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公爵家の養女は静かに爪を研ぐ 〜元々私のものですので、全て返していただきます〜  作者: しましまにゃんこ


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第十四話 聖獣は、すべてを見ている

 ◇◇◇

 世界は、音よりも先に歪む。人の目には映らず、耳にも届かない。


 だが、聖獣である我らには見える。心の奥に沈む濁り。欲望が絡まり合い、形を失った魂の影。


 黒猫は高い塀の上から、学園を見下ろしていた。朝の光を浴びる校舎は穏やかで、昨日と何も変わらぬように見える。

 だが――違う。

(……来ている)

 かすかな、しかし確かな気配。人の心の隙間に忍び寄るもの。名を持たぬ精霊。

 囁き、煽り、甘く縛りつける存在。

 それは力を与える。同時に、代償として“歪み”を残す。


 黒猫は、校舎の一角を見つめた。そこには、強い執着と焦りの色が渦を巻いている。

(まだ、芽だ)

 だが、放置すればやがて根を張る。そして世界を歪める。


 ふいに、背後から静かな気配が重なる。白猫が、音もなく隣に腰を下ろしていた。

(気づいたか)

(ああ。濁りが、濃くなっている)

 二匹の聖獣は、言葉を交わさずとも理解し合う。長い時を生き、幾度も同じ選択をしてきた。

 正しき魂に力を。

 歪んだ魂には――試練を。

 それが、我らの役目。


 視線を巡らせると、噴水のそばに一人の少女の姿があった。水の気配をまといながら、静かに歩いている。


 アリサ。その魂は澄んでいる。

 痛みを知りながら、折れず、恨みに沈まず、己を保ち続けた器。

(……ようやく、目覚め始めた)

 水の精霊が彼女を選んだ理由は、力の強さではない。耐え、考え、決して奪う側にならなかった心。


 白猫が尾を揺らす。

(王太子も、同じだ)

 少し離れた回廊を歩く青年。光を司る血を引きながら、驕らず、責任を恐れ、なお立ち続ける者。

 選ばれるべき魂が、並び始めている。


 だからこそ――。

(歪みも、動き出す)

 黒猫は細く目を細めた。闇はいつも、光に引き寄せられる。だが、今回は違う。

(もう、見ているだけではないな)

 白猫が一歩、前に出る。それに並ぶように、黒猫も塀を降りた。


 守るべきものがある。選んだ者が、正しく歩むために。聖獣は介入しない。だが――見捨てもしない。人の欲望も、勇気も、選択も。すべてを見届けるために。


 二匹の猫は、静かに歩き出した。世界が再び歪む前に。



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