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三十話 深夜のフライト

すみません、更新するのを忘れてました!

 夜空を舞う一羽の怪鳥。地上で光り輝く光をさえぎり、漆黒の翼を羽ばたかせる。


「もっとスピードは出ないかっ!」


「だせるけど――一姫が持たないわよ!」


 風の音に紛れて交わされる真琴と沙耶の声。切羽詰った声だ。

 沙耶の広い背中の上に仰向けの一姫がいた。多量の血で、沙耶の背中を赤く染めながら。






 今から数分前のこと。


『今すぐ学園に行き、我の元まで一姫を連れて来い!』


 風呂上り、いきなり頭の中に響いた声に真琴は怪訝そうな顔をした。


「無視すれば?」


「いや………学園に行ってみよう」


 マガミの話し方に余裕がないなと、不思議に思った真琴は渋る沙耶を伴って学園へと急ぐ。

 沙耶に担いでもらい、数分で学園にたどり着いた二人は唖然とすることとなった。


「あら〜、もう壊れてやんの。手抜き工事かな?」


「そんなわけないだろ。とにかく、様子を見に行こう」


 欠損した校舎の壁から中に入り、真琴と沙耶は周囲をうかがう。

 すると、沙耶はぴくぴくと鼻を動かし始めた。


「ん? なんか、血の匂いがする」


 沙耶は、妖剣を取り出しながら言う。直前までのちゃらい様子はなく、狩猟者の如く気配を隠し、神経を細く研ぎ澄ませている。


「――やばっ!」


 霊視で、理力の流れと建物周辺にいる人影を探っていた真琴が走り出す。

 向かうは廊下の端。そこに、血にまみれた神谷一姫が倒れていた。


「せんせっ――」


 傷は深い。いや、致死とわかる傷だ。

 女性らしい豊かなふくらみの中心から、左腹部に向けて走る一本の赤い線。

 リノリウムの床は、バケツをひっくり返したかのように赤く染まっている。

 無理だ。諦めようとしたとき、一姫の髪飾りが砕け散った。

 完全に寸断されていたと思われた傷口が輝き、逆再生するかのようにこぼれた血が一姫に戻っていく。

 それはまるで、真琴の再生能力のように。


「……ぅぁ」


 かすかにうめき声。辛うじて聞き取れたそれに、真琴は安堵のため息をもらす。

 だが、危険な状態なのには変わりない。すぐさま、真琴は周囲を警戒していた沙耶に指示を飛ばす。


「沙耶っ! 保健室からありったけの治癒札を!」


「わかった!」


 走り去る音を聞きながら、何もしないよりはと真琴はジージャンを包帯代わりに止血を行う。


『合流できたかの』


 少しだけ余裕を取り戻したマガミの声が真琴に届いた。


「ああ、止血と治癒符の準備をしてる。かなり危険な状態だ。と言うか、視覚共有できるだろ? それで現状を把握してくれ」


 言い終えると同時に、真琴は左目に違和感を感じた。


『閉じるでない。よく見えぬであろう――思っていた以上にまずいようだの』


 マガミの言葉に、真琴は歯痒いと言いたげに唇をかみ締める。

 現状、真琴にできることは止血程度だ。何かしたいのに力が及ばない。真琴は、そのことがとても悔しかった。


「おまたせっ! とりあえずあるだけ持ってきた!」


 真琴がマガミとコンタクトを取って、数秒後。沙耶が一抱えはあろうかという治癒符を持って現れた。


「助かる――マガミ、指示は?」


 治癒符を使いながら、真琴はマガミに声をかける。


『沙耶。我の下まで来れるかの?』


「行くのは余裕で――怪我人を気遣ってだと三十分ってとこね」


 マガミの言わんとしていることを先読みし、沙耶は答えた。


『それでいい。真琴、お主は治癒符を使い続けろ』


「わかってる」


 治癒符を複数、同時に使用しながら真琴は答える。止血を行いながら、空いている手で治癒符を使う。


「なぁ、姿を変えるならここじゃあ狭くないか?」


「大丈夫――」


 言って、沙耶は窓際に近づく。


