お嬢様は今日も保育士
空は茜色に染まり、鷲が誇り高く悠々と飛んでいた。
だがしばらくすると、トリコローレを刻んだ敵機が空を覆い、鷲は四方に散っていく。
鉄の塊が空を飛んで爆弾を落としていくなんて、私はまだ信じられなかった。
屋敷は落とされた爆弾で端のほうが少し燃え、傾いているようにさえ感じた。
幼い帝冠領の一部は恐怖に泣き出し、大きな子が慰めている。
あぁ。
どうしてこんな目に。
わたしは屋敷の主として、この家を救う・守る・栄えさせる選択をしてきたはずだ。
なのに。
いや。
今更、もうどうしようもないのだろう。
「私は、私の子達が流す涙の最後の一滴まで責任を負わなければなりませんね。」
わたしはおもむろに立ち上がり、大広間に向かった。
これは、それより少し(50年)前から彼女の後半生を辿っていくお話。
皆さまごきげんよう。
わたくしはオーストリア。欧州の盟主(自称)にして、この屋敷の主ですわ。
キッチンで誰に向けるわけでもない微笑みを浮かべながら、紅茶を淹れている少女がいた。
オーストリアである。彼女は確かに屋敷の主ではあるが、欧州の盟主であるかは甚だ疑問である。ハプスブルクの王冠は大広間の目立つところにしっかり飾られているが、そいつの市場価値はこないだフランスさんが欧州を荒らしまわった時、いやもっと前か。子分の一部が暴れだしてroom「アウグスブルク」で仲直りしたときから、すでに大きく下がっていた。しかしそれを認めるなんて彼女のプライドが許さない。
彼女の中で「保育園『神聖ローマ帝国』で暴れ回る諸侯たちの保育士」をしていた時代は自慢であり誇りなのだ。
もっとも、その園児たちはみーんな自立したいと駄々をこねたせいで園はボロボロにされ、最後にはフランスさんによって粉々にされてしまった。
なので彼女は「ハプスブルク邸」という屋敷を建て、帝冠領たちと穏やかな後半生を送る事にした…はずだった。
「ちょっとマジャールスカ!?私のペチェネ食べたでしょ!しかもローストポークだけ食べんじゃないわよ!お姉様が作ったザワークラウトも食べろ!」
「あんな酸っぱいの食べれないわよ!それよりチェック?あんたよね?あたしが育ててたぶどう盗んだの!」
「盗むだなんて人聞きが悪いわ?私はただあんたのぶどうを使ってみんなに美味しいワインを振る舞おうとしただけじゃないー、あんたの方が育てるの上手いんだから」
「嘘つくな!あんたビール派だろうがぁ!おつまみとして食べたんでしょ!」
さっきから言い争いをしている帝冠領は、ボヘミアとハンガリーである。2人とも帝冠領たちの中では最年長で、毎回目が合うと息をするように喧嘩している。
オーストリアの後半生を穏やかなものにしてくれないのは彼女たちが原因だ。
オーストリアの保育士人生は、まだ終わっていないのかもしれない。




