第3話 遭遇
◇
ドアを開けて入ってきたのは、オネエ系っぽい感じのスキンヘッドの男性。
「ボンジュール宙。原稿もらいに来たわよ。」
僕は本能的の嫌な予感がした。
古林さんも無表情から一転やっちまった。的な表情になってるし!
「ってあら? あら? あら? あら?」
そして彼否彼女は室内の僕に気が付いた。
◆
ユーリちゃんに話そうとしていたら、フランソワ来ちゃったよ・・・・・・。
彼女はフランソワ(ってかそう呼ばないと怒られる)
私がたまーに仕事を請け負っている乙女ゲーム会社のシナリオ編集みたいな人。
話し口調からわかると思うが、所謂オネエ系だ。
特に一般女性と同じくイケメンが好みらしくて、ユーリちゃんはどんぴしゃのようだ。
捕食者の目になってしまった。
フランソワは普段は気のいい人なんだけど、男が絡むとめんどくさいというか、しつこいというか、長いからなー。
「ちょっと宙! この子誰なの!? 彼氏? 可愛いじゃないの~」
◇
「か、彼氏じゃありません!」
僕は思わず否定してしまった。
ってかウィンクしないでください! 鳥肌が・・・・・・。
「彼氏な訳ないじゃん。ただの新しい編集。」
そんなきっぱり断られるのも傷つくのですが古林さん。
僕も人のこと言えないですけど。
「あら? そうなの? 残念ね。アンタもいい加減いい年なんだから男の一人や二人作りなさいよ。」
あれ、なんか個人的な話になってきてないか?
「大きなお世話。まだ24です。」
「え?」
「何?」
驚いた。
古林さん年上だったのか。
「いえ、なんでも」
こんなこと言ったら、また怒らせそうなので黙っておこう。
「ふーん。相変わらずなだくん一筋なのね~。じゃあ、この子は私が狙ってもいいのかしら?」
「!?」
ちょっと待って、この人仕事しに来たんだよね?
なんで正々堂々僕を狙いますとか言ってるの?
僕はノンケだよ? 男に興味ないよ?
「フランソワ。ユーリちゃんを狙うのは勝手だけど、仕事して。」
古林さんが呆れたかのように助け舟を出してくれたけど、サラッと名前出さないで
「あら、貴方ユーリって言うの?」
「あ、はい。」
仕方ないから頷くしかない僕。
「そう。名刺は持っていらっしゃる? 交換しましょう。」
そう言ってフランソワさん?が名刺を差し出してきたので、僕も思わず自分のを渡してしまった。
僕はバカなのか?
「瀬戸 友理ねぇ。それでユーリちゃんという訳ね。」
フランソワさんは一人納得したようだった。
「あの剛田さん」
剛田さんと言った瞬間ものすごい勢いで僕のほほを定規がかすめていった。
古林さんはアホと呆れながら僕を見ていた。
「”フランソワ”とお呼びになって? ムッシュユーリ」
「は、はい。」
顔は笑っているのに殺意が伺えるフランソワさんの笑顔に、僕はただ、頷くしかなかった。
剛田 信と書かれたこの名刺の意味とは一体・・・・・・。
◆
しっかし、せっかく助け舟出してやったのにユーリちゃんバカなのかな?
それとも実はフランソワみたいなのが好みとか?
名刺交換する程度には余裕あるみたいだし、助けなくてもよかったかね。
今度からユーリちゃんとフランソワが鉢合わせするように日程組もうか・・・・・・。
え? 性格が悪い?
ユーリちゃんが悪いでしょ? 明らかに。
「っで、そろそろいい? 早く仕事終わらせたいんで」
「あら、そうだったわね。」
フランソワもようやく普段のプロとしての顔に戻ってくれた。
「原稿はどこ?」
「コレ」
さっきユーリちゃんに渡したのとは別の紙束をフランソワに渡す。
「ユーリちゃんもそろそろ帰ったら? ハゲに怒られるよ?」
ユーリちゃんは、
「え、でも・・・・・・」
とでも訴えかけるかのような表情をしたけど、時間を見てハッとしたように
「お、お邪魔しました!!」
と慌てて帰っていった。
多分私がまた死のうとしないか心配したんだろうけど。
原稿を読み終わったフランソワは
「あら、ムッシュユーリは帰っちゃったの? 残念ね。」
ホントに狙っていたらしい。
物凄く残念そうな表情だ。
「フランソワが脅すからじゃない?」
「脅してなんかいないわよ」
なんて雑談しながら
「っで、原稿ね。問題ないようだからコレで行くわ。」
「そ。次の依頼とかある?」
「そうね。次は最近パラドクスとかバタフライエフェクトが流行ってるから、
そっち系ので考えてるわ。」
「詳細決まったら、一応教えて。」
タイムパラドクス、バタフライエフェクトとは
所謂タイムスリップとかあの周辺にあたるんだけど
バタフライエフェクトは小さな蝶の羽ばたきが別の場所で竜巻を巻き起こす。
みたいな感じで、些細な選択肢が重大な事につながる。
みたいな感じ。
パラドクスは簡単に言えば、過去を変えたら未来が変わる。
みたいな感じで、過去で行った行動によって未来に平行世界が出来る的な感じだね。
この日はフランソワとそんな感じの話をして、長い一日が終わった。
まさか、この数か月後
ユーリちゃんに渡した小説がベストセラーになったり、ブームを巻き起こすとはこの時は思いもしなかった。




