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九話 一時間目・ロングホームルーム

今回から、真琴の一人称に戻します。

 学校のチャイムと言うのは、同じ音なのに違和感を覚えるのかね。始業開始を告げるチャイムを聞きながら、俺はふとそんなことを思った。

 大守学園に入学して二日目。一時間目のロングホームルームと、五時間目の身体測定以外は通常授業だ。

 いくら大守学園が霊能力を教える所とはいえ、霊能力だけを教えておけばいいと言うわけではないらしく、普通科と合同の委員会や生徒会も当然ある。

 一時間目は、役員を決めるために使うそうだ。

 セオリー道理なら、一番最初に決めるのはクラス委員長ってところか。これを決めるのが一番の曲者だよな。


「よし、それじゃあ号令…を言う役員を決めないとな。それで、立候補はいるか?」


 相川先生が、挙手をうながすように上げた手に答える生徒は、

もちろん俺もふくめていない。


「むぅ、仕方ないな」


 しばらく待って、立候補がいないと分かると相川先生は俺のほうをちらりと見た。


「どうだ、雪村。やってくれないか?」


 良くも悪くも、覚えのいい生徒に委員長を任せると言うのは常套手段だと思う。

 ああ、また変に注目されてるよ。


「いやですよ。第一、何で俺なんですか」


 出来ることなら俺だって、必要も無いのに責任のある立場につきたいとは思わない。


「ん〜、なんとなく雪村は面倒見が良さそうだから、かな」


「いやいや、そんなことないですよ。

俺の面倒見の悪さと言ったら、ナマケモノにも負けず劣らずと言ったところですよ?」


「ねぇ、真琴」


 熱心な顔つきで、大学ノートになにやら書き込んでいた沙耶にシャーペンの芯を渡す。


「いや、絶対にそんなことはない」


 どういうわけか、相川先生はそう断言した上に、

クラスメートの大半も同じようにうなずいていた。


「真琴」


 とりあえず、この流れを打開するのは難しそうだ。沙耶には、驚きの白さを実現! と言うのが売りの消しゴムを渡しておく。


「それじゃあ、クラス委員の男子は雪村でいいな?」


「異議有りっ!」


「異議なーし」


 どんな状況からでも逆転できると言う魔法の言葉も、さすがに多勢に無勢。クラス中の男子

の声にかき消されては、全く意味を成さなかった。


「よしっ! それじゃあ、雪村が男子のクラス委員長な。

前に出てきて、ここからの役員決めを引き継いでくれ」


 うう、さすがにこの空気で断ったら俺が悪者みたいだ…仕方ない。やるか。





「さて、女子のクラス委員を最初に決めておきたいんだけど…立候補っているか?」


 さっきの反応で大体分かってたけど、やはり自分からやろうって言う人はいないみたいだ。


「それじゃあ、推薦…は難しいか…どうしようかな」


 普通なら推薦って形なんだろうけど、このクラスにいるのは大半が外部からの生徒みたいだから、まだ名前を覚えていない人もいるだろうしな。


「あのさぁ、あんたの奥さんじゃ駄目なの?」


 教壇の近くに座った女生徒、名前はたしか河野さん、だったっけ? が茶化すように言った。変に否定すると、余計にからかわれそうなので黙っておこう。

 いや、それよりもだ。


「沙耶は、この学園の生徒ってわけじゃないからクラス委員長は無理だよ」


 学園長と交渉して、生徒でなくても学園に自由に出入りできるような身分になったとか。


「? じゃあ、何で学校にきてるのよ」


「…ノーコメントで」


 沙耶いわく『真琴の側にいないと、なんか落ち着かないのよね』とのこと。さすがに、これを言うのは惚気てるみたいで恥ずかしい。

 それ以外に言うことはなかったのか、河野さん(暫定)はそれっきり沈黙した。

 そしてまた振り出しに戻る。いい加減に決めないと、

ほかの委員を決める時間がなくなるな。


「別に雪村が選んでもいいぞ?」


 相川先生も時間を気にしてか、そんな提案をしてきた。俺が、ねぇ。


「ん〜、それじゃあ…」


 そうつぶやくと同時に、女子がいっせいに眼をそらす。その反応は結構傷つくぞ。まぁ、自分で決めようにも全員の名前も把握してないし、くじで決めるかな。

 相川先生から適当に裏紙をもらい、それを二十分割して一から二十までの数字を書き込む。


「先生、この中から一枚。適当に引いちゃってください」


「ん、ああ。結局くじ引きか…っと、三番だな」


「ええ〜っ、あたしっー!」


 セミロングの、活発そうな女子生徒が声を上げる。名前は確か…臼井さんだったけ。


「だな。じゃあ、臼井。お前が女子のクラス委員長な」


「むっ〜」


 不服そうに頬を膨らませながらも、臼井さんは特に文句を言うこともなく教壇の前へとやってきた。


「よろしく」


 軽く手を上げて、一言だけ言っておく。

 臼井さんは俺の顔を見上げるようにまじまじと見つめた後に、

諦めたようにため息をついた。


