001-005. 初戦闘、初ドロップ
銃が強い話。
「ちなみに、アスカ、武器は持ってるか?」
「当たり前だ!」
さすがに戦闘スキル無しってのは考えなかったぞ。そこまでアホじゃないからな。
「見ろ![パルスレーザーガン]だ!」
ポーチに下げたPLハンドガンを抜き放つ。スキルのアシストで、理想の射撃態勢が取れる。ちょっとかっこよくない?
「おまっ…。え…。うん、俺の後ろに居ろ」
「なんだとー!」
いや、正直助かるけど。
「ちょっと安心すんな。…はあ、一応説明しておいてやる」
な、なんでそんな残念そうな顔するかな。ちゃんとした武器じゃないか。
「βテストでの話ではあるがな。[パルスレーザーガン]は、見た目と作動音に惹かれて使う奴が多かったらしい」
「おう。かっこいいよなこれ」
「だがまあ、使われる内に色々と問題が発覚して、誰も使わなくなったスキルなんだ」
「えっ…」
なにそれ。初耳なんだけど…。
「おいヨミコー!なんでそんな装備選ばせてんだー!」
「待ってユウキさん、アイさん。私も、武器はちゃんとアドバイスしようと思ったのよ」
「え、そうなのヨミコ?アドバイスとか聞いてないんだけど」
「いろいろとシミュレーションした結果、何持たせても変わらなかったから諦めたのよ!」
「…あっ」
ええええ。待ってユウキ、その察しましたって顔なに、やめてよ。
「とはいえ、スキルのアシストがあるからって期待してたのに、よりによって[パルスレーザーガン]を選ぶとは…半分くらい予想してたけど」
「予想されてた!」
「だって、一番軽くて、反動もない銃器だったし」
ですよねー。俺の思考なんて筒抜けですよね。知ってた。
「…まあ、分からんでもない。反動は確かに、アスカじゃ制御なんてできそうにないし。重い銃なんか持ったら、照準もぶれそうだな」
「教えとくぜ!パルスレーザーの攻撃力を1とすると、アサルトライフルの攻撃力は40くらいあるからな!」
「40分の1だと!」
そんな弱いんか!え、これもやっちゃった系!?
「産廃呼ばわりされるくらいの武器だからな。特にハンドガンは」
「……」
「まずは、作動音だな。真空中はまだ良いが、大気中だとかなりうるさい。プラズマが発生するらしくて、オゾン臭くなる。静電気が溜まりやすい」
「あとは、純粋に攻撃力不足だ!敵を倒すのに必要な照射時間がなげーんだ!その代わり、コストパフォーマンスは全武器の中でピカイチだぜ!よかったな!」
「お、おお…」
「ひとまず、チュートリアルの中ではまだ使える。大丈夫だ」
「ぐぬぬ…。やってやるよ!俺は[パルスレーザーガン]を極めてやる!」
「そうか…」
って応援すらしてくれなかった!絶対やってやるからな!
「はいはい。アスカ、どうどう。大丈夫よ、何とかなるわ。少なくとも、チュートリアルさえ乗り切れば生産があるから」
ヨミコにも慰められた。しかも、さり気なく[パルスレーザーガン]がディスられた気がする…。
「おう!さあ歩くぜ!敵はすぐそこだ!」
アイちゃんに促され、ユウキと俺は頷いて歩き出した。[ダイレクトコントロール]のウィンドウにライトの回路が見つかれば、それを点灯させる。
そうして、5つくらいライトを点けたとき。
「アスカ、止まれ。何かが動いた」
「うぇっ。びっくりした!」
ウィンドウを見てたから、いきなり目の前に差し出されたユウキの手のひらにびっくりした。いや、前見てなかった俺が悪いんだけど。
「ちゃんと前を見ろ。さて、敵か、プレイヤーか」
言いながら、ユウキは手にしたビームライト(指向性の高い白色灯)を前に向ける。そこに現れたのは…。
「うへぇ…」
「敵、だな」
虫。最初の印象はそれだった。色は恐らく黒、体はそれほど大きくない。手のひら2個分くらいか。そこから、何本か、長い足が伸びている。蜘蛛のような付き方か。
「攻性宇宙生物、仮称α。モンスター・ネームは無し。私達に配られた初期データには、Unknownとしか書かれていないわ。今視認したことで、画像データがアンロックされた。接触して情報更新しろってことね」
「接触あるいは攻撃すると反撃される、だったか?」
「そうだなー!ノンアクティブってやつだ!!」
