとしてたの?昨日はまた寝るのが遅かったの?今日はいつもどおり遅く来る日みたいだし。」
「マンガ見てたら寝るのが遅くなっちゃって。」
話していると、僕の机に座っていた不思議生物がふよふよと彼女の肩に飛んでいきながら彼女に話しかける。というかこいつは最近用もないのに、なぜか僕の机によく座っている。見えないふりもだいぶ慣れてきたけど、気が散って仕方がないので、もういっそ超能力で吹っ飛ばしてやろうかと、沸々と暗い気持ちが浮かび上がってくる。
そんなことを思っていると、一人と一匹がこそこそ話始めたので、話を聞くために耳を澄ませた。
「ねえ、まなみ、月見坂って?」
「え、月見坂さん?ほら、隣のクラスの髪の長いかわいい女の子だよ。昨日の昼休みに廊下ですれ違った。」
「あぁ、あのいけすかない感じの。」
「そんなこと言わないの。でも、かわいいよね月見坂さん。あと大人っぽいっていうか。」
「まぁ、まなみに比べれば誰だって落ち着いているよね。」
そんな掛け合いを聞いていると、不思議生物が気になることを言い出した。
「でもあの子怪しいんだよね……。」
「えっ、怪しいって何が?何か気になることでもあった?」
「うん、昨日、廊下ですれ違った時もだったけど、一瞬目が合うような気がするんだよね。……その後睨まれたような気もするし。まあ、一瞬だったし気のせいかもしれないけど……。」
「えー、ちー助の気のせいじゃないかな。もし見えてたら声とか出すよー。普通は。」
「そうだよね……。」という不思議生物の声を聞きながら前を見ていると、そろそろ止めないと先生も橋本さんが気になり出したみたいだ。
「橋本さん、どうしたの?」
何も聞こえなかったふりをしてしれっと声をかけてみると橋本さんは慌てた様子で、
「え!?な、何でもないの。あははは……。」
そう言って恥ずかしそうに下を向くのだった。
◇
今日もいつもどおりに橋本さんを手助けしているうちに午前中の授業が終わった。机の上に倒れ込んでいる橋本さんとかのじょの頭の上で座っている不思議生物を横目で見ながら、教室を出て昼ごはんのパンを買いにいく。
普段は母が作ってくれたお弁当なのだが、二週間に一回の間隔でお弁当が休みになる日がある。そんな日は昼ごはんにはパンを買うようにしている。たまにやってくるパンの日は昼休みがちょっと楽しみなのだ。
パン売り場での争奪戦に打ち勝ちお気に入りのパンを手に入れ、中庭に出て食べる場所を探す。日当たりがよく座り心地の良さそうな場所はすでに埋まっている場所が多いので端まであるいてうろうろと探す。
探す時間が少し遅かったのかなかなか場所が見つからず、中庭から少し離れた場所に向かっていると、
(あれは、月見坂さん?)
今朝に廊下で合った彼女がベンチに座って昼ごはんを食べていた。橋本さんと一匹が気になる話をしていたこともあり、つい彼女の方に目をやっていると、彼女が顔をあげ目が合ってしまう。
彼女もこちらをじっと見て、
「なに?何か用?」
言葉少なにそう聞かれた。特に用もないのについつい見ていた僕はちょっと気まずい気持ちになりながら、とりあえず何か言わないとと思い、
「あ、何もないよ。ちょっと昼ごはんを食べる場所を探して……。それよりも朝はごめんね。」
と言い訳する。すると、
「?ああ、廊下の。気にしてないわ。それよりも私の方こそ御免なさい。ちょっと今朝は気分が優れなかったこともあって……。」
そう言って少しこちらを見たあと、
「昼ごはんを食べる場所を探していたのよね。少しあとで良ければこの席が空くわ。もう少しでご飯食べ終わるから。」
そう言ってその場所を進めてくれた。
「あ、ありがとう、ちょっと向こうを見て空いてなければ戻ってきて、その時にごはん食べ終わってたら代わってもらうよ。」
そう言って僕はその場所を離れ歩いていく。噂というか不思議生物の話では冷たいとかいけすかないとか言っていたけど、話してみるとそんなことはないような気がしていた。
◇
日当たりのよい場所はなかなか空いておらず、月見坂さんの座っていたベンチまで戻ってくる。ベンチには彼女がまだ座っていて、片付けられた弁当箱が膝の上に置いてあった。
「もしかして、戻ってくるの待っていてくれたの。ありがとう。」
僕がそう言うと、彼女はその場所をどいて席を空けてくれるので、代わってもらってベンチを使わせてもらう。
「そう、それじゃあ。」
彼女は校舎のほうに帰っていった。僕は(けっこういい子なのかも)、そう思いながらパンを食べながら校舎の時計の時間を確認する。
(やばい、昼休みの時間がない!?)
慌ててパンを口の中に詰め込んだ……。
◇
今日最後の授業が終わり帰ろうとした時、僕を含めと数人が先生に呼び止められる。一人が「どうしたんですか」と聞くと、準備室の片付けで人手がほしかったので、たまたま目についた暇そうなメンバーに声をかけたとのことだった。
確かにこの後帰るだけしか予定のない暇な僕は断る理由も思い付かず、他のメンバーとともに先生の手伝いをすることにした。
◇
けっこう遅くまで手伝い終わった頃には日も沈みかけ辺りは大分暗くなっていた。いつもより遅くなったので、とりあえず母に電話で連絡を入れておく。といっても比較的放任主義で超能力が使えることを知っている母が心配することはないのだけれど……。
帰ろうと校舎の出入口に向かう。何気なしにふと窓の外を見たとき、校舎の裏に向かう道端に人影が少し見え校舎裏に消えた。
(あれは……、月見坂さん?)
少ししか見えなかったがあれは今日何回か合った月見坂さんだった……。
先日、おかげさまで日間コメディランキングに入ることができました。ありがとうございます。続きはいつもより早めに、明日投稿しようと思います。