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三十五話 封印術の練習

 遅くなりました。霊能科、ようやくの更新です。

 うん。なんだか、迷走しているような気もしますが

よろしければ感想等お願いします、

 焼け付く痛み。

 網膜を通して送られてくる情報は無数。

 霊力で編みこまれた風の術式。暴風の如きそれは、薄い緑色の光が渦巻く。

 朱色に輝くのは妖力の炎。煌々と輝きを発するそれは、夜半過ぎの表を昼の如く照らし出す。

 真琴の見ている世界は、多色の光が支配していた。

 それら全ては理力の輝き。単独で自然現象を形成する奇跡の具現だ。


「見えるかの? これが、理力の流れだの」


 後ろからマガミがしな垂れかかるようにしながら、真琴の耳元でつぶやく。

 不意に、朱色の炎がその威力を増大させた。


「なんとか…でも、流石に頭が痛くなってきたよ」


「それは仕方あるまい。人が一度に処理できる情報量を上回っておるからの。いずれは、術式の核となる構成のみを読み取れるようにするのだの」


 痛むであろう頭をマガミは、その白い手で撫で付ける。労いを込めて動かされる動きが気恥ずかしいのか、真琴は少しだけ顔を赤く染めた。

 朱色の輝きはさらに明るく、強くなっていく。その輝きは瞬く間に緑色の光を飲み込んでいくほどだ。


「――ククッ」


 忍び笑いをもらすマガミ。


「ヌグググググググッ!」


 砕けそうなほどに強く、沙耶は歯をかみ締める。それでも片手での術式の操作を忘れないのは流石だ――威力がどんどんと肥大化しているが。


「俺、いらない気がするんだがな」


 そこにいたからと言う理由で選ばれた麻生は若干不満そうにしながらも風を起こしている。

 今回、二人がその場で火や風を起こしているのは単純に真琴が封印術を使うための訓練だ。


「次は、何をすればいいんだ?」


「麻生の使っておる風の術ならば、今の状態でも封印は出来るであろう。核となる部分に、封印術をぶつけるのだの」


 真琴の手を取り、マガミは緑色の光がもっとも強いほうへとその手を導く。

 本来、マガミがやっているような補助は不要だ。なぜ彼女がこのように一々沙耶へと見せびらかすように真琴と身体を接触させているかと言うと………特に理由はない。

 ただ単に、嫌がらせをしているだけだ。


「あの年増ぁ〜〜!」


 片足で床を踏み鳴らして、沙耶はさらに火勢を強くしていく。

 片手にあるのはドッチボール大の火球。大きさ自体に変化はないが、込められている妖力そのものは桁違いだ。その証拠なのか、発せられる熱量はそれだけで火傷をしそうなほどに熱い。

 真琴は、マガミが使う防御結界に阻まれてその影響に気づけないでいるが、たまったものではないのが麻生だ。

 周囲に風を撒き散らしているが、それは熱せられた大気――空気もかき混ぜているのと同意でもある。そのせいか、彼の周辺は先ほどから少しずつ温度が上がっていっているのだ。


「あの、いい加減にその勢いを弱めてもらえません?」


「あっ?」


「ごめんなさいなんでもないですそのままつづけてくださいおねがいします」


 言い切ると同時に、麻生は自身が展開している風の術式に違和感を覚える。

 ――なんだ? 見られている…いや、手が加えられてるのか。


「えっと――ここが核で、ここが回線、それからこっちが霊力の流れで……大気を動かしてるのはここか」


 一つずつ、確認するように真琴は手を動かす。

 それらの動きは、マガミが示唆したものではない。真琴が自分で触れ、自分で読み取ったものだ。


「へぇ、君の彼氏、補助があるとはいえなかなかの才能じゃないか」


 純粋に、麻生は賛辞を口にする。実際、驚いていたのだ。真琴は、教本にもない彼オリジナルの術を解析して見せたのだから。


「でしょでしょ! いやぁ、あんた良い眼をしてるわねぇ」


 不機嫌そうな顔から一転、満面の笑みで沙耶は麻生の肩を力強く叩く。加減しているとは言え、人間のよりも強いそれは彼に痛みを与えるのには十分なのか顔を歪めている。

 それでも火勢は変わらないが。むしろ、意識がそれているためにコントロールがなくなり、沙耶の動きに合わせて右に左にと行ったり来たりする分危険かもしれない。


「っと、これで――」


 真琴が右手を握る。傍目には何もないところで握りこぶしを作っているように見えるが、彼に見えているのは違うものだ。

 光り輝く緑色は、黒い紋様の描かれた真琴の右腕へと徐々に取り込まれていく。

 それは、黒が緑を食らっているようにも見えた。

 光が半場まで紋様に飲み込まれると、風の勢いも徐々に弱くなっていく。そして、その全てがなくなった瞬間にピタリと、あれほど荒れ狂っていた猛威は止んでしまった。


「驚いた。こんなにあっさりと消えるのか…上手く使えば、最強の盾にも矛にもなるな」


「お主が術式を変えたり、霊力を注ぎなおせばまた違ったかも知れぬがの――しかし、初めてでこれだけ出来れば上出来だの。どうかの、その力を使いこなして我にもっと貢献しようと思わぬかの? 無論、ただとは言わぬ――」


 そこで一瞬、沙耶へと意味ありげに視線を送る。

 瞬間、沙耶は嫌な予感を覚えた。


「我のこの身、好きにしても構わぬぞ?」


「うわっ、ちょっ、耳を噛むな!」


 少しだけ着物をはだけ、真琴の耳たぶに舌を這わせてから軽く噛むマガミ。


「ぷっつーん」


 わざとらしく沙耶は口でそう言って、右手の火球をマガミへと投げつける。


「うわった!」


「随分とこらえ性のない小娘だの」


 頭を伏せて身の安全を確保する真琴。いくら治るとはいえ、痛いのは嫌なのだ。

 狙われたマガミは、火球を素手で掴みながら鼻で笑う。


「はんっ! 人の男に色目を使う年増よりはましでしょ」


「――我よりも数百年若いだけの小娘が調子に乗るなよ」


 火球を握りつぶし、マガミは一歩前へと歩みを進める。


「あんたこそ、そんな貧相なもので真琴の相手が務まるとでも? 案外、真琴はおっぱい好きなんだから」


 言って、沙耶はマガミのそれよりも豊かな胸を強調するように張る。


「燃え尽きろ小娘がッ!」


「こっちの台詞よババァ!」


 炎の柱が、天高く上る。


「あー、モテモテだな?」


「マガミの場合はからかってるだけでしょうけどね」


「その程度の威力で、我を仕留められると思うな!」


「今のは私の最下級よ炎術《メ○》よ! これが私の新・必殺ッ!」


「ああ、最近やたら熱心に漫画見てると思ったら……」


「言ってる場合か? あれ、こっちも巻き添え食うぞ」


「手遅れですね」


 自身の妖怪時の姿を模した炎の鳥が、マガミと真下にいた真琴たちを巻き込んで破裂した。

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