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公爵家の養女は静かに爪を研ぐ 〜元々私のものですので、全て返していただきます〜  作者: しましまにゃんこ


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第五十一話 巡礼の道行き

 ◇◇◇


 その日、王都の一角、リヴィエール公爵邸の執務室では、机の上一杯に王国全土を描いた地図が広げられていた。


「まずはここ、南部からかしら」

 アリサは地図の端を指でなぞりながら思案する。 「今年は雨量が少なくて、泉の水位が下がっている地域が多いと聞きました。水の加護を届けるなら、優先すべきは――」

「この三か所だな」  

 リュシアンが頷き、該当する神殿の位置を指し示す。


「護衛は最小限でいいが、神官と記録係は必要だ。長期になるから、馬車も二台は用意しよう」

「そうですね。なるべく短期間で効率よく回らないと……全く、本当に陛下を説得できるなんて思いもしませんでしたわ!なぜ誰も殿下を止めてくださらなかったの!」

「日ごろの信頼関係の賜物だな」

「旅の途中で殿下に何かあったらどうするおつもりなのかしら!」

「……それは君も一緒だ。いなくなったら困る最重要人物だと自覚したほうがいいな」


 二人のこうしたやり取りは、アリサが旅に出ると決めてからすでに何度も繰り返されていた。旅程、人数、滞在日数。事前に準備しなければならないことは多くある。慎重に、だが確実に話は進んでいた。


 そのとき、控えめなノックの音が室内に響いた。

「失礼いたします」

 扉が開き、大神官と、一人の青年が入ってくる。白を基調とした神官服に身を包んだその青年は、アリサと目が合うと穏やかな微笑を浮かべて一礼した。


「ご歓談中申し訳ない。アリサ様、リュシアン殿下。お元気でしたかな?」

「ようこそ大神官様。ご連絡を受けてお待ちしておりましたわ。お陰様で恙無く過ごせております。大神官様もご健勝そうで何よりです」

   アリサは椅子から立ち上がり、大神官に向けて丁寧に礼を返す。

  「実は、今回、ぜひお二人に紹介したい者がおりましてな」

 大神官は後に控えていた青年を招き寄せる。

「この者はルシオ・ヴァルナス枢機卿。近いうちに次期大神官候補として、ルミエール国各地の神殿を巡る巡礼の旅に出ることになっております。出発前にご挨拶をと思いましてな」


「巡礼…… 」

 リュシアンが地図に視線を落とす。

「はい 」

 ルシオは頷き、少しだけ緊張した様子で続けた。 「各地の神殿の状況を自分の目で見て、神官たちの声を聞くようにと。大神官様から命じられました」

 その言葉に、アリサも自然と机の上の地図へと視線を戻した。

「実は……私たちも、これから旅に出る予定なのです」

「ほう?」

 大神官が目を細める。

「水の精霊の加護を、各地に届けるために、水源地や古い神殿を中心に回るつもりでいます。まずはここ、西の神殿周辺の地域から回ろうと思っているのですが……」


 その瞬間、ルシオの目がわずかに見開かれた。  そして、次の瞬間には、思案するように地図を覗き込む。

「……それでしたら」

 彼は顔を上げ、穏やかながらもどこか期待を含んだ声音で言った。

「もしご迷惑でなければ、私もその旅に同行させていただけませんか」

 室内が、ほんの一瞬静まる。

「巡礼の目的も重なりますし、ご一緒できれば、現地の教会と協力して、微力ながら何かお役に立てることもあるやもしれません」


 大神官は少し考える素振りを見せたあと、あっさりと頷いた。

「理にかなっておるな。護衛もまとめられるし、何より安全だ。各地の教会に旅の間お二人をお迎えする準備をするよう手配しよう」


「私も賛成だ」

 リュシアンも思案げに口を開く。

「リヴィエール教会は、初代リヴィエール公爵が水の加護を与えた主要な水源地に建てられている。加護をかけ直すには、これ以上ない場所だ」

 その言葉に、ルシオは感心したように息を吐いた。

「なるほど……さすがですね」


 アリサは二人のやり取りを聞きながら、静かに微笑んだ。

「では……ご一緒するということで。詳しい話はまた後日席を設けましょう」

「はい」

 ルシオは深く一礼する。

「どうぞ、よろしくお願いいたします。アリサ様……」

 口元に笑みを浮かべながら。

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― 新着の感想 ―
ん、若干雲行きが怪しい感じ?
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