プロローグ 邂逅
◇
これは僕が出会ったとある女性の物語。
僕の名前は瀬戸 友理。
今年の春に大手出版社 夢叶出版社に入社したばかりの新人だ。
しかし、入社して早々面倒な人物の編集を任された。
編集長の羽田 弦月曰く
「とにかくネガティブで某俳優が生き甲斐変人。しかも自己中。でも作品自体は中々面白いから、上からウチで出版するように言われた。」
とのこと。前述の通りなら、かなり癖のある人物ということになる。
僕は覚悟を決めて、その人物の家へと赴いた。
道中、暗い雰囲気の女の人とすれ違ったけど、あまりにも生気のない顔していたので
(大丈夫かな? あの人。)
と心配にはなったものの、見ず知らずの僕がそんなことを思っても無意味だ。
担当さんの自宅に到着した僕は呼び鈴を鳴らすが、出ない。
「留守かな?」
いや、でも・・・・・・僕が来るのは知っているはずだ。
僕が担当することになった人は・・・・・・確か名前は古林さん。だったかな?
古林さんが住んでいるらしいこのアパートはお世辞にも綺麗とは言えない。
どちらかと言うと、怖い話に出て来そうな感じだ。
数分待てど古林さんは一向に現れない。
僕が連絡してみようか迷っていた矢先、中年ぐらいのオバサンに声をかけられた。
「あら? 古林さんに何か御用?」
大家さん。なのだろうか?
「あ、はい。アナタは?」
「あら、ごめんなさい。私はここの大家です。古林さんだったら、いつもの駅にいるんじゃないかしらねぇ。」
返事をした僕に、大家。と名乗ったオバサンはそう教えてくれた。
僕はお礼を言うと、教えられた駅へと向かった。
◆
電車の到着を告げる音が鳴り響く。
私は最寄り駅のホームに立ち、いつも通り理性と戦っていた。
私の名前は古林 宙。
しがない派遣社員だ。
私には何もやりたいことがない。
才能も、夢も、容姿も、資産さえ・・・・・・何もない。
何かをやるにもすぐに飽きて、だから派遣をしている訳だけど。
多趣味と言いつつ極めたものは何一つない。
ただあるのは、自分の無能さを思い知った虚しさと何も残せない虚無感だけだ。
お陰で今では自他共に認める死にたがりだ。
だから私はふとしたことですぐに”死にたい。”という衝動に駆られる。
そんな時、私はここに来て線路を見下ろす。
(ここから一歩踏み出せば、楽になれる。)
関係者や乗客たちに多大な迷惑をかけるのも重々承知しているつもりだが、
私だって本当は死にたくない。
でも、私に救いがあるとしたら、ソレは死ぬことか大好きな彼に会うこと。
ぐらいである。
この日は、ようやくあと一歩を踏み出すことが出来た。そんな日だった。
すぐ目の前に電車が迫っている。が、不思議とそこに恐怖はない。
私自身。この衝動に駆られると自分に無関心になっている気がする。
(あぁ、ようやく終われる。)
と言う安心感の方が勝っていたのかもしれない。
それにこの駅は昼間でも人がほとんど利用しない。
だからこそ、私が利用している訳だけど。
私は穏やかな気持ちで目を閉じ、落ちる感覚に身を委ねようとした。
しかし、待てど衝撃を感じないどころか、誰かに腕を掴まれ引き寄せられた気がした。
◇
僕が教えられた駅に着き、ホームへ向かうと、そこには、さっきすれ違った暗い雰囲気の女の人しか居なかった。
(まさかあの人が!?)
彼女は今まさに線路に飛び込もうとしていた。
僕は慌てて駆け寄ると、彼女の手を取った。までは良かったのだが
(あっぶな!?)
彼女の手を取った瞬間、電車がホームに入って来た。
ホッと一息ついたのも束の間、勢いよく引っ張った為に、僕たちはその場に倒れこんでしまった。とはいえ、とりあえず編集長からは死のうとしてたら止めろ。としか言われていないし、この人が本当に古林さんなのかも僕には分からないんだけど。
◆
私が目を開けるとそこは線路の上でもなければ、想像していたあの世でもない。
つまり、現実世界のままだった。
私は落胆すると共に目の間に居る男を見やる。
恐らく、と言うか状況からしてこの男に助けられたんだろうが、何故こんな体勢なのか?
「!?」
私は直ぐさま飛び退いた。
驚いた。というのもあるが、私は基本的に同年代くらいの男が苦手だ。むしろ彼、 稲田 優羽くんことなだゆーが特別な存在と言っていいだろう。
さて、この時間にこの駅に居るってことは・・・・・・。
コイツがハゲの言ってた新しい編集か。
離れてからまじまじと男の顔を見る。
(なだゆーに似てんなコイツ。だからハゲが寄越したのか。)
「あの・・・・・・?」