表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン最奥から転移したらそこは地獄でした  作者: 御影のたぬき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/7

第5話:等活地獄・業焔決戦

 目を覚ますと、リュウジの体は完全に回復していた。

 筋肉の痛みはない。疲労も抜けている。

 深く息を吸い、吐く。

 準備は整った。

「さて……行くか」

 リュウジは立ち上がる。

 インベントリを確認する。

 蒼刃、回復薬(小)、水、食料——揃っている。

 だが、回復薬(中)は0個。

 大ダメージを受けた場合、回復薬(小)では追いつかない可能性がある。

「……慎重にいかないとな」

 リュウジは祠を出た。

 中層へ向かう。

 業焔との決戦へ。

 中層に到着すると、リュウジはまず業焔の位置を確認することにした。

 半壊した塔に向かう。

 最上階の窓から外を覗く。

 業焔の姿が見える。

 一人で、巡回している。

 配下はいない。

 完全に孤立している。

「……待ってたぜ」

 だが、業焔の様子がおかしい。

 歩き方が荒々しい。

 時折、金棒を地面に叩きつけている。

 怒っている。

 配下を全て失った怒り。

「……冷静さを失ってるな」

 これは好機かもしれない。

 怒りで判断力が鈍っている可能性がある。

 だが同時に——

「力も増してるかもしれねえ」

 怒りは力になる。

 業焔が本気を出せば、今まで以上に強いかもしれない。

「……どっちにしろ、やるしかねえ」

 リュウジは塔を降りた。

 業焔との決戦に向かう。

 リュウジは業焔の前に姿を現した。

 建物の上に立ち、業焔を見下ろす。

「よう、業焔」

 業焔が反応する。

 顔を上げ、リュウジを見る。

 その目は、怒りで真っ赤に燃えている。

「……貴様か……」

 低い、唸るような声。

「我が配下を……全て殺した……人間……」

 業焔が金棒を握りしめる。

 全身から赤い炎のようなオーラが立ち上る。

「……許さぬ……絶対に……許さぬ……!」

 業焔が咆哮する。

 その声は、等活地獄全体に響き渡る。

 リュウジは蒼刃を抜く。

「来いよ、業焔。お前と俺の一騎打ちだ」

 業焔が地面を蹴る。

 巨体が跳躍する。

 建物の上まで一気に跳び上がる。

「うおおおおっ!」

 金棒が振り下ろされる。

 リュウジは横に跳んで回避。

 金棒が建物を叩き、建物が崩れる。

 リュウジは地面に飛び降りる。

 業焔も追ってくる。

 地面に着地し、再び金棒を振るう。

 リュウジは身体強化:速を発動。

 視界がクリアになる。

 業焔の動きがスローモーションのように見える。

 だが——

 速い。

 以前より速い。

 怒りで力が増している。

 リュウジは横に跳んで回避。

 金棒が地面を叩き、岩石が砕け散る。

 衝撃で地面が揺れる。

 リュウジは体勢を立て直し、業焔の懐に飛び込む。

 蒼刃を振るう。

 業焔の脇腹を斬る。

 だが——

 刃が弾かれる。

 鱗が固い。

 ダメージを与えられない。

「ふん、人間の武器など我には効かぬ!」

 業焔の拳がリュウジを打つ。

 リュウジは剣で受ける。

 ガキィン!

 衝撃で吹き飛ばされる。

 五メートル以上跳ね飛ばされ、地面を転がる。

「ぐっ……」

 立ち上がる。

 やはり鱗には通じない。

 ならば——

「急所を狙うしかねえ」

 リュウジは業焔の目を見る。

 目、口、関節——鱗のない部分。

 そこを狙う。

 リュウジは再び業焔に向かって突進。

 業焔が金棒を振るう。

 横薙ぎ。

 リュウジは地面に伏せて回避。

 そして業焔の足元に滑り込む。

 膝の関節を狙う。

 蒼刃を振るう。

 ザシュッ!

 刃が膝の裏に刺さる。

 手応えあり!

