001-006. プリンターの使い方
時間が掛かってしまいました。
それと、文体が安定しません。
「ここか。…すげえ光景だな」
ちぎれた宇宙船。巨大な船殻が、乱暴に毟られた紙のようにぐしゃぐしゃになっている。そしてそれが、ずっと高いところまで続いていた。直径はどのくらいだろうか。何十mもあるのは間違いない。そして、周りにはたくさんの部品や破片が散乱している。中には稼働中なのか、淡い光を漏らすものもあった。階層構造になっている船の断面図、そこからこぼれ落ちたようにぶらさがるケーブルや破片。
「ここに、いくつか稼動状態にある自動建造装置が転がってるわ」
ヨミコの言葉とともに、視界に白いアイコンが出現した。数は2つ。
「自動建造装置か。生産に必須と聞いてるが」
「作れるものの幅が広がってるだけで、基本的にリアルにあるプリンターと同じものと考えてもらって間違いないわ。入力したものを、忠実く作ってくれる機械ね」
というわけで、アイコンに触れる。
『メッセージ:携帯型プリンターに接触。使用可能です』
目の前に、ウィンドウが現れた。
「なになに、作成可能アイテム一覧」
「ふーん…。選択するだけか。材料もいるんだな」
材料を用意して、作るものを選ぶ。そうすると、自動でアイテムが作成される。楽だな。
「作れるものは決まってるぜ!ユウキはアサルトライフルのカートリッジ、アスカはパルスレーザーガンのカートリッジだ!」
言われてみれば、必要な材料が揃っているのがパルスレーザーガン カートリッジだけだ。容量は(中)サイズ。予備に持っているものと同じ大きさである。
「これを実行すれば、スキルと戦闘、生産の3つのチュートリアルは完了するわ」
「ふーん」
これ、他の材料を突っ込んだら別の物も作れるんだろうか。
とはいえ手元に材料はないし、その辺に転がっているガラクタから作るのは無理だろう。現実世界と同じ仕組みというのなら、精製された素材が必要なはずだ。
「このプリンターから、マテリアパックを取り出すことは出来ないのか?」
「また面倒なことを考えるわね…」
ため息付かなくてもいいじゃないか。
「一応、チュートリアル用の設定だからな!マテリアパックを取り出したり突っ込んだりすると、故障するぜ!故障したら、別のプリンターが使えるようになるらしいけどな!」
というアイちゃんの説明に、俺は肩を落とした。
ま、まあ、さっさとチュートリアル終わらせれば、好き勝手できるってことだよな。
「オーケー…やっちゃおう」
生産メニューからPLG Cat.を選択。
「ええっと…お、設計図の参照ができるのか」
「アスカ、先に作っちまっていいか?」
「え、ちょっと待って」
隣でユウキがさっさと操作しようとしているのだが、ちょっと気になるので、待ったを掛けた。
「作ったら壊れるんだよね。先に設計図見せてよ」
折角なので、ユウキの方の設計図を見せてもらうことにしよう。きになる。
「いいけどさ。さすがアスカ、こういうの好きだな」
職業病だ。
「ほい。ウィンドウ共有っと」
ウィンドウをつまんでぽい。視界に、ユウキのウィンドウが共有された。使い方が面白い。リアルの方のARにも実装してほしい。今度作ってみるか。
「っとう。汎用AL(鉛) Cat.か。汎用部品の組み合わせ、なんだな」
部品リストを見ると、ほとんど「汎用」の文字が入っている。
「ふうん」
「規格化されたカートリッジ部品と、銃弾。鉛弾頭、無酸素火薬、その他諸々ってところか」
残弾カウント用の小型チップも入っているようだ。何気に高性能だな。チップ内のプログラムもデータ化されているようだが、さすがに統合開発環境も無しに読むのは無謀だな。どう頑張っても機械語しか引き出せそうにない。
というか、ゲーム内でそこまで再現してるのか。すごいなこのゲーム。
「ま、この辺りもあとでゆっくり見るか」
チュートリアルが終われば、どこかで探せるはず。そう信じてる。
何と無しに、全体をスクロールした所で。
『メッセージ:スキル[ダイレクトコントロール]効果により、L0デコードに成功』
『メッセージ:汎用AL Cat.制御チップ設計図を取得』
『メッセージ:汎用AL Cat.制御アセンプリを取得』
『メッセージ:汎用AL Cat.設計図を取得』
『メッセージ:AL弾頭(鉛)設計図を取得』
『メッセージ:AL火薬薬莢設計図を取得』
『メッセージ:AL火薬雷管設計図を取得』
『メッセージ:AL弾薬(鉛)設計図を取得』
『メッセージ:汎用AL(鉛) Cat.設計図を取得』
いきなり大量のメッセージが出現した。
「にゅわっ!?」
「おわっ。どうしたいきなり!」
びっくりして変な声が出てしまった…。
「ええ…なにこれ…」
ウィンドウがいっぱい開いている。どうやら、さっき見た設計図のようだ。とりあえず、ぺぺぺいっと視界外に放り投げる。
「また、隠しっぽい機能を見つけたわね…」
なぜか、呆れたような口調でヨミコに突っ込まれた。
「隠し機能だって?」
ユウキにも食いつかれた。そうだね、ユウキは隠し機能とか好きだもんね。ゲーマーだからね。
「ユウキ、ちかいちかい」
「おっとすまん」
ユウキにもウィンドウ共有するか。ログ画面をつまんで、ユウキに放り投げる。
「おおっと。…ログ画面か。俺は良いが、他の奴にはあんまり見せんなよ?」
「ん、気をつける」
おお、言われてみればそうか。ヘタすると個人情報が載っかってるかもしれないもんな。
「で、なんじゃこりゃ。設計図、アセンブリ…」
「ふーん…。これ、そのまま自動建造装置に読み込ませられるってことじゃないか?」
「かも。ユウキはこんなの貰ってないよね?」
「ちょっと待て。…無いな。アイ、設計図とかって取り出せるもんなのか?」
「そんな情報はもらってねーな!いや待て、そうだな!チュートリアル用のプリンターからメモリチップを抜き出すと故障するらしいぜ!」
故障するのか。
「ってことは、普通のプリンターからは取り出せるのかね」
「この説明だと、そうかもしれねーな!マテリアパックも交換できるみてーだしな!」
そうすると、ん、んん?
