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公爵家の養女は静かに爪を研ぐ 〜元々私のものですので、全て返していただきます〜  作者: しましまにゃんこ


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第三十四話 届いた報せ


 ◇◇◇


 その報せは、あまりにも唐突だった。

 王宮の回廊を急ぎ足で進んでいたリュシアンの前に、王家の護衛が一人、ほとんど駆け込むように現れた。礼を取る余裕すらなく、息を切らしたまま告げられた言葉に、リュシアンは一瞬、意味を理解できなかった。


「――公爵家の馬車が、崖下に転落しました」

 言葉は続いているはずなのに、音だけが遠くに聞こえる。

「本日、アリサ様をお乗せした馬車が、王都西の街道にて……。護衛の目前で、車輪が逸れ――」

 崖下に、落ちた。

 頭の中で、その情景が勝手に組み上がる。細い山道、軋む車輪、そして――視界から消える馬車。

「……生存は」

 自分でも驚くほど、声は静かだった。

 護衛は一瞬、言葉を選ぶように視線を伏せる。

「……現在、捜索中です。崖下は深く、水量も多いため……生死は、不明です」


 不明。

 その二文字が、胸の奥に重く沈んだ。

 王宮の空気が、ぴたりと凍りつく。近くに控えていた文官たちが、息を呑むのが分かった。誰もが理解している――これは単なる事故ではない、と。


 リュシアンはゆっくりと息を吐いた。

 握った拳が、わずかに震えていることに気づき、指先に力を込める。取り乱してはいけない。

 

「……現場には、誰が?」

「王家の護衛二名が同行しておりました。現在、一名が負傷、もう一名は行方不明です」

 その言葉に、周囲がざわめいた。王家の護衛が同席していたにも関わらず、馬車が転落した。

 それはすなわち――

「だだの事故ではないな」

 低く、断じるように言うと、護衛は深く頷いた。

「はい。馬の動き、道の状況……いずれも、細工の可能性が高いと考えます」


 リュシアンは踵を返した。

「陛下に報告する。同時に、王命として捜索隊を出せ」

 歩きながら、次々と命を重ねる。

「崖下の捜索は最優先。周辺の街道を封鎖、出入りする者をすべて洗い出せ。公爵邸には王宮から監察官を――いや、封鎖だ」

 側近が目を見張る。

「封鎖、ですか?」

「そうだ。アリサは、精霊の加護を得た者だ。その命が狙われた以上、すべては王事になる」


 一瞬の躊躇もなかった。

 頭の中では、すでにいくつもの可能性が浮かび、消えていく。

 誰が得をするのか。誰が、彼女の不在を望むのか。

 ――考えるべきことは山ほどある。

 だが、そのすべての根底にある感情から、リュシアンは目を逸らさなかった。

 もし、彼女が――。

 その続きを考えかけ、強く首を振る。

「見つける」

 それは命令でも、誓約でもなかった。ただの、事実確認のような口調。

「生きていても、いなくても。必ず、真実ごと連れ戻す」


 王宮の鐘が、重く鳴り響いた。その音は、公爵邸にも、王都の隅々にも届いていく。

 静かに沈黙を守っていた者たちを、否応なく表舞台へ引きずり出す合図のように。

 アリサの姿は、まだどこにもない。

 だが――

 彼女を中心に、世界は確かに、動き始めていた。

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