ときには超能力で手助けを(上編)
よろしくお願いいたします。
今思うと僕らしくなかったと思う。今僕は橋本さんの敵対組織に人質として捕まっています……。
◇
廊下からどこかに向かう月見坂さんを見かけた僕はこっそり追いかけることにした。普段であれば千里眼で覗くところだけど、今朝のこともあり教室や図書館に行きクラスメイトに見つかるのがいやだったからだ。
月見坂さんが向かった先にこっそりついて行く。彼女は校舎の裏を抜け、人がほとんど立ち寄らない旧校舎の方に向かって行った。
かなり奥に入ったところに彼女がこちらを背にして立っていた。僕は見つからないように建物の影に隠れて様子を伺いながら耳をすます。どうやら彼女の前にはもう一人いるようだった。
(あれは……、前に見た仮面の人。)
以前、月見坂さんと話していた、橋本さんの敵対組織の一人と思われる人物だった。月見坂さんが言い寄る。
「急に呼び出して何の用なの……。しかもあんな脅しまでして。」
「ふん、自分の仕事を放り出して浮かれているようだからな。そんなことをしている暇があったらさっさとプリマローズを片付ける案でも考えるんだな。」
ここに来て衝撃的な事実が明らかになった。橋本さんの魔法少女ネームだ。ただ、月見坂さんのときと違って橋本さんの場合は彼女の子供っぽい雰囲気から意外とありかなと思ったりもする。
そんなことを思っている間も二人の会話は激しくなっていた。
「言われなくても考えているわ。あなたもこっちに構ってないで自分の仕事をしていたら?」
「ふん、本当か怪しいものだな。今朝もあのガキに嬉しそうに話しかけていたようだしな。あんなに浮かれているお前は初めて見たぞ。あのガキの何を気に入ったんだか知らないがな……。」
僕が、あんなに嬉しそうな彼女は珍しいのか、と今の雰囲気からは場違いなことを考えている間にも二人は更に白熱していた。
「最低……。あんたの仕事は覗きだったかしら。」
「仕事の中にはおまえの監視も含まれるからな。お前があまりにも立場を忘れた行動をするようだったらこちらも対応を考える必要があるしな。例えば……、あのガキとかな。」
ふむふむと聞いているとどうも雲行きが怪しくなってきた。ここにいたら不味いかと思い始めたとき、
「なっ!?彼には手を出さないで!!関係ないはずよ。」
「ふ、そこまで取り乱すとはな。本当に何を気に入ったんだか。それに既に関係なくはないがな。」
「え!?どういうこと……?」
「まったくおまえらしくもない。つけられていることに気付かないとはな。おい、そこに隠れているガキ出てこい。」
僕としたことが失敗したようだ。どうしようかと迷った結果、仕方なく出ていく。僕を見た月見坂さんが顔面蒼白で呟く、
「え?な、何で……?」
「えっと、月見坂さんが見えたから付いてきたんだけど……。あの人は知り合いなの?よく聞こえなかったんだけど何か言い争っていたような気がしたんだけど……。」
白々しいかなと思いつつも聞いてませんよアピールをする僕。月見坂さんは僕を呆然と見たあと背を向けて、
「次はちゃんとやるわ。だから彼には手を出さないで!」
そう言った月見坂さんを仮面の人物はじっと見たあとすっと僕に向かって手を向け、月見坂さんが何か言う前に光る玉を打ち出した。
(チッ、いきなり打つか!?)
そう思いながらも、月見坂さんがいるため大っぴらには超能力を使いたくない僕は自分に念動力を使い弾き飛ばされるふりをする。
(というか、当たったらこんな感じで良いのかな……)
疑問には思ったけれどとりあえず激しく転がり校舎の壁にぶつかり気絶するふりをする。もし本当に危なくなったら月見坂さんにはバレるけどあの仮面を空の果てまでうち飛ばしてやると心に決め、目を閉じる。
「ん?思ったよりも弱かったか?……まあいい。そのガキはこっちで預かっておく。片付けば返してやるよ。」
顔を蒼白にして慌てて駆け寄ってきた彼女は僕のそばで大きな怪我がないことを確認すると、小さな声でごめんなさいと言った後、
「……分かったわ。今晩片をつける。だからこれ以上は彼にひどいことをしないで。」
覚悟を決めたような顔でそう言うのだった……。
次回は三日後です。また、よろしくお願いいたします。