二十話 白蛇との交戦・閑話
あけましておめでとうございます。
新年、一回目の更新ですが・・・すいません、とても短いです。
楽しみにしてくれていらっしゃる方に、
もっと楽しんでいただけるように今後とも努力をしていきますのでよろしくお願いします。
「また来たのか?」
くすくすと、暗闇の中から嘲る声が聞こえる。
誰だ?
「会ったばかりだというのに、もう忘れたのかの?」
どこか古臭い喋り方。
絶えず発せられている威圧感。
授業中に見えた、あの女?
「それ以外でも会っておるのだがな…ふむ、本当に覚えておらんのか」
頬を撫でる感触と、耳元から聞こえてくる声。
すぐ側に、あの女がいると言う事実に、俺の身体は強張っていく。
心臓が、高く脈打つ。
「くくっ…随分なおびえようだの? 我への恐れだけは忘れておらんかったか」
頬に当てられていた指が、唇に触れてから離される。
「さて、ここにその様な醜態をされしていると言うことは、何者かに敗れたのか?」
何者か……っ! 白蛇っ、いや、それよりも沙耶は無事か?
「ほう、心当たりはあるのか。まぁよい、退屈しのぎに話してみよ」
それどころじゃない、早く沙耶の無事を確認に行かないと…、
踵を返そうとして俺は、ようやく今の自分の状況を把握できた。
足が、ない。
「正確に言えば、体がだの」
けれど、お前は確かに俺に触れていた。
「当たり前だの。我ほどの神格があれば、実態を持とうがそうでなかろうが関係がないからの」
神格? まさか、神だとでも言うつもりか。
「…本当に忘れておるようだの。まさかも何も、我は神だ」
でも、まさか…自意識をもてるような強さの神が何だって俺なんかに会ってるんだよ。
たしか、自意識を確立している神は国によって保護されているはず。
「あれは、保護と言うよりも監禁といったほうがよい気がするがの…まぁ、それはどうでも良い。今は、お前のことだ」
そうだな。で、俺を助けてくれるのか?
今の状況はよくわからないが、一刻でも早く沙耶の元に戻りたいからな。
「お前しだいだの。さぁ、とっとと話せ」
「なるほどの…しかし、一角を持った白蛇」
とりあえず俺は、ここで目を覚ますまでの大まかな状況を説明し終えた。
「ああ、夜刀神か。ふむ、あやつは何時の間に封印から抜け出したのかの」
知ってるのか。
「無論。何時だったか、鬼の軍勢に敗れて封印されたと聞いておったが、地域開発だかなにかで封印が解かれたのであろうよ」
だったら、倒し方も…
「ないな。夜刀神は、神としては下級だが固有の弱点をもっておらん。倒したくば、それ以上の力をぶつけるのが一番だの」
神以上の力って――そんなのあるのか?
「あると思うか」
いや、多分ないと思う。
現存する妖怪達の中でも、最強と名高い鬼ですら軍勢を用いて封印するのがやっとだったんだ。今の戦力では、満足に戦うことすらできそうにない。
「よもやと思ったが…案の定か」
ん、何か言ったか。
「…ふむ、時にお前。三年前のことは覚えているのかの?」
三年前? いや、ぜんぜん覚えてないけど。
推測でしかないけど、俺が覚えていないだけで三年前に会ってるのかも。
たとえば、麦畑で。
「くくっ、さての。それよりもだ…思い出せる、一番古い思い出は何かの?」
――っ。
息が、出来ない。
「どうした? 何も正確な日時まで答えろと言っているのではないぞ、幼き時の思い出など、幾らでもあるであろうよ」
当たり前だ。俺とて木の股から生まれてきたわけではないのだから、赤ん坊――のころは無理でも物心ついたころの記憶ならある。
けれど、それを言葉にすることが出来ない。いや、正確に言えば実感がわかないと言ったほうがいいかもしれない。
「だろうよ。まぁ、記憶のことについてはまたいずれ話してやる。今は、夜刀神を打倒する方法だの」
何か手があるのかっ!
「あるぞ」
なら、その方法を教えてくれ。俺が出来ることならば、なんでもする。
「――くくっ、良いだろう。ならばひとまず、体にもどれ。詳しくは、そこで話してやろう」
どうやっ、おっ? おおおおおおっ!
引っ張られるように、俺の意識が遠ざかっていく。
「次は忘れるなよ?」
そんな言葉が、最後に聞こえた。