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三十七話 神々の諍い(1)

お待たせしました。一週間更新をだいぶオーバーしての更新です。

 もう一話出来てはいるので、それも明日にはアップできるように致しますのでお待ちください。

 学び舎を後にする生徒たちの波に逆らうように、一人の女性が学園の門を潜った。

 瀧野静香(たきのしずか)だ。

 水色をしたフレアスカートに白いブラウス。蜂蜜色の柔らかそうな髪は、夕暮れの冷たい風に揺らめいている。

 おおよそ、学園と言う場にそぐわない彼女の容姿は否が応でも生徒たちの眼を引いた。

 多数の視線を浴びながらも、彼女はそれを気にした風もなくまっすぐに校舎へと歩みを進めていく。


「おや、当校に何か御用ですか?」


 静香の――水神の進路を阻むように、立ちふさがる少年がいた。

 背丈は高い。だが、体つきは筋骨隆々と言うわけではなくどちらかと言えば華奢な印象を受ける。

 顔には柔和な笑顔が張り付いていて、その表情からは敵意は感じられない。


「ええ。この学園に在籍している、雪村真琴と言う生徒の少々ようがありまして。呼んでいただけますか? 伊吹柊さん」


「――なぜ、僕の名を?」


「有名ですから――」


 柊の作ったような笑みとは対照的な、朗らかな笑顔。

 余裕を見せる静香に対して、柊はいくらかの猜疑心を抱き始めていた。

 自分の名を知っているからではない。真琴のことを最初に持ち出したからだ。

 伊吹柊の名は、彼の自惚れでもなく知れ渡っている。それゆえに、自身の名を知るものに対して一々警戒はしていないのだ。


「それで、お呼びいただけますか?」


 柔和な笑みはそのままに、静香は無造作に柊へと近づいてそっと、彼の耳元で一言つぶやいた。


「白蛇のことで、お話があるのですが」






「どうしたの、柊?」


 いざ会議を始めようとしたタイミングで、真琴の携帯が着信を知らせるメロディを奏でた。

 相手は彼が言うとおり、柊だ。


『悪い知らせがあるんだが、良いかな?』


「いいよ。何?」


『実は、君に白蛇のことで話を聞きたいと言ってきている人がいるが、どうする? 今なら追い返すこともできると思うが』


「――その人って、柔和そうな顔つきの女の人かな。髪の毛とかふわふわした感じの」


 スピーカーフォンに切り替えて、沙耶と秀樹にも聞こえるようにしてから真琴はそう聞いた。


『確かに、言われた通りの条件を満たしているよ』


 水神の人相を知っている真琴と沙耶の間に緊張が走る。対して、秀樹は頭に疑問符を浮かべた。


「なぁ、その人が何なんだ?」


「――少しだけ、待って。柊、詳しい理由は聞けるかな?」


『………直接でないと話せないそうだよ。まさか、会う気かい?』


 柊に答える前に、真琴は沙耶へと目線を向ける。彼女は、それに首を縦に振ることで答えた。


「そのまさか、と言うことでよろしく」


『わかった。そういうことなら、案内しよう。今、何処に?』


「俺の教室に。じゃあ、また」


 通話を終了させ、真琴は携帯を胸ポケットへとしまう。そして、秀樹へと身体ごと向き直った。


「時間がないから単刀直入に言うよ。これから、ここに水神が来る」


 絶句あるいは驚きか、不信か。とかく秀樹は表情を崩した。


「マジか? てか、何でそんなことがわかるんだよ」


「事情があって、今は詳しいことは話せない。けど、誓って悪いことではないよ」


「いや、お前を疑う気はないけどさ……後で、話してくれんのか?」


「それは約束する」


 即答する真琴を、秀樹は値踏みするようにジッと見つめる。が、時間がないのは事実だと理解したのか仕方なさそうに嘆息して踵を返した。


「仕方ない、信じるよ。で、俺はカナミをつれて来れば良いのか?」


「だね。でも、すぐには戦闘はしないように見張ってて。交渉で終わるなら、それが一番いいから」


「確かにな。沙耶さんがいるから大丈夫だろうけど、やばくなったら逃げろよ!」


 秀樹はそれだけ言って、教室から足早に出て行った。


「何を考えてるのかな?」


「そうだね……マガミに対する義理立てと俺個人の兵力の確保、かな」


 椅子に深く腰掛けて、少しだけ体重を後ろへとかける。後ろの二本だけでバランスを取る格好となった。


「矢口君はさ、まともな人、だと思う。善意を持って接する人には、全力でそれを返そうとする感じかな」


「つまり、ここで恩を売ってマガミ側に戦力として紹介するってこと?」


「そっ。ついでに言えば、マガミよりも接しやすい俺のほうが協力関係を維持しやすいでしょ。まっ、今すぐに敵対する気はないけどね」


「――んっ、それなら良いけど」


 いずれ敵対する気なのか。その問いを、沙耶は言葉にすることは出来なかった。

 ――とにかく今は、水神にどう対処するか、ね。


「それよりも、沙耶はどう言う準備をしてきたんだ?」


「えっ、ああ――そうね……」


 水神が教室にたどり着くまで、後二分。






 秀樹がカナミと出会ったのは、学園からそう遠くない場所だった。


「カナミ!」


 軽く呼吸を乱しながら、秀樹はカナミの前へと走りよる。


「どうしたの?」


「水神が、学園に来た」


 簡潔に用件だけを伝える秀樹。カナミは、眼の色を変えて瞬時に反応した。


「――分かった。すぐに行く」


「とっとと! ちょっと待った! 今はまだ駄目だ。俺の友達が交渉してるとこだからさ、少し様子を見ようぜ」


 カナミの左の二の腕を掴み、秀樹はたしなめるような口調で彼女へと伝えた。


「だめ――水神は敵」


「でも、戦わないですむならそれに越したことはないだろ」


「だめ」


 首を振り、躊躇うことなく答えた。


「敵は、殺す」


「えっ?」


 秀樹の眼――五秒先を見るそれが反応する。

 ――開いている右手が、腰の辺りに添えられた。

 踏み込みはない。けれど、下半身に込められた力は強力無比。

 一閃。

 秀樹が手を離し、上体を後ろへと反らすのがあと一秒遅ければ、彼の身体はカナミを拘束する腕と共に切り裂かれていただろう。


「秀樹、邪魔」


 無理な体勢で斬撃を避けた秀樹は、コンクリートの地面へとどっかりと腰を落とした。数秒遅れて、彼の眼には切り払われたであろう前髪が舞い落ちる。


「なに、すんだよ」


 震える声で、辛うじてそれだけを搾り出す秀樹。が、カナミはすでに彼を見ていない。


「なぁ! 敵だからって、殺さなくてすむなら戦わなくて良いだろうが!」


 声は怒りかあるいは恐怖に震えている。それでも、秀樹は喉の奥から捻り出した声を高々に叫ぶ。

 それを聞いてか、他の思いゆえか。カナミはわずかに頭を動かして背後に座り込む秀樹を見つめ、答えた。


「――私は、金神(かながみ)だから」


 それが答えだと言わんばかりに、カナミ――金神は小さくつぶやいた。

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