「はぁ、もいいわ。とりあえず、あたしが進行するから、黒板の記入お願いね」


「はいよ。そういえば先生、委員会って何に入れるんですか?」


「おっと、言ったなかったな」


 うっかりしてたと苦笑いしながら、先生は黒板に委員会を書き出していく。

 美化委員・男女一名ずつ。

 図書委員・男女一名ずつ。

 浄霊委員・男女二名ずつ。

 保険委員・男女二名ずつ。

 霊符作成委員・男女二名ずつ。

 黒板に書き出された委員会は、以上の五つ。美化、図書、保険委員会はどの学校でもある委員会だろう。

 でも、浄霊、保険、霊符作成委員会は間違いなく霊能に携わる学校にしかない物だ。


「一応、説明を入れておくな。美化委員はそのままだ。大守学園の美化を担当する。図書委員は図書館の整理や、本の貸し出し管理だな。ただ、図書館には貴重な古文書や文献なども収められているから責任はそこそこに重大だぞ」


 古文書類か、沙耶ならいくつか持ってるかな。と思ったが、俺の部屋に置かれている沙耶の蔵書は全て漫画だったのを思い出して、期待するだけ無駄だなっと思い直した。


「それで、ここからが各二名ずつの委員会になってるんだけど。

これは、単純に人手が必要になる事態が多いからだな」


 んむ? 浄霊や霊符作成に人手がいるのは分かるけど、保険委員にも?


「詳しい話は委員会の集まりで聞けるから、

取り合えず概要だけな。浄霊委員は主に普通科の浄霊、あるいは相談を受け持つ」


 まぁ、仮にも霊能力を扱う霊能科ならば対処できる人は、それこそ幾らでもいるけれど普通科はそうもいかないもんな。


「霊符作成は、まぁその名前のまんまの委員会だな。単純に人手が大量にいるから男女二名…あえて条件をつけるなら、根気と器用さが要求される」


 単純に、一番しんどい委員会だろうな。


「後、人手が足りなくなったら、ほかの委員会からも応援を出すことになるからその辺は覚悟しておいてくれ」


「うへぇ〜」


 臼井さんから、げんなりとした声が聞こえる。俺も、声には出していないが顔が歪んでいるのは分かった。


「こんなところだな。じゃあ、二人とも続けてくれ」


 今の話を聞いて、素直に立候補してくれる人がいるとも思えないけどな。


「はぁ」


 はからずとも、臼井さんとため息のタイミングが合ってしまい、互いに顔を見合わせて苦笑いする。


「さって、さくさくと決めていこうか! まずは立候補」


 今のうちに、くじでも作っておこうかな。





 結局、のこっていた委員をくじ引きで決め終えるころには、残り時間三分を切っていた。


「ようやく決め終わったか。全く、もっと積極性を持っていかないとこの先苦労するぞ?

 …まぁいいか。放課後、委員会があるから各自、きちんと指定された場所に行くように。以上! ちょっと早いがこれで終わりにする。号令はいらないけど、チャイムがなるまでは教室から出るなよ」


 そういって、相川先生は足早に教室から出て行った。


「聞いてたと思うけど、今日の放課後委員会になったから。

遅くなると思うから、先に帰っててくれ」


「ん〜」


 何を悩んでいるのか、沙耶は眉根にシャーペンの頭を当ててうなりだす。

ちゃんと聞いてたのか不安だ。


「ねぇ、真琴。遅くなるって大体どれくらい?」


 ちゃんと聞いてたみたいだ。


「さてねぇ、初めてだからなんとも…多分…」


 終業が三時で、委員会が三時半からとして、一時間くらいか。


「五時には終わると思う」


 すこし大目に見ておこう。俺としては、沙耶を無意味に待たせるのは心が痛む。


「そっか…ん〜取り合えず後で返事するわ。それと、私はちょっと相川に聞くことがあるから、次の時間は抜けるね」


「ん? 分かった」


 言ってから、取り合えず机に出しておいたノート類を片付ける。沙耶もいつの間にか、ノートをしまっていた。

 そして、タイミングを見計らったかのようにチャイムが鳴り響く。ほかのクラスも早めに終わっていたのか、廊下の方がすこし騒がしくなった。


「さて、行って来るけど。私がいないからって、泣かないでね」


「ははっ、努力するよ」


 ひらひらと手を振って、沙耶は教室の後ろのドアから出て行った。


「なぁ、雪村とあの美人って付き合ってるのか?」


 そんな声が、俺の前の席から聞こえた。たしか、矢口君、だったな。


「別に付き合ってないけど…結構、長い間一緒にいるね」


「ふ〜ん。あ、俺は矢口、矢口秀樹(やぐちひでき)。よろしくな」


 そういって、矢口君は机越しに右手を差し出してきた。俺は、それを取りながら答える。


「雪村真琴だ。呼び方は適当でいいよ。こちらこそ、よろしく矢口君」


「おう」


 短く答えて、矢口君はにっかりと人懐っこい笑みを浮かべる。

うん、好感がもてそうな奴だ。

 大守学園での初めての休み時間は、矢口君との他愛のない雑談ですぎていった。

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