世の中って割とシンプル
「なー!見た?!斉藤先輩!まっ金金なの!」
「あー、いたね。朝、玄関で揉めてたね。このクソ寒い中」
「なー!まっ金金なのに坊主のままなのな!!ぷーっ!あー腹痛ぇ!」
唐突ですが、皆さんこんにちは。
僕は、斜 孝介といいます。今の会話で、どっちかというとクールだった方です。たまたま今クールだっただけで、実際はそこまでクールでもありません。
で、隣で今爆笑してるのが今 隼人。同じクラスで、僕より頭半個ぶん小さいです。
僕らは坂上中学校2年です。
僕は卓球部に、今はサッカー部に所属してます。んでもって今は坊主です。ついでに言えば僕は部長です。
僕はどっちかというと頭脳派、今は体育会系です。
ほぼ毎日、僕らは一緒に帰ります。
斉藤先輩というのは、引退したサッカー部の今の先輩で、元部長です。どうやら今日から金髪デビュー。
ま、予備知識はこんなもんですかね。
「でもあの人、そこまで過激派じゃなくなかった?」
「んー、そだな。ふつーにちゃんと部長やってたな。斉藤先輩。」
「だよな。」
学校からの道は、ずーっと長い下り坂で、ずーっと行くと鴨宮川という川にぶつかります。で、そこで僕らは二手に分かれて帰る訳です。
「山ちゃんにだいぶ怒られてたよねー」
「山沢サッカー部の顧問だし生活指導だしな。今日練習で『あいつもどうしたもんかねぇ…』ってつぶやいてたぜ。」
「センチメンタルぅ」
「そそ!だいぶ落ち込んでたよ」
ちょうど「焼肉屋マンモス」という僕らの同級生の親が経営する焼肉屋前あたりで、学校から川へのちょうど半分くらい。
「はーい!せんせーはーい!」
「はいっ!今くん!」
「なんで学校では、『人は見た目じゃない』とか言いつつ、金髪とか見た目に厳しいんですか!」
「いい質問ですねぇ」
「古りぃよ」
「んーまー、ほら、アレじゃない?面接とか、そーゆーのがあるから」
「いやそれだって変だろ。ホントに学校で教えたこと通りの社会だったらパツキンでも性格いい奴だったら高校だってとるだろうし、とりあえずは今日スムーズに学校に入れただろうし」
「…仮にお前、目の前に黒髪清楚女子高生のAVと茶髪ビッチギャルのAVがあったらどっち見る?」
余談ですが僕は断然黒髪清楚です。
「…おっぱいのおっきい方!」
「…そーだ、そーだったわお前、そーだ、おっぱい星人だったなぁ」
「いや、まぁ俺もいろいろ言ってっけどさ、あんま人の事言えないんだよね」
「お、どした?」
「いや、俺の行ってる塾、個別なんだよ。あ、ほら、一対一でやるやつ。
でさ、昨日さ、あたった先生がさ…茶髪プラスピアスだったんだよ…」
「Oh…」
「ね?そうなるだろ?俺もなったんだよ。確率の問題解きながら。でさぁ、真っ先に思ったのは、何でこの塾この人雇ったんだ?って事なんだよな」
「うん。」
「でもほら、そーゆうの聞いたら失礼じゃん。てか絶対教えてくんないじゃん。どーしよーどーしよーとかってずっと考えてたらさ、なんかもー自分でもわけわかんなくなってきて。」
「確率解きながらだしね」
「そうそう。で、なんか恥ずかしくなってきたんだよ。俺、見た目で人を値踏みしてるって。」
「ほほう。」
「でもやっぱり自分の中では煮え切らない訳よ。だって茶髪だぜ?ピアスだぜ?塾の先生としてはどーなんだよってどーしても考えちゃうんだよね。」
「ま、学校の先生だったら百パーアウトだな」
「だろ?で、もーこっからは自分との戦いよ。」
「は?」
「いや、Aの、人は見た目じゃないっていう自分と、Bの、あーこいつ非常識だわ、っていう自分と。」
「あー、なるほどね。女の子と先生の前ではA、本音はBかね。…そーいえばその人、教え方はどうなの?うまいの?」
「それがさ…普通なのよ」
「うわぁ…」
「な?なんかもう全然わかんないだろ?」
「出身校とかは?」
「そうだ!そう、それだよ!」
「どうしたいきなり」
「聞いたんだよ。勇気振り絞って。」
「おう」
「…高校が南山高校、大学が京都大って言うんだよ」
「うっわ、エリートじゃん。そりゃチャラくても塾いるわ。」
京都大学は皆さんご存じの通り。南山高校というのは僕らの住む地区でのトップ校。
「あー、なるほどね。と俺はわかったよ。」
「何がだよ。」
「髪染める奴の性質」
「言ってみろ」
「天才とバカ」
「シンプルだな」
「シンプル・イズ・ベスト!だからな」
「山ちゃんかよ」
「練習メニューは凝ってる癖にな」
「うー、寒い」
「あー、もう川か。」
「じゃーねー」
「じゃーなー」
二手に分かれて。僕の家は川沿いの一軒家。今の家は橋を渡った先のマンション。
雪を踏みながら帰る。さすがに一人になったら無言だ。
そういえば、どうしてエリートだけど教え方が下手なんだろう。
ま、ウチの顧問も南山出て社会も卓球も教えんの下手だし、そうゆうことか。