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001-002. オープニング

よろしくお願いします。

本話はオープニングムービーですので、飛ばしていただいても支障はありません。

また、エッセンス程度の伏線はありますが、別途本編で捕捉されますので、気にされなくて構いません。

 宇宙。

 視界いっぱいに、漆黒の空間が広がる。

 背景には、たくさんの星々。

 星が瞬く。

 瞬きはやがて、たくさんの宇宙船に取って代わる。

『定時連絡。第1,567回自動レポート』

 無機質な音声が、耳に届いた。

『317番移民船のエンジン不調、継続57日目。その他全船団に、推進系トラブル無し』

 整然と並んだ宇宙船、何百隻と続く船団に、視界が近付く。

『動力経路トラブル、13番移民船、78番移民船で発生。エネルギー供給停止により、合計570台のコールドスリープ装置に異常発生。これに伴い、38台でエマージェンシーコールが発報、全てメンテナンスロボットにより対処済み』

 視界は船団の後方に移動する。最後尾を過ぎ、数秒。1隻の宇宙船が、視界に入る。

『317番移民船との、同調高速ネットワーク途絶、50日目。同調低速ネットワークの範囲外まで、現在の加速度を保った場合、残り3日』

 船団の宇宙船は、後方に4つの淡い噴射を光らせている。しかし、はぐれた宇宙船は、対角の2つのエンジンのみが光を放っていた。

『次回定時連絡、90日後。それ以前に、317番移民船との同調ネットワークが途絶した場合、緊急連絡を実行予定』

 (…いい眺めだ)

 目の前で流れるオープニング・ムービーに、俺はわくわくを隠せなかった。こういうSF系のムービーは、いつ見ても心が躍る。

『緊急連絡。重要度・高。317番移民船との、同調低速ネットワークが途絶。非同期通信を開始。317番移民船のエンジン不調、改善の兆し無し』

 船団とはぐれ宇宙船の距離が、更に開いている。

『定時連絡。第1,568回自動レポート。317番移民船のエンジン不調、継続147日目。その他全船団に、推進系トラブル無し』

 はぐれ宇宙船の後方に視界がある。しかし、前方に見えるはずの船団の噴射炎が確認できない。恐らく、背景の星々に紛れてしまっているのだろう。

『動力経路トラブル、520番移民船で発生。エネルギー供給停止により、合計33台のコールドスリープ装置に異常発生。これに伴い、2台でエマージェンシーコールが発報、全てメンテナンスロボットにより対処済み』

 視界が、はぐれ宇宙船にズームアップする。

『317番移民船との、同調低速ネットワーク途絶、86日目。非同期通信の通信速度、適正速度比87%。通信途絶まで、現在の加速度を保った場合、残り950日から1,080日程度と推定』

 船殻を通り抜け、動力炉を突き抜け、コールドスリープ装置と思しきカプセルが並ぶ部屋に突入する。

『次回定時連絡、90日後』

 ひとつのカプセルに、さらにズームアップ。そこで眠るのは、俺だ。俺のアバターが、凍った状態でカプセルに収まっている。胸元に見えるのは、サポートAIのペンダントトップ。ヨミコと一緒に眠ってる状態なんだな。

 そして、今度は視界が離れていく。カプセル部屋を外れ、誰もいない管制室を通り抜け、修理ロボットが忙しなく動くエンジンルームを通り過ぎ、宇宙に戻ってくる。

『定時連絡。1,589回自動レポート』

 はぐれ宇宙船――317番移民船。この宇宙船が、ゲームの舞台になる、のか?