「ぐおっ!」

 業焔が苦痛の声を上げる。

 膝の裏は鱗が薄い。

 ダメージを与えられる。

「よし!」

 リュウジは剣を引き抜き、再び斬りつける。

 だが——

 業焔が反応する。

 金棒を振り下ろす。

 リュウジは咄嗟に横に跳ぶ。

 金棒が地面を叩く。

 衝撃でリュウジの体が浮く。

 体勢を崩す。

 その隙に、業焔が立ち上がる。

 膝の傷は再生していく。

「……ちっ、やっぱり再生するのか」

 リュウジは距離を取る。

 業焔の再生力は脱衣婆と同じ。

 傷を負わせても、すぐに治る。

 ならば——

「一気に致命傷を与えるしかねえ」

 リュウジは作戦を変える。

 小さなダメージを積み重ねても無駄だ。

 一撃で、致命的なダメージを与える。

 目か、口か——

「……口、だな」

 口の中は鱗がない。

 喉を貫けば、致命傷になるかもしれない。

 だが——

 どうやって口の中に攻撃するか?

 業焔は簡単には口を開けない。

「……怒らせるか」

 リュウジは挑発することにした。

「おい、業焔! お前の配下、弱かったぜ!」

 業焔が反応する。

 目が更に赤く燃える。

「貴様……!」

「一体ずつ、簡単に倒せた。お前も同じだ」

「黙れええええっ!」

 業焔が咆哮する。

 口を大きく開ける。

 今だ!

 リュウジは身体強化:跳を追加発動。

 跳躍力が極限まで高まる。

 地面を蹴り、業焔の顔に向かって跳ぶ。

 業焔の口に向かって——

 蒼刃を突き出す。

 喉を貫く!

 ザシュッ!

 刃が深く刺さる。

「ぐ、ぐあああああっ!」

 業焔が苦悶の声を上げる。

 リュウジは剣を引き抜く。

 血が噴き出す。

 業焔が膝をつく。

「……やった、か?」

 だが——

 業焔が立ち上がる。

 喉の傷が再生していく。

「……まだ、死なぬ……!」

 業焔の執念。

 致命傷を負っても、再生する。

「……化物か」

 リュウジは舌打ちする。

 喉を貫いても倒せない。

 ならば——

「何度でもやるしかねえ」

 リュウジは再び業焔に向かって突進。

 業焔が金棒を振るう。

 リュウジは避ける。

 そして業焔の懐に飛び込む。

 今度は目を狙う。

 蒼刃を業焔の右目に突き立てる。

 ザシュッ!

 刃が目に刺さる。

「ぐああああっ!」

 業焔が頭を振る。

 リュウジは剣を引き抜き、距離を取る。

 業焔の右目から血が流れる。

 視界が奪われる。

 だが——

 やはり再生していく。

「……キリがねえな」

 リュウジは息を整える。

 体力の消耗が激しい。

 身体強化を複数使っているため、疲労が蓄積する。

 このままでは、いずれ限界が来る。

「……別の方法はないのか?」

 リュウジは考える。

 業焔の再生力を止める方法。

 三途の川の血——

 あれは脱衣婆にも業焔にも効いた。

 だが、ロープはもう使い切った。

 新たに血を手に入れる方法は——

「……あるかもしれねえ」

 リュウジは周囲を見渡す。

 中層には、溶岩の川がある。

 そして——

 遠くに、別の川が見える。

 赤黒い川。

 三途の川の支流か?

「……試してみるか」

 リュウジは業焔から距離を取る。

 川に向かって走る。

 業焔が追ってくる。

「待て! 逃がさぬ!」

 リュウジは川に到達する。

 水面を見る。

 赤黒い液体。

 血だ。

 三途の川と同じ血。

「よし……」

 リュウジはインベントリから水筒を取り出す。

 空の水筒。

 川に浸し、血を汲む。

 そして——

 業焔が迫ってくる。

 金棒を振り上げる。

 リュウジは水筒の蓋を開け、業焔に向かって投げつける。

 血が業焔の顔にかかる。

「——ぐおおおおっ!」

 業焔が苦悶の声を上げる。

 顔から煙が上がる。

 皮膚が溶ける。

「効いてる!」

 リュウジは再び川に向かう。

 もう一度血を汲む。

 業焔が悶えている間に——

 リュウジは業焔の顔に血をかける。

 何度も、何度も。

 業焔の顔が溶けていく。

 だが——

 再生する。

 溶けても、再生する。

「……ちっ、やっぱり再生するのか」

 だが、リュウジは気づいた。

 再生の速度が遅くなっている。

 血のダメージが蓄積している。

「なら——」

 リュウジは作戦を立てる。

 血でダメージを与え続け、再生が追いつかなくなるまで攻撃する。

 そして最後に、致命傷を与える。

「いくぞ!」

 リュウジは何度も血を汲み、業焔にかける。

 業焔が悶える。

 顔が溶け、再生し、また溶ける。

 そして——

 再生の速度が明らかに遅くなった。

 今だ!

