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十九話 白蛇との交戦(3)

 符が爆ぜる。

 妖剣が空を裂く。


「っ、はぁ、はぁ、はぁ」


 荒く、肩で呼吸を繰り返しながらも沙耶は身体を動かし続ける。

 横なぎに振るわれた尻尾。

 妖剣を軸に、側転するように飛び越える。

 沙耶を飲み込まんと、大口を開く。

 その口の中で、複数枚の符を爆発させる。


「なんて、生命力よ」


 息を整えるため、沙耶は距離を大きく取る。

 夜刀神の間合い、ぎりぎり一歩外。沙耶の間合いからは大きく離れているが、攻める気のない沙耶としては気にならなかった。

 前面に、符――攻撃ではなく、簡易結界を張るための符だ。


「はぁ、はぁ――ふぅ」


 呼吸を整え、沙耶は間合いを計りながら夜刀神が校舎を背にするように移動する。

 ――まさか、ここまで差があるなんてね。 沙耶自身、倒せないまでも手傷を負わせる程度には戦えると思っていた。

 だが、現実に夜刀神は傷一つ負っていない。


「血が出ているところを見るに、ダメージは与えられているはず。にもかかわらず、傷として残っていない。…まるで、真琴みたいね」


 自嘲するように笑って、そして自分の言った言葉に疑問を覚える。

 ――真琴みたいに?

 真琴と夜刀神。

 まずは見た目からして違う。

 かたや、成人にも満たない年の上、平均身長よりも少し劣る男の子。

 かたや、胴回りだけでも巨木を上回る大蛇。

 見た目、種族、大きさ、どれをとっても真琴と夜刀神に同じところなんてない。

 あるはずがない。なのに、沙耶には真琴と夜刀神が同じ存在のように思えてしまった。 それは、唯一の共通点。

 異常なまでに高い再生能力。

 たった一つの共通点。ただそれだけだ。


「っと」


 突進してきた夜刀神の頭に、簡易結界を張った左手をそえて片手で側転。

 ちょうど真上に来たところで、左手をまげて身体を弾くように宙返りさせ、回転中に逆手に構えた妖剣を夜刀神の後頭部に突き立てて、


「せりゃああああっ!」


 叫ぶとともに、沙耶は夜刀神の背を一気に駆け抜ける。

 無論、その手には、つきたてたままの妖剣があった。

 校庭に降り立ち、降りしきる血しぶきの中でも沙耶は止まらない。

 逆手に構えていた妖剣と、背中を向けている自分の体を反転させる。

 正面。開きになった夜刀神の背中に、沙耶は手持ちの符を全て突っ込んだ。


「外からのダメージが駄目なら――中からふっとべっ!」


 開かれた傷が塞がるのと同時に、夜刀神の白い鱗をオレンジ色に染め上げる。


「――」


 苦悶の声か、断末魔の叫びか、聞くに堪えない音が校庭に、校舎に、町中に響きわたった。






「――っ」


 白蛇の叫びが聞こえた瞬間、俺は言い知れぬ不安に捕らわれていた。

 心臓が、割れんばかりに脈動する。

 嫌な予感。

 漠然とした意識のままに、俺は保健室の窓を蹴破って校庭へと駆け出していた。

 神に、下手な攻撃は無意味だ。

 脳裏に、そんな言葉が浮かんできた。何を言っている、神なんて、こんなところにいるわけがない。

 いや、そもそも俺は何で白蛇が神だって思ったんだ。

 疑問の答えが出る前に、白蛇が動いた。

 大きく、振り上げた尻尾。あの位置からならば、沙耶は避けるのは出来ない。

 声をかけて…だめだ、沙耶の注意をそらしたらそれこそ沙耶が危険になるだけだ。

 ならばと、俺は覚えたての霊力を足先にこめて、疾駆する。

 自分が矢になったかのような錯覚を覚えるほどに、俺は真っ直ぐに沙耶へと向かう。

 沙耶。振り上げられた尻尾を受け流そうと、妖剣を構えた。


「くっ!」


 さらに足へと力を込めて、校庭を踏みしめる。

 後十メートル。

 俺が狙えるのは二点。

 後七メートル。

 白蛇の頭か、沙耶の背中。

 後五メートル。


「沙耶ーーーっ!」


 後三メートル。

 俺は、おもいっきり地面を踏み切って―― そこで、意識が途絶えた。






 聞きなれた声。たった三年間とはいえ、今まで聞き続けてきた声。


「真琴?」


 そう思う前に、背中に衝撃。

 一瞬後に送れて、白い影が私の視界を横切った。

 鈍く、嫌な音。

 嗅ぎなれた鉄錆びのにおい。

 視界を覆う夜刀神の尻尾。白かったそれは、所々が鮮血へと染まっている。

 背中に来た衝撃、そして直前に聞こえた真琴の声。

 認めたくない。

 いや、認められない。


「…を…」


 硬く、強く、妖剣を握り締める。


「そこ、を…」


 歯を噛み砕かんばかりに食いしばり、


「そこを、どけぇーーーっ!」


 叫ぶと共に、沙耶は全力を持って夜刀神を弾き飛ばす。


「っ、はぁ、はぁ――真琴っ!」


 妖力を根こそぎ振るい、夜刀神の下にいるはずの真琴を助け起こそうと腕を、やけに軽い腕を引く。

 ずるりと、地の下から抜け出たのは、真琴の右腕。


「あっ、い…やっ……」


 手の甲から、肘の辺りまでしかない腕だった。

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