『317番移民船との通信途絶から、874日目。本船団への復帰は絶望的』

 船団との別れ、か。ムービーからすると、エンジン不調により加速度が得られなくなり、船団から脱落したと。船員は全てコールドスリープ状態、輪番は用意していないのかね。少なくとも、自動修復はできる状態にない、と。

 再び、視界が移動する。317番移民船の、管制室が映し出された。小さなコンソールに、赤い警告灯が表示されている。

『定時発信。同調ネットワーク喪失。ブロードバンド通信要求を定期実行。5,897回』

通信途絶(リンクダウン)

緊急事態(エマージェンシー)

 誰もいない管制室に、虚しく光る警告灯。何とも、無常観を感じさせる絵面だ。

「緊急事態発生。緊急事態発生。近接警報発令。近接警報発令。デブリ探知。デブリ探知。衝突警報発令。衝突警報発令」

 そして突然、管制室が真っ赤に染まった。ちょっとビクッとしてしまった。

「焼却レーザー起動。励起開始。デブリ焼却プロセスを実行。メインエンジン推力不足のため、回避性能が42%にダウン中」

 誰もいない管制室に、3次元レーダーマップが投影される。小惑星群と思しき霞が、球形マップ表示されているのが見て取れる。

「回避運動開始。焼却レーザー、照射開始。自動迎撃モード」

 視界が、宇宙空間に移動する。船殻越しに、光が瞬いた。照射されたレーザーが、対象のデブリに当たり乱反射しているのだろう。しかし、瞬く光に照らされるデブリ群、かなりの量があるように見受けられる。

 再び、視界が動き出す。はぐれ宇宙船から離れ、デブリ群に近付いていく。

 やがて現れたのは、漆黒の物体――いや、巨大な小惑星。ちらちらと瞬くレーザー光に時折照らされるが、全貌は全く見えない。

 視界の端で、レーザーに炙られたデブリが水蒸気爆発を起こし、軌道を外れた。くるくると廻りながら、小惑星に向けて落下していく。同時に、視界が動き出した。

 はぐれ宇宙船の管制室まで戻ってくる。

「コンデンサー電圧低下。焼却レーザーの効率が36%にダウン」

 管制室は、相変わらず赤く染まっている。

「巨大質量を探知。引力を確認中」

 3次元レーダーマップの端が、白く塗りつぶされた。恐らく、先程映っていた小惑星だろう。

「軌道計算開始。…。…。…。計算完了。推力不足のため、本船は142時間後、小惑星に衝突します」

 小惑星に衝突、か。え、生き残れるのこれ?

「機動計算を開始。…。…。…。…。…。計算完了。小惑星、仮称αへの不時着を提案」

 提案された。

統合頭脳トライアングル・コートの判定により、不時着を決定」

『緊急発信。317番移民船は緊急事態(エマージェンシー)により、小惑星仮称αへの不時着を決定。超々長距離信号を発信中。座標添付済み』

物理情報媒体(メモリーシップ)の射出を実行。初速度14,000km/hにて進行方向へ射出』

 はぐれ宇宙船から、何かが超高速で発射された。インフォメーションから予想すると、情報を詰め込んだカプセルか何かか。

『30本の物理情報媒体(メモリーシップ)を射出。317番移民船は、航行プロセスを閉鎖。緊急プロセスを展開中』

「緊急プロセス展開中。メインエンジン推力、通常(セイル)から着陸(ランド)へ移行します」

 はぐれ宇宙船の、2つのメインエンジンの輝きが増す。同時に推力偏向を行ったか、ゆっくりと船体が回転を始めた。

「着陸態勢へ移行。逆噴射を実行中です」

 管制室へ視界が戻ってくると、カタカタと僅かに船体が振動する音が聞こえていた。

「メインエンジン推力、不安定。2番噴射口を閉鎖、補助スラスター展開」

 モニターに映るはぐれ宇宙船の船体ステータス、その尾部が赤く染まっている。

「軌道計算を再実行。同時に機動計算を再実行」

 カタカタとしていた振動は、いつのまにかガタガタという不安を煽る音と衝撃に変わっている。

「計算完了。推力不足が判明。十分な減速を行うことが出来ません。強行着陸を提案」

 再び、音声が提案を行ってきた。

統合頭脳トライアングル・コートの判定により、強行着陸を決定。軌道維持のため、メインエンジンの全噴射口を閉鎖」

『緊急発信。317番移民船は緊急事態(エマージェンシー)により、離陸機能を放棄。小惑星仮称αへ、強行着陸実施を決定。自力航行復帰は絶望的』

「スラスターペレットの使用を決定。キセノンタンクの放棄を決定。最終姿勢制御のため、回転制御器(リアクションホイール)のアンローディングを実施中」

 はぐれ宇宙船が船体の各所から、ガス噴射を始めた。不時着態勢に入ったのだろう。

「小惑星仮称αへの不時着は、42時間後を予定。デブリ焼却は、不時着15分前まで実施。不時着13分前時点で、メインリアクターの緊急閉鎖を実施。直後にスラスターペレットを順次起爆、強制減速を実施予定」