「あれ、これもしかして、抜け穴見つけた?」
「…かも、ね。それか、想定済みか。あるいは、特に珍しくもない設計図ってことも考えられるわね」
あー。別に取られても影響ないから、取れちゃったって可能性もあるのか。
「ま、貰えるなら貰っとこ。これ、俺の方のも行けるってことだよな」
というわけで、早速手元のプリンターを触ってみる。
『メッセージ:スキル[ダイレクトコントロール]効果により、L0デコードに成功』
『メッセージ:汎用E Pac.設計図を取得』
『メッセージ:汎用E Cat.設計図を取得』
『メッセージ:汎用E Cat.制御チップ設計図を取得』
『メッセージ:汎用E Cat.制御アセンブリを取得』
『メッセージ:PLG Cat.制御チップ設計図を取得』
『メッセージ:PLG Cat.制御アセンブリを取得』
『メッセージ:PLG Cat.(中)設計図を取得』
おお、きた。
「って、ログすげー流れるな。あと共有解除するぞ」
「あ、ごめん。ありがと」
ログの共有は危険だな。ユウキ以外には絶対にできない。ついでに、共有されていたユウキのプリンター画面も解除する。つまんでポイだ。
「さて、じゃあ早速生産してみるか」
「ほい」
生産を実行。残り時間が表示される。5秒か。
『メッセージ:パルスレーザーガンカートリッジ(中)の作成が完了しました』
『メッセージ:携帯型プリンターが破損しました』
カパッと蓋が開き、中にPLG Cat.が置いてあるのが見えた。同時に、バチバチとプリンターが火花を散らし、明かりが消える。ちなみに音は聞こえない。真空だしね。
「壊れた」
「チュートリアル用の使い捨てね。設置型は何度でも使えるはずよ」
「なるほど」
壊れたプリンターの中から、アイテムを取り出す。…エネルギーゲージがゼロだ。
「チャージは、バックパックで可能よ。バックパックのエネルギーを使うけど、誤差みたいなものだから気にしなくていいわよ」
「ほい」
「俺のはさすがに、中身があるな」
「実弾だから当たり前だな!再利用できないからな!」
バックパックにカートリッジをセットする。この動作も、[パルスレーザーガン]のアシストのようだ。何も考えずにカチッと装着できた。
「しかし、本当に生産は楽だな、この分だと」
「たすかるー」
コーディングしたり設計図書いたりは好きなんだけど、さすがに手を動かして作るのは勘弁だ。ほかの生産系ゲームとかと比べると、かなりハードルが低くなるな。
「野望が広がる!」
「お、何だ。何か作りたいものでもあるのか?」
ぬっふっふ。そうだな、あるんだな。
「パイルバンカーだ!」
ロマンの塊!爆裂杭打機!
「…パイルバンカー?」
「パイルバンカー。なんだ、ユウキ、知らないのか!」
それを知らないなんて、とんでもない!
「一撃必殺!接近してドーン!フィニッシュ!」
「ああ…。それか。あんなの使えるのか?」
あんなのとはなんだ!パイルバンカーはロマンだろう!全く、なんて奴だ。近接武器の中では最強の攻撃力を誇っているというのに…。
「格闘戦最強の武器じゃないか!」
「そうなのか?」
「そうだよ!」
「…アスカが使うのか?」
「そりゃ…」
…使えるのかね? 近接武器ということは、つまり接近戦ということだから、ん?
