橋本さんは魔法少女
はじめまして、なろう初心者になります。よろしくお願いいたします。
中学校で僕の隣の席に座っているクラスメイトの橋本さんは、友達も多く活発で可愛らしい女の子だ。
彼女にはみんなが知らない秘密がある。彼女はなんと魔法少女で、日夜、悪の組織?から世界の平和を守っているのだ。
なぜ僕が彼女の秘密を知っているかは次の機会に話すことにして、僕は彼女を暇潰しに観察、ごほんっ、暖かく見守り、時には手助けしている。
◇
橋本さんは、前日の夜に魔法少女の仕事(と僕は呼んでいる)があると朝のホームルームが始まる時間ぎりぎりに教室にやってくる。
教室に入りると、彼女のことをはっちゃんと呼ぶ、とくに仲の良い友達の緋川さんのところに寄って話しかける。
「ひーちゃん、おはよう。」
「あっ、はっちゃん、おはよー。今日はギリギリだね。」
「ははは……昨日も習い事が遅くまであって、寝るのが遅かったから朝ちょっと寝坊しちゃって……。」
あいさつと軽く会話を交わした後、僕の隣の席に座り、いつものように僕とあいさつする。
「おはよう橋本さん。」
「おはよう、今日は早い日なんだね。でも、なんか眠そうだね。」
「うん、今日は朝ちょっと早く目が覚めちゃって。橋本さんは眠そうだね、昨日も寝るのが遅かったの?」
「うん、昨日も習い事が遅くまであって寝るのが遅かったの。そのせいで朝寝坊しちゃった。」
さすがに『魔法少女をやっていて寝るのが遅くなりました』、とは言えないようでいつものように『習い事で』と教えてくれる。
普通であれば『そんなに遅くなる習い事って、何?』と聞きたいところだけれど、理由を知っている僕は詳しくは聞かずに、
「大変だね。」
と、労いの言葉をいつも通りにかけておく。
ちなみに朝が弱い僕はいつもは今日の橋本さんと同じか少し遅いホームルーム開始ぎりぎりの時間に来るのだけれど、彼女が世界平和に貢献した次の日はがんばって少し早めに家を出て教室で彼女の観察をしている。
◇
「橋本、次読んでみろ。」
「は、はい!?」
国語の授業中、先生に当てられた橋本さんが立ち上がり、慌てた様子で教科書をめくり始めた。
橋本さんは魔法少女に忙しかった次の日の授業中はぼーっとしていることが多く、運悪く当てられると今のような状況になる。しかも、彼女が苦手な国語となればなおさら焦りが大きいようだ。
(ど、どこなの、聞いてなかったよー。)
こんなときには僕がすかさず、
「橋本さん、橋本さん。」
「へっ!?」
「162ページの1行目だよ。」
「あ、ありがとう。」
読み終えた彼女は席に着くとほっとした様子で
「ごめんね、いつもありがとう。ちょっとぼーっとしちゃってた。」
と、御礼を言ってきたので、こっちもいつものように、
「気にしないで。」
と伝えておく。どうやら、橋本さんは今回も僕の助けもあって授業を無事にのりきることができたようだ。
◇
橋本さんが僕の助けを必要としない唯一の授業が体育だ。体を動かすことが好きなのか、この時ばかりは彼女は元気一杯で、いつものボーッとした様子は見られない。
「次、橋本と松本。」
「はっちゃん、がんばってー。」
「よーし、がんばるぞー。ひーちゃん見ててねー。」
緋川さんの応援に気合いをいれた橋本さんは100メートル走のタイムを測るために、スタート地点に着くと準備を始めた。
「位置についてヨーイ。」
パーンッ!
スタートの合図とともに勢いよく飛び出した彼女は、そのままの勢いでゴールまで駆け抜けた。
「うわー、はっちゃん、足速いよねー。」
「すごいよねー。前よりも速くなってない!?」
と、応援していた緋川さんと一緒に見ていたクラスメイトが驚きの声をあげていた。橋本さんは学年の中でも飛び抜けた運動神経を持っているようで、運動神経の良い彼女は体育の時間はみんなの注目の的である。
◇
「はっちゃん、それじゃーね。」
「うん、ひーちゃんもバイバイ、また明日。」
今日の授業もすべて終わり、帰る準備をした橋本さんが友人達と別れのあいさつしている。こうして彼女の中学校での一日がようやく終わる。
橋本さんの学校生活を上手く手助けできた日は僕も間接的ではあるが世界を守ったような、やりきった気持ちになる。
ただ、世界の平和を守る魔法少女と一般の中学生生活の両立は、テレビで見る魔法少女もののアニメとは違ってなかなか大変なようだ。
次回は3日後予定です。