「これだけ壊れてるなら、もう少し増えても問題なし!」


 壁が質量に負けて砕かれる。土煙の舞う中、巨大な黒色の怪鳥が夜空に舞い上がった。





「血の匂いに寄せられてきたか」


 沙耶のつぶやきは、風に紛れて真琴には届かなかった。

 目的地までは後二分少々。多少の前後はあるが、沙耶の目測だとそれくらいだ。


「よりによってこのタイミングで」


 眼だけで背後を見る。

 後方――距離にして百メートルほどの所に一つの群れがあった。

 数は二十。一固体の大きさは、沙耶の半分にも満たない二メートル弱。黒い翼と黒いくちばし。真っ黒な瞳は、一心不乱に沙耶を射抜く。

 カラスの妖怪だ。


「しかも後輩連中とか――はぁ」


 沙耶もまた、カラスの妖怪なのだから後輩という表現は言い得て妙だった。


『いらん連中までついて来ておるようだが、土産かの?』


『煮ても焼いても美味しくないけどね』


 聞こえてきた声に、沙耶もマガミと同じ方法で返す。念話というのは本来、今の二人の使い方が正しいのだ。真琴のように不慣れな者が扱う場合は、口に出したほうが伝わりやすいが。

 残り一分強。距離は、八十メートルにつめられている。


『止む終えぬの』


 マガミの声が止む。同時に、目的地が一瞬だけ輝く。


「真琴、つかまってて!」


 水平に飛んでいた沙耶は、翼をたたみ目的地へと滑空を始める。


「うっく!」


 速度が急に上がり、身体にかかる衝撃が強くなった真琴は辛そうに顔を歪める。だが、治癒符は意地でも離さない。

 地上。

 マガミが主に寝泊りしている神社――だった場所。その境内に、マガミは立っていた。


「力を使うのは久方ぶりかの――」


 自分のほうへと滑空してくる沙耶たちに対して、マガミは半身を向けて両手を握りこぶし上のままあわせて突き出す。

 半月を描くような青白い弧が、マガミの眼前に作り出される。


「二十といったところかの」


 あわせた手のうち、右手を真っ直ぐに伸びるまで引き絞る。

 右手の軌跡に合わせて引かれる線は、青白く輝く。

 神力により作り出された弓矢。輝きを増し、薄暗かった境内を照らし出す。


「貸しにしておくでの――必ず返せよ!」


 沙耶に聞こえるように声を張り、握った右手を勢いよく開く。

 矢が放たれる。

 夜空へと上って行く矢は途中で幾重にも分かれ、不可思議な軌道を取って飛ぶ。

 青白い線は、沙耶たちを避けて背後に迫るカラスの妖怪達の中へと踊りこんだ。

 赤い飛沫が方々であがった。青白い軌跡が通るたび、金切り声の悲鳴が上がる。


「えげつな」


 流し目でそれを見た沙耶は、そうつぶやいて境内へと舞い降りた。速度はマガミが矢を放つのを確認した瞬間に落としていた。


「あの程度の連中は、どうでも良かろう。それよりも、一姫を中に運べ」


「わかった」


 ずっと治癒符を張るのに専念していた真琴は、先の青白い線がなんなのかを理解していないようだが、緊急時にそれを尋ねるほど空気が読めない人間ではない。

 慎重に抱きかかえて、真琴は一姫を古びた神社へと運び入れる。沙耶は、それを見送ってから人型へと姿を変えた。


「あれじゃあ、生きてるのはいないかな」


 見上げた先には、すでにカラスの群れはない。沙耶自身、マガミが打ちもらすことがあるとは思っていなかったが。


「ん〜」


 開け放たれたドアから中をのぞく沙耶。中では、真琴が忙しなく動いている。おそらく、マガミの手伝いだろう。

 沙耶は神社の反対側。石段へと視線を向ける。


「久しぶりに、里帰りでもしていようかな」


 何気なくつぶやいて、沙耶は石段へと歩いていった。

今回の更新後、この小説に手直しを入れて生きたいと思います。

なるべく週一更新を守れるようにしますが、遅くなることもあるかと思いますのでご容赦願います。

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