「まあ、ロマンというならやるしかないか。教えてやろうか、近接格闘術」
う、ううん。どうなんだろう…。パイルバンカーに惹かれてこのゲームを始めたというのを、今思い出したぞ。出来るか、俺に。敵に近付いて、一撃必殺だろ。そのためには、うん、敵に近づかないといけないな…。
「ちょっと考えさせて」
「おう」
ええい、笑うな!体動かすの苦手なんだから!
「アスカ、格闘系のスキルを取れば、ある程度は動けるようになるはずだけど」
と、ヨミコ様から素晴らしい提案があった。そうだったね、このゲーム、スキルという素晴らしいサポートシステムを持っていた。
「個人的には、スキルのサポートは無しで動けた方がいいと思うんだが…」
「無理」
「即答かよ」
いや、そりゃね。俺も、できれば色々と体を動かせた方がいいかな、とは思うんだけどね。
「ま、アスカが運動するって言い出す方がおかしいしな」
なんてことを。
「SSSのサポートシステムはかなり優秀って話だし、遊ぶ分には問題無いんじゃないか、多分」
ユウキにそう言ってもらえると安心できるな、うん。
何はともあれ。
「さって、じゃあこれでチュートリアルは完了。最初のカプセル室に戻れば終了よ」
「おお、ようやく終わりか」
何かすっごい頑張った気がするけど。主に戦闘とか戦闘とか戦闘とか。まだチュートリアルなんだよな…。
「アスカ、チュートリアル終わった後はそのまま続けるか?」
「んー」
どうしよっかな。
「ちなみにアスカ、まだリアル時間だと、ゲーム始めてから1時間位しか経ってないからね」
「え、そうなの」
もう何時間もやってる気がするけど。
「体感時間加速のお陰ね。今の加速係数は、4.83。ほぼ最大加速値よ」
「5倍か。技術は日進月歩だな」
「さすが、最新のタイトルだな。β時代は2倍だったって聞いたぜ」
そうか、まだ1時間か。あと何時間かは遊べるな。1泊2日くらいで一旦終わる感じかな?24時間でも、5時間ってことだろ。
「とりあえず、ゲーム時間で1日くらいは繋いでみる」
「了解。俺もそんな感じで行くかな」
「ユウキはバッチリ準備してるからな!リアル12時間ぶっ続けでも問題ないぜ!」
「いやさすがにそんなにはしねーよ。せいぜい8時間位だぜ」
「それでも十分長いわ!」
さすがゲーオタ、ユウキだ。
「じゃ、戻るか」
ユウキが歩き出すので、俺も続く。来た道を戻るだけ。戻るだけだよね?
「敵が復活してないかね」
「勘弁してくれ!」
できればもう見たくない!
「アスカは、敵が苦手なのかしら。それとも、戦闘が苦手なのかしら?」
どっちも嫌なの!
「どっちも嫌って顔してるわね」
「はいはい。敵は俺が倒すから、付いてくればいい」
持つべきものは友達である。ユウキ最高!
「頼んだ!」
というわけで、歩く。
「げ、ユウキ!前!敵!」
「やっぱり出てくるんだな…」
さすがに[スターライト]があれば、ユウキより先に敵に気がつく。だってあいつら、動きが気持ち悪んだもん!
「…見えた。1体だけだな?」
「こっから見えるのは1匹だけ」
ユウキがアサルトライフルを構え、撃つ。マズルフラッシュとともに、敵が破裂した。
つよい…。
「よし。…ドロップは無しか」
「残念」
「チュートリアルだし、こんなもんか…」
だいたいそんな感じで、俺とユウキはしばらく歩き、そして無事にエアロックに辿り着いた。
「ここが、俺が出てきたエアロックだ。向こうがアスカのエアロックだな」
「うん。…敵、居ないよね」
「見る限り、な。これだけ明るいし、見落としはないだろ。最悪、走ればエアロックに逃げ込めるさ」
そうだなあ…。
「送ってやろうか?」
う。それも魅力的だけど。
「さ、さすがにそこまでしてもらうわけには」
「噛んでるなよ。ま、大丈夫だろ。通常サーバで会おうぜ」
「そうだな…」
よし。覚悟だ。覚悟を決めよう。
「じゃ、ユウキ、向こうで!」
走ろう!
「あ、ユウキ走ると危な」
「ぎゃー!」
「アスカ、低重力なんだからいきなり動いたらバランス崩すわ」
「さすがアスカ、相変わらず運動音痴だな!」
「うるせー!」
そういえばそうだったよ!ここ小惑星だわ!
両手を付いて、身体を起こす。うう、恥ずかしい…。
「歩いていけ。見ておいてやるから」
「ありがと…」
結局ユウキに見守られながら、俺はなんとかエアロックに辿り着けた。大丈夫、敵はいない。
「じゃ、じゃあ向こうで…」
何かすごい疲れたよ…。
「ああ。向こうで会おう」
そうして、俺とユウキはようやく、エアロックに入ることが出来たのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ようやくチュートリアルが終わりました。