 リュウジは蒼刃を抜く。

 身体強化:全を発動。

 速・力・跳・耐——全てを極限まで引き上げる。

 体が光を纏う。

「はああああああっ!」

 リュウジは業焔に向かって突進。

 業焔の喉に蒼刃を突き立てる。

 深く、深く。

 刃が喉を貫き、背中まで届く。

 ザシュッ!

「ぐ……ぁ……」

 業焔が膝をつく。

 リュウジは剣を引き抜き、再び突き立てる。

 何度も、何度も。

 喉を貫き、心臓を貫き、頭を斬る。

 業焔が倒れる。

 地面に崩れ落ちる。

「……はあ、はあ……」

 リュウジは剣を下ろす。

 業焔の身体が黒い煙となって消えていく。

「……やった……」

 リュウジはその場に座り込んだ。

 全身が痛い。

 身体強化:全の反動。

 筋肉が痙攣し、骨が軋む。

 だが——

 勝った。

 業焔を倒した。

「……長かったな……」

 リュウジは深く息を吐く。

 そして——

 業焔が消えた場所に、何かが残っていた。

 アイテムだ。

 リュウジは立ち上がり、近づく。

 そこには——

 小さな宝箱があった。

 黒い鉄で作られた、手のひらサイズの箱。

 リュウジは箱を開ける。

 中には——

 赤い宝石。

 そして、巻物。

「……これは?」

 リュウジは巻物を開く。

 文字が書かれている。

 読めない文字だが、不思議と意味が伝わってくる。

『業焔を倒した者よ。汝は等活地獄中層を制した。深部への道が開かれた。秦広王が汝を待っている』

「……秦広王、か」

 脱衣婆が言っていた、十王の一人。

 等活地獄を統べる審判者。

 試練を与える存在。

「……ついに会えるのか」

 リュウジは巻物を仕舞う。

 そして赤い宝石を手に取る。

 温かい。

 まるで生きているかのように脈動している。

 インベントリに格納しようとすると——

 宝石が光った。

 そしてリュウジの体に吸い込まれていく。

「!」

 温かい感覚が全身を包む。

 そして——

 リュウジの体が軽くなった。

 疲労が消える。

 痛みが消える。

 身体強化:全の反動すら、消える。

「……これは?」

 リュウジは体を動かす。

 完全に回復している。

 それだけではない。

 何かが変わった。

 力が、増している。

「……これが、業焔を倒した報酬か?」

 リュウジは拳を握る。

 確かに、以前より強くなっている。

 身体強化を使わなくても、動きが速い。

 力も強い。

「……ありがたいな」

 リュウジは深部の方向を見る。

 遠くに、巨大な門が見える。

 黒い鉄で作られた門。

 等活地獄の深部への入口。

 そして秦広王がいる場所。

「……行くか」

 リュウジは歩き始めた。

 深部へ向かって。

 深部への道は、中層よりも更に過酷だった。

 熱気が強く、溶岩の川が至る所に流れている。

 建物はほとんど崩れ、瓦礫の山が道を塞いでいる。

 そして——

 亡者の数が桁違いに多い。

 数千、いや、数万の亡者が、互いに殺し合い、蘇生し、また殺し合う。

 その光景は、まさに地獄だった。

「……こいつは、凄まじいな」

 リュウジは亡者の群れを避けながら進む。

 だが——

 亡者の一人がリュウジに気づいた。

「生者だ!」

 叫び声。

 一斉に数万の視線がリュウジに向く。

「……またか」

 リュウジは即座に走り出す。

 身体強化:速を発動。

 だが——

 以前より速い。

 業焔を倒して得た力。

 身体能力が底上げされている。

 リュウジは亡者の群れを軽々と振り切る。

 瓦礫を飛び越え、溶岩の川を跳び越え——

 そして——

 門に到達した。

 巨大な黒い門。

 高さは二十メートル以上。

 表面には文字が刻まれている。

『秦広王の間』

「……ここか」

 リュウジは深呼吸をする。

 門に手をかける。

 重い。

 だが、力を込めて押す。

 ゆっくりと門が開いていく。

 その向こうから——

 金色の光が漏れてくる。

 そして——

 声が聞こえた。

「よくぞ此処まで来た、生者よ」

 厳かな、重い声。

 リュウジは門をくぐる。

 その先には——

 広大な空間が広がっていた。

 天井は高く、金色の光が空間全体を照らしている。

 そして中央には——