ノンアクティブか。ユウキがライトで照らしているが、それに反応している様子はない。触覚のようなものがお尻側から前の方に伸びている。触覚というか、ヤギアンテナみたいな形だけど。
「微弱な電磁波を探知したわ。僅かに、ナノマシン・アンプルの反応を確認。どうやら、散らばった宇宙船の破片を集めてるみたい。このままだと、群がられて解体されてしまいそうね…。というわけで、この仮称αを討伐してちょうだい」
「りょーかい。とりあえず1匹だし、俺が先にやるぜ」
「任せた」
怖いし。
ユウキが、ごつい銃を構える。
「一応説明しておくか。こいつは[アサルトライフル]スキルで手に入った、リトルカービン。口径は5.56mm、銃身が短めで取り回しはいいが、集弾率が良くない。全体的に作りが甘いというか、設計寸法に余裕があって部品が安い」
手元で、パチリ、パチリと何かのレバーを操作している。
「とりあえず、シングルで狙撃する。安全装置解除」
右手を引き金に掛け、左手は銃身の前部分を支え、同時にライトを握り込んでいる。照準方向の明かりを確保しているようだ。ライトの分、ちょっと持ちにくそうである。
「撃つぞ」
ユウキが引き金を引いた。マズルフラッシュが光り、反動で上半身が揺れる。当然、発砲音は聞こえない。
「当たった」
敵、仮称α?を見ると、なんと身体が2つにちぎれていた。どちらもピクピクと痙攣している。ユウキは、銃を構えたまま。油断なくじっと見つめているようだ。
「…倒した?」
「たぶんな。…さて、もう少ししたらドロップ品が出るはずだが」
ドロップとな。
ちぎれた虫を見ていると、やがて動きが止まり、硬さを失ったようにぐんにゃりと地面に伸びた。そこに、白いアイコンが表示される。
「ナノマシン・パックか。SPだな」
「この敵、たまにナノマシン・パックを持ってるらしいわ。初回は、ボーナスドロップみたいだけどね」
「近づいて、アイコンに手を触れると回収できる。やってみるぞ」
銃を構えたまま、ユウキが倒した虫に近付いていく。周りを油断なく見回してから、やや腰をかがめてアイコンに触った。すると、アイコンがふっと消える。
「ナノマシン・パック。SPが10ポイント手に入った」
「はー…」
様になってて、というかなりすぎててかっこいい。さすがゲーマーユウキだ。
「次はアスカだ。正直、PLハンドガンじゃ何発当てなきゃいけないか分からないから、気をつけろよ」
「あー。40分の1だっけか…」
最悪、40回当てないといけないのか。それはきついな。
「まあ、レーザー系は照射時間でダメージ量が決まる。普通の銃とは感覚が随分違うはずだ。まずはやってみないとな」
うむ、為せば成る。PLハンドガンを両手で構え、地面に向ける。引き金に指は掛けない。この動作が自然に出てくるのが、[パルスレーザーガン]のスキルアシストだ。
「アスカ、居たぞ。敵、さっきのと同じやつだな。こっちに近付いてくる」
「わかった」
見えた。ちょっと暗いが、問題はないと思う。PLハンドガンを構える。セーフティーを解除し、威力を最強にセット。右手でグリップ握り、左手を下に添える。銃口に付いているサイトと、お尻に付いてるサイトを合わせて、一直線になるように。
「撃つ!」
引き金を引く。青色のレーザーが、銃口と虫を繋いだ。照射点が眩しく光り、煙のようなものがぶわりと吹き出す。途中のレーザー光が見えるということは、粉塵が舞っているということか。
「…動いた!」
虫が攻撃されたことに気付いたのか。びょん、という効果音が出そうな動作で、その場所から飛び退った。慌てて、引き金から指を離す。
「倒せてないし!」
「もう1回撃て。こっちにくるぞ」
こちらに気が付いたようだ。くるりとこちらに向き直り、カサカサ近付いてくる。
「うひっ…」
き、気持ち悪い!!
慌てて、引き金を引く。照準が合わず、右上に照射点がずれている。狙いを虫に合わせるため、銃口を少し落とす。照射点が光るので、分かりやすいと言えば分かりやすいのだが。
緊張しているのが自分でも分かる。狙いが定まらず、照射点がぶれる。たぶん、ちゃんとダメージが入っていない!
