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つれづれ(2) 筆記用具

作者: 土塀 友

つれづれ(2) 「筆記用具」


 五月初旬、文学講座受講のため往復はがきで参加の申し込みをした。

 半月程して「このたびは受講のお申込みをいただき、誠にありがとうございます。講座について下記の通りご案内いたします。」という返信はがきが送られてきた。

 楽しみに待っていたものであり、この講座は月一回、全部で九回開催される予定だ。

 「受付手続きのため、開催日はお早めにお越しください。」と注意事項が記されており、持ち物に「筆記用具」とあった。

 それまで機嫌の良かった私はこの注意事項に“ふと”違和感をおぼえた。

 なぜならば、この講座では、恐らく文学を研究している講師が有名な文学者の作品について講義をするものであろうと私は期待しており、その話を聞きに行く者も文学に興味を持っている者たちであり、鉛筆やノートは必ずや持参するであろうが故に、「筆記用具持参のこと」と念を入れる事もないと思ったからである。

 急に興ざめして、「わざわざこんな事を書かなくても」と独り言をつぶやき、大きなお世話で気分が悪くなったと、紫陽花の様に移り気な私はその葉書を机の上にひっぽ投げた。


 数日後、机の片隅に居場所なく居る葉書を見て、それを手に取りもう一度読んでみた。

 今度も「筆記用具」という四文字に目が留まり、ジッとその文字を見つめた。しばらく時が過ぎ、私は前回と違う私に気が付いた。この四文字には懐かしい響きがあって、私は小学校に上がったころを思い出していた。

 確かそれは黒色のランドセルで、真新しいインキの匂いがする教科書やノートをそのランドセルに入れて、最後に筆箱を入れた記憶がある。