 そして、いよいよ、はぐれ宇宙船が小惑星に近付いていく。


脱出不能高度(ゼロ・ポイント)を通過」

 小惑星を取り巻くデブリの密度が高まっていく。レーザーが次々にデブリを爆発させ、着陸のための軌道を確保する。

「メインエンジン、推力全開」

 少しでも速度を落とそうと、出力不安定なエンジンが稼働する。噴射口から、キセノンイオンが断続的に吐き出される。

「出力不安定。回転制御器(リアクションホイール)による回転制御を再開」

 巨大なリアクションホイールの回転速度が上がっていく。制御しきれないモーメントは、化学スラスタで中和される。

 船殻を振動させながら、順調に減速を行う宇宙船。しかし、次の瞬間、別のデブリの影から飛び出した小型のデブリが、尾部を直撃した。

「デブリの衝突を確認。運動エネルギーの中和に失敗。メインエンジン、出力低下」

 デブリ衝突の衝撃で、さらに一つの噴射口が潰れた。更に、デブリの運動エネルギーにより軌道がずれ、船体が斜めに回転を始める。

「スラスターペレット点火」

 緊急事態と判断した統合頭脳トライアングル・コートが、スラスターペレットの使用を決断。ここで使ってしまうと着陸時に減速が十分にできなくなってしまうが、姿勢制御ができないままの墜落よりも破損度が低くなると判定。

 船殻に取り付けられたスラスターペレットが、次々と爆発していく。

「姿勢復帰。メインエンジン、触媒(カタリスト)損耗率が限界に到達。キセノンタンクの廃棄を実行」

 遂に限界を迎えたメインエンジンが、明滅しながら役目を終えた。同時に、噴射口を失いお役御免となったキセノンタンクが、爆発によって勢い良く小惑星に向けて落下していく。

「突入速度、安全限界を超過」

 小惑星の重力に捕まり、徐々に加速していく宇宙船。

「着陸15分前。デブリ焼却を中止。メインリアクターの緊急閉鎖プロセスを実行」

 万が一の暴走を防ぐため、リアクターの閉鎖が実行される。次々とエネルギー経路が遮断され、船内が暗闇に包まれていった。

「補助電源に切り替え。最終減速プロセスを実行」

 当初予定よりもかなり数を減らしたスラスターペレットが、爆発力を推進力に変換し速度を中和する。

「サブスラスター、推力全開」

 化学スラスターが青白く輝き、膨大な燃料を消費しながら、少しでも減速しようと船体を押した。

「全隔壁閉鎖を実行」

 強行着陸に備え、少しでも船体の剛性を上げるため、隔壁閉鎖が行われる。これに伴い、宇宙船の重心がずれ、少しづつ回転を始めた。

「最終姿勢調整を実行」

 リアクションホイールが唸りを上げる。通常ではありえない過負荷が掛かった回転軸が、不気味な振動を始めた。サブスラスターのノズルが異常加熱し、真っ白な輝きを放つ。

「最終計算を実行」

 最終アプローチに入り、統合頭脳トライアングル・コートが着陸シミュレーションを再実行する。

「進入速度が、船殻構造の設計限界を超過と判定。貨物体(カーゴブロック)強制排除(フォース・パージ)を決定」

 デブリ衝突によるメインエンジンの破損、モーメント修正による燃料消費により、十分な減速ができないと判定、即座に貨物体(カーゴブロック)がパージされた。爆発ボルトが荷物満載の重量ブロックを弾き飛ばし、船体が僅かに減速する。