 玉座。

 黒い石で作られた巨大な玉座。

 その上に、一人の男が座っていた。

 人間の姿をしているが、身長は三メートルを超える。

 黒い衣を纏い、顔には白い面を被っている。

 手には巨大な筆を持っている。

「……お前が、秦広王か」

 リュウジは蒼刃に手をかける。

 秦広王が頷く。

「然り。我が名は秦広王。等活地獄を統べる審判者」

 秦広王が立ち上がる。

 その存在感は、業焔を遥かに超える。

「生者よ。汝は業焔を倒し、此処まで辿り着いた。見事である」

「……試練を与えるんだろ?」

 リュウジは警戒する。

 秦広王が笑う。

 面の下から、低い笑い声。

「ふふ、その通り。我は汝に試練を与える」

 秦広王が筆を構える。

「だが、恐れるな。我は汝と戦うつもりはない」

「……どういうことだ?」

「試練とは、必ずしも戦いではない」

 秦広王が筆を振るう。

 空中に文字が浮かび上がる。

 金色の文字。

『汝の罪を数えよ』

「……罪?」

「然り。汝はこれまでの人生で、何人を殺した?」

 リュウジは息を呑む。

 何人を殺した——

 冒険者として、モンスターを倒してきた。

 だが、人間を殺したことも——

「……覚えてねえ」

「ふふ、正直だな」

 秦広王が再び筆を振るう。

 文字が増える。

『汝は三十七人の人間を殺した』

「……三十七人……」

 リュウジは唖然とする。

 そんなに殺していたのか。

「その中には、盗賊もいれば、敵対する冒険者もいた。そして——罪なき者もいた」

「……罪なき者?」

「汝が十五歳の時、ある村で依頼を受けた。魔物退治。だが汝は間違えて、村人を一人殺した」

 リュウジの記憶が蘇る。

 暗闇の中、魔物と間違えて——

「……ああ、あれか……」

 リュウジは拳を握る。

 忘れようとしていた記憶。

 だが、忘れられるはずがない。

「汝はその罪を背負い、生きてきた。そして今も、その罪は消えていない」

 秦広王が筆を下ろす。

「生者よ。汝はその罪を認めるか?」

「……ああ、認める」

 リュウジは正直に答える。

 嘘をついても仕方ない。

「ならば——」

 秦広王が再び筆を振るう。

 金色の文字が消える。

 そして新しい文字が現れる。

『汝の罪は認められた。だが、汝は罪を償う意志を持つ。故に、我は汝に力を授ける』

「……力?」

「然り。等活地獄を抜けた者には、力が授けられる。それが掟」

 秦広王が筆でリュウジを指す。

 金色の光がリュウジを包む。

 温かい。

 そして——

 リュウジの体に、新たな力が流れ込む。

「これは……」

「身体強化の効率化。汝の身体強化は、今後、消費が半減する」

 秦広王が筆を下ろす。

「これが我からの報酬だ。受け取るがよい」

 光が消える。

 リュウジは体を動かす。

 確かに、何かが変わった。

 身体強化を使っても、以前ほど疲れない。

「……ありがとう、ございます」

 リュウジは頭を下げる。

 秦広王が頷く。

「礼には及ばぬ。汝は試練を越えた。それだけだ」

 秦広王が玉座に戻る。

「さあ、行くがよい。次の世界が、汝を待っている」

 秦広王が筆を振るう。

 リュウジの背後に、新たな門が現れる。

 黒い鉄の門。

 そこには文字が刻まれている。

『黒縄』

「……次は、黒縄地獄か」

 リュウジは門を見る。

 秦広王が言う。

「黒縄地獄は、等活地獄より遥かに過酷だ。覚悟せよ」

「……分かってる」

 リュウジは門に向かって歩き出す。

 そして振り返る。

「秦広王、一つ聞いていいか」

「何だ?」

「俺は……本当に元の世界に戻れるのか?」

 秦広王が沈黙する。

 そして——

「……分からぬ」

「……は?」

「我は審判者。試練を与え、力を授ける。それが役目。だが、生者が冥途から戻れるか否か——それは閻魔王のみが知る」

「……そうか」

 リュウジは苦笑する。

 結局、最後まで行かないと分からない。

「まあ、いいさ。どっちにしろ、進むしかねえ」

 リュウジは門に手をかける。

 重い扉を押し開ける。

 その向こうに——

 暗闇が広がっている。

 リュウジは一歩、踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