「アスカ、落ち着け!」
ユウキが叫びながら、両手で包むように、グリップを押さえてくれた。震えが止まり、照射点が安定する。虫は一直線に近付いてくるので、それほど位置ずれはしない。
そして、長い時間が…実際には数秒だと思うが、時間が過ぎ。
虫の動きが鈍り、そして止まる。足が弱々しく動き、そして、脱力した。
「わっ…はっ…」
緊張しすぎて、息が苦しい。
「アスカ、大丈夫か」
「う、うん…大丈夫…」
ユウキに手を添えられて、腕を下ろす。構えたまま固まっていたらしい。はあ、と息を吐いた。やっぱり、戦闘は苦手だ。せめて乗り物に乗りたい。
「とりあえず、初戦闘は無事に終わったな。ちょっと焦りすぎだとは思うが」
「あー…もう、緊張したぁ」
「ユウキさんが居てくれて助かったわ。一人じゃパニックになってたわね」
「相変わらずアスカはビビリだなー!」
エイダにすらダメ出しされている…。
「まあ、慣れだろ慣れ。今回も、ちゃんと狙えれば倒せるってのは分かっただろ」
「慣れ…かも…うーん…」
慣れるのかな、これ。あああ、やっぱり実弾にしとけばよかったかな。倒すのに凄い時間かかるんだけど。
「ってかな。レーザー武器って射線というか照射点が見えるから、横からでも修正できるんだな。やりやすかったぜ」
「あ、そういえば。確かに、狙いやすいかも」
ユウキがフォローなのか分からないけどそう言ってくれた。言われてみると、その通りだ。照射点を確認しつつずらすってやり方もできそうだな。せっかくパルスレーザーガンを極めるって決めたんだ、やってやるぜ。
「とりあえず、ドロップがあるぜ。早く拾わないと、他の敵に持ってかれるぞ」
「あ、それは困る!」
慌てて、ドロップアイコンに駆け寄る。ちょっと暗い。先に、近くのライトを点けて、明かりを確保。まわりよし。近くに虫はいない。確認してから、アイコンに触れた。
『メッセージ:ナノマシン・パックを入手。SPを10ポイント獲得しました』
「SP10ポイントもらった」
「おめー」
「よし、きたか!じゃあ、早速だけどチュートリアル!レベルアップだ!」
アイちゃんの言葉とともに、ウィンドウが目の前に飛び出してきた。
スキルの一覧が表示されているようだ。スキル名の横に数字、灰色の別のスキル名がある。
「スキルの横の数字が、レベルアップに必要なポイントだ!灰色のスキル名が、レベルアップしたら取得可能になるスキルだ!簡単だろ!」
ふむ。[パルスレーザーガン]のレベルアップに必要なポイントが、3。レベル2で取れるスキルが、[ガイドレーザー]と[フラッシュライト]、[PLリトルカービン]か。
[ポーチ(小)]は、20ポイントで[ポーチ(中)]に。足りない。
[ズームビジョン]は、3ポイントでレベルアップ。そして、[スターライト]が取得できるようになる。
[ダイレクトコントロール]は、5ポイントでレベルアップ、[素子記号名称]が取得できるようになるようだ。
「俺は、ひとまず[アサルトライフル]を上げる。それから、[ドットサイト]と[フラッシュライト]が取得できるようになるから、こいつらも取る。残りが1ポイントだな」
ユウキはそう言いながら、ウィンドウをチョイチョイと操作した。そして、おもむろに背中のバックパックに手をやり、何かを取り出す。
「これが[ドットサイト]と[フラッシュライト]だな。リトルカービンに取り付けて使う」
「背中から出てくるのか」
「アスカ、そういう設定よ。ナノマシンを消費して、装備を作成してくれるの」
「へえ…」
まあ、いいか。便利だし、変に現実に則されても面倒なだけだろう。
「[赤外線ライト]があるといいんだが、まだまだだ。これは次の目標だな」
カチリ、とサイトとライトを銃身に取り付けるユウキ。パチ、と明かりが灯った。かなり明るく、集光性も高いようだ。
「一応[サーマルビジョン]は取得したんだが、どうも今出てくる敵はあまり熱を持っていないらしい。さっきも結局、サーマルじゃ視認できなかった」
「ふうん」
サーマルビジョン、熱赤外線か。俺はどうだろう、[ズームビジョン]のレベル2で、[スターライト]が取得できるようだ。
「アスカ、[スターライト]はお勧めよ。たぶん、しばらくはこの小惑星が舞台になるわ。当然、光源はライトしかないから、暗視のスキルは必須になるわ」
確かに、そうだな。俺はウィンドウを操作して、[ズームビジョン]をレベル2に、そして[スターライト]を取得する。残りは2ポイント。
「[スターライト]!」
叫ぶと、視界の隅にアイコンが追加された。ズームバーの下に、目のアイコン。色は薄い。指で突付くと色が濃くなり、視界が開けた。
「うわ!なにこれめっちゃ見える!めっちゃ緑!」
「緑色か。昔の暗視装置は、そういう視界になるって何かで見たことがあるな」
緑一色だけど、今までに比べるとものすごく見やすいぞ。ぐるりと周りを見回す。前方には壁、後ろも壁。左手は宇宙船、ライトが眩しい。右手はずっと、渓谷が続いているようだ。宇宙船は、谷を塞ぐように、両側の崖に対して横になって挟まっている。
「はー。ムービーでは見てたけど、ほんとにここ、崖の下なんだな」
「この中じゃ、アスカだけが見えるんだな。俺のフラッシュライトでも、そこまで遠くは照らせないぜ」
「そうだねぇ」
ま、見えるようになっただけでもありがたい。けどこれ、明るい光の下だと眩しすぎてよくわかんないな。解像度もそんなによく無さそうだ。ユウキの顔を見てみるが、緑の濃淡しか無いからか、うまく認識できない。
「さ、戦闘もできたしスキルも使えたし、レベルアップも出来た。チュートリアルの前半は完了ね」
「続けていくぞおらー!前進だ!敵もちょいちょい出てくるから倒してけ!」
「りょーかい」
「ああ」
よし、じゃあ出発だ。とはいえ、戦闘に関しては非常に心配なのだが。
「索敵は、アスカに任せる。そうだな、俺がこっちを歩くから、左に居てくれ。あと、ライトも点けてくれよ」
「おお、任せろ」
2人して、武器を構えながら歩く。ライトの電子回路を見つけた端から点灯させていく。そうやって、2、3分ほどか。
「んっ…と。たぶん虫、敵だ。さっきのと同じようなシルエットが見える」
「どこだ?」
ちょっと遠いな。指を指した場所に、ユウキがフラッシュライトを向ける。
「…見えた。かなり距離があるな。アスカ、やってみろよ」
「ええー」
「さっさと慣れろ」
ユウキがさっさと倒してくれないかと期待したんだが、残念。仕方なく、PLハンドガンを構える。照準を合わせて、照射。
「…むむっ」
遠すぎて照射点がブレる。こっちに気付いた虫が、やっぱり気持ち悪い動きで近付いてきた。慌てない。落ち着け。近付く虫に合わせて、ゆっくり銃口を下げていく。
「…よし、倒したな」
「…。はああぁぁぁ~…」
さっきのよりは、だいぶ落ち着いて倒せたと思うぞ。
「さっきよりはマシだな。よし、次行くぞ」
「や、やっぱりやらなきゃダメ?」
「慣れろ」
ひどい。
結局、それから3戦させられた。近付くまでに倒せたのは2匹。1匹はかなり近付いてきたので、ユウキが爆散させた。ちなみに、ドロップアイテムはSPが1ポイントだけ。ユウキに押し付けておいた。
「さて。ようやく終りが見えてきたか」
フラッシュライトで照らされる先に、崖が見える。俺は最初から見えてたけど。
「使えない回路も増えてきたな」
あと、突付いても点かないライトや、そもそも壊れているのか、回路図も見えないような場所が増えてきた。ちぎれた場所に近付いてきたんだろう。
「最後は生産のチュートリアルよ。まずは、破断箇所へ行きましょう」
ヨミコに言われ、崖に近付く。
「というか、他にプレイヤーが居ないな」
「そういえば、全然出会わない」
ユウキの言葉に、そういえばと気が付いた。それなりのプレイヤー人数がいるって話だし、目的地は1箇所だけ。
「たぶん、チュートリアルはプレイヤー毎に分かれてるんじゃないかしらね。アスカとユウキは友達だし、便宜を図ってもらったのかも」
「そういう情報もある程度渡してるからなー!どうやって通常チャンネルに戻るのかしらねーけどなー!」
「ま、確かに。広いマップって訳でもないし、そんなもんかもな」
「そういう情報はもらってないの?」
「サポートAIの情報としては、もらってないわ。ま、プレイヤー数とかそういうゲーム運営側の情報は元々入ってないから、自分で調べろってことでしょ」
「ふーん」
まあ、誰も居ないならそっちの方がやりやすいか。
そして、ユウキと2人で、チュートリアルの最後のステージに足を踏み入れた。
そろそろ連休に突入しますが、基本的に休日はあまりPCを触れない生活をしているので、更新頻度はおそらく変わりません。
ごめんなさい。
チュートリアルも残す所あと1話です(たぶん)。