「アプローチを継続」

 小惑星の地表が、ぐんぐんと近付いていく。そのまま綺麗に接触する、と思われたが。

「デブリ、衝突コースを確認。回避不能。迎撃不能」

 小惑星の重力に捕らわれたデブリが、地表目掛けて降り注ぐ。そのうち幾つかが、船殻に突き刺さった。途端に、大きく姿勢を崩す宇宙船。

「着陸態勢維持不能。各所リミッターを解除。生命維持を最優先に設定」

 リミッター解除されたリアクションホイールが更に回転数を上げる。スラスターが輝きを増し、少しでも姿勢を取り戻そうと推力を稼ぐ。

「アプローチラインを確保」

 限界温度を超えたスラスターノズルが、融解を始めた。少しづつ、モーメントがずれ始める。

「現在高度、100m」

 船体下部から伸びるアンテナが地表に接触し、根本から折れ飛び一瞬で後方に消えた。

「高度60m」

 中和しきれないモーメントにより、ゆっくりと船体を回転させながら、宇宙船が地表に近付く。

「高度30m」

 限界を迎えたスラスターノズルが、ボロボロに崩れながら、次々と脱落していく。船体はさらに回転し、45度ほどの傾きとなった。

「高度10m。デブリ、衝突コースを確認」

 頭上から、またもデブリが降り注ぐ。比較的大きめの塊が、船体尾部右側に直撃した。船体にめり込んだデブリの運動エネルギーにより、ぐらりと姿勢が崩れる。

「姿勢制御不能」

 凄まじい衝撃が船体全体を揺らした。尾部から接触した宇宙船が、地表に叩きつけられる。下敷きにされた化学スラスターの幾つかが圧壊し、爆発。炎の道を描きながら、地表を滑っていく。

「…船体…ダメージ限界…」

 衝撃と振動により、管制室内の様々な設備が脱落していく。設計限界を超えた加速度に耐え切れなかったボルト類が弾け飛び、赤色灯やスピーカが宙を舞った。

「…回転…御器(リアク…イール)…制御不…」

 限界を超えたモーメント中和と度重なるデブリ衝突による衝撃、そして何より墜落のダメージにより、遂にリアクションホイールの回転軸が破断する。

 膨大な回転モーメントを持った巨大なリアクションホイールが、次々と脱落。互いに衝突し、跳ね飛んだ。船殻に衝突し、食い破り、船外に飛び出していく。


 巨大な宇宙船が、真ん中から引きちぎれた。


 内側から巨体を食い破るように飛び出した円盤が、小惑星の大地に突き刺さる。そのまま勢い良く転がり、岩石を巻き上げながら視界から消えた。一方、船殻を大きく引き裂かれた宇宙船は、断裂が広がり、やがて2つに別れる。尾部は切断面がどこかに引っ掛かったのか、大きく姿勢を崩し横向きとなり、ごろごろと回転しながら進み、大きな岩に衝突、船殻を大きくひしゃげさせながら停止した。

 前部はそのまま直進し、傾斜した地形に艦首から突っ込んでいく。火花を散らしながら坂道を滑り落ち、やがて大きく口を上げた崖に辿り着いた。船体はかなり減速はしたものの、結局止まりきらずそのまま崖に落ちていく。船首が反対側の岩壁に突き刺さり、遂に停止。後ろ側の断面が破片を撒き散らしながら、崖をズルズルと下降していく。そのまま、引っ掛かりが外れた船首が重力に従い更に下降した。

 結局、崖下まで船体は落ち込み、ようやく停止する。

「…深刻…ージ…。再起…能…」

 構造物の破片と脱落した電子機器で荒れた管制室内で、僅かに生き残ったスピーカーが、途切れ途切れの音声を紡ぎ出した。

「…緊急…鎖…。活動可能…テナ…ボット…起…」

 バチバチ、と何かがショートする音が聞こえ、赤色灯、モニター類の明かりが落ちる。

「……」

 何かのノイズが聞こえ、そして、管制室は沈黙した。

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