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三十八話 神々の諍い(2)

まさかの連続更新です。


 出会いは偶然だった。

 バイト終わりの帰り道。矢口秀樹は、彼女に出会う。

 秀樹の持つ眼。

 五秒先を予見するその眼は、確かに一つの影を捉えていた。

 月を背に、舞い降りる一人の少女。

 秀樹は空を――新円の月を見上げた。

 そこには確かに、一人の少女がいた。

 ――視線が、絡んだ。






「俺に、金神を倒すのを手伝って欲しいと?」


「ええ。貴方が殺してしまった夜刀神の代わりに」


 ふんわりと微笑んで、けれどあまりその表情に似つかわしくない台詞を瀧野静香はさらりと言ってのけた。


「そもそも、あれは私が苦労して封印されていた場所を見つけ出した古い神の一柱。それを金神に邪魔され、契約の合間を縫って逃げられたのは私の失態ですが――よもや人に遅れを取るとは思いもしなかったので」


 本来であれば、殺される前に再契約するはずだったと付け足して、反応をうかがうように押し黙った。


「――ッ」


 柊は、静香のその態度に腹のそこから殺意が沸いてくるのを自覚する。

 ――フザケルナ。

 夜刀神の被害にあったのは、ほとんどが伊吹の眷属だ。彼らとて、任務の上で死ぬのは理解していたはず。

 けれど、だからと言って安易に殺していいものではない。


「………柊」


 そっと、柊にだけ聞こえるように沙耶がたしなめる。普段のように小ばかにした物言いではなく、キチンと名前で呼んで、だ。


「真琴の邪魔はさせないわよ」


「――わかってる」


 殺意と呼べるそれは未だにくすぶっている。それでも、自身の目的のためだけに真琴の邪魔をするのは論外だと言うのは理解していた。

 真琴の背後。何かあったらすぐに動けるように、沙耶と柊はそこに控えている。

 沙耶は予断なく静香の挙動を見つめ、何時でも真琴を庇えるように左手は彼の肩に添えられていた。

 柊は先の感情ゆえか、沙耶よりも攻撃的だ。彼の手に握られているのは数枚の符。木符と書かれたそれは、水に対して効果を発揮する攻勢の術が込められていた。

 ――まるで、従者のようね。

 表情には一切出さずに、静香は胸中で微かに笑う。純粋に、感嘆の思いからだ。


「さて、お返事は頂けますか?」


「………」


 腕を組み、教室の天井を見上げて真琴は思案する。すぐに答えは出ない。


「――利点」


「えっ?」


「協力するのは言いとして、俺たちに利点はないのかな?」


「おや、善意の奉仕は出来ないと?」


「当然だよ。あんたが完全に被害者で、俺たちでも対処できる相手ならば無償での助力もやぶさかではないけど、ね」


 トンと、一度だけ机を叩いてから真琴は三本の指を立てた右手を静香に見せる。


「条件は三つ。俺たちの――んんっ、知り合い? みたいなのに会うこと。可能な限りの助力を約束すること。後の一つは柊のと言うか、伊吹の裁量に任せるよ」


 最後に、どうする? と真琴は意地悪く笑った。






 思ったより、容易くはないか。

 私は、目の前に座る少年に対する評価を、上側に修正しなおす。

 雪村真琴。カラスの大妖怪、負告鳥または沙耶。

 水から得ていた情報では、どう見てもバカップルそのものだったけどなかなかどうして、考えるものだ。

 彼が正義感や、私に対する情欲で動くようならば操るのも楽であったけど、どうやらそのあたりは効果は薄そうね。

 そっと、背後に立つ沙耶へと視線を向ける。この学園の制服越しにでもわかるほど、自己主張をする発達したむ、胸がそこにあった。

 ついで、目線は下を向く。

 机が見えた。

 確かに、あれを知っているのにこの身体に欲情しろって言うのは無茶な話か。

 ………悲しいことは、考えないで置こう。今は、どうやって強力を得るか、だ。

 条件の三つのうち、一つ。誰に合わせるつもりなのかは、今のところはわからない。これはまぁ、調べるしかないけど、少なくとも敵ではないと思う。

 二つ目の助力は、どの程度の力が欲しいのかにもよるけど問題はない。手綱を握られないように注意していれば大丈夫。

 けど、三つ目は少し不味い。私個人はどうにでもできるけど、あの子達にも被害が行く場合も考慮する必要はある。

 ――そうだ、私はあの子達のためにも生きなければいけない。

 ならば、生きる。何を犠牲にしたって、この身を投げ打ってでも生き延びる。


「そうね――ッ!」


 覚悟を決めて、答えようとしたのを邪魔するように廊下側の壁が切り裂かれ、一つの影が躍り出た。


「かなっ、」


 言い切る前に、金神は私に肉薄。

 ――避けられない。

 すでに振り上げられた刃は、あとは私の首を切り落とすだけ。

 他の神と違い、神子とほぼ一体化している私は死にはしないでも、それだけで動くことは出来なくなるだろう。

 音は、不思議と聞こえなかった。

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