最終話 祝福のその先へ
◇◇◇
王都に、春の鐘が鳴り響いた。
それは、国王の名のもとに正式な発表がなされた合図だった。
――リュシアン王子と、アリサ・リヴィエール公爵令嬢の婚約。
長く続いた水の異変が完全に収束したその日、王都は歓喜に包まれた。
王家と、水の加護を司るリヴィエール公爵家が一つになる。その意味を、民は誰よりも理解していた。
「最高にお似合いです!」
「お二人ともお幸せに!」
「リュシアン王太子殿下!アリサ様!おめでとうございます!」
「国王陛下万歳〜!ルミエール王国万歳〜!」
広場にあふれる笑顔と祝福の声。
アリサは、その光景を少し離れた場所から見つめていた。
「……こんな日が来るなんて、ね」
そう呟くと、隣に立つリュシアンが穏やかに微笑む。
「君には一度、プロポーズを断られてるんだが。本当にいいのか」
「だってあのときは……いきなりだったもの」
「じゃあ、今なら愛してるって言っても信じてくれる?」
「私も愛してるって言ったら、信じてくれる?」
微笑み合う二人。
「アリサ、愛してる。多分、初めて会ったときから、君に惹かれていた」
「リュシアン、愛してるわ。私は正直ちょっと、苦手だったけど」
「酷いな」
「だってあなた、結構強引なんだもの。行動が読めないし」
「そうか?」
「そうよ。でもまぁ、今はそんなところも好きよ」
クスクスと笑い合う二人。長い長い旅の間に、二人の間には確かな絆が生まれていた。
◇◇◇
結婚式の日。
王都最大の聖堂は、かつてないほどの光に満ちていた。
白と水色の花々に彩られた祭壇。
差し込む陽光が、ステンドグラスを通して床に模様を描く。
誓いの言葉を交わし、指輪を交換する二人の手は、しっかりと結ばれていた。
離れない。もう二度と。
祝福の拍手と鐘の音が重なり、王都中に響き渡る。
その中で、ひとり静かに涙を拭う老執事の姿があった。
エドガーは、胸元の懐中時計をそっと握りしめる。
「……おめでとうございます。お二人とも。これでようやく、アリサ様の幸せを見届けるという、私の役目を果たせました……」
それは、長い時間を越えた、心からの言葉だった。
◇◇◇
それから、時は流れて。
王城の庭園で、柔らかな日差しの中、二人の小さな子どもが駆け回っていた。
「待ってー!」
「こっちだよ!」
光の精霊に選ばれた王子セリオンと、水の精霊に選ばれた王女ミレア。
二匹の猫を追いかけて、芝生の上を転げるように走る姿は、ただ無邪気で、眩しい。
「危ないですぞー!転びますぞー!」
後ろから、必死な顔で追いかけるエドガー。
だが子どもたちは止まらない。
その様子を、少し離れたベンチから、アリサとリュシアンが見守っていた。
「……賑やかになったわね。エドガーったら、すっかり二人に夢中なんだから」
「二人をエドガーに任せたのは正解だったな。彼なら良い教育係になるだろう」
アリサがリュシアンの肩に、そっと頭を預ける。
「ねえ」
「なんだい?」
「またいつか、旅に出たいわ」
「いいな。今度は……」
「子どもたちも一緒に行きましょう。ただし」 「ただし?」
「ちゃんと、ベッドの上で眠りたいわ」
くすっと、二人同時に笑った。
「違いない」
指を絡め、額を寄せ合い、静かに口付けを交わす。
遠くで、子どもたちの笑い声と、猫の鳴き声が重なった。
闇は、完全に消えることはない。
人の心に、悩みや悲しみが生まれる限り。
それでも――
光は、いつだってそこにある。
手を取り合い、共に歩む者たちがいる限り。
◇◇◇
おしまい
ご愛読ありがとうございました!
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明日からは同じ時間に新連載
【追放された最強聖女は、今日も魔力切れで眠っています〜ぽやん聖女が辞めたら、国が回らなくなりました〜】
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ぜひそちらも読んでいただけると嬉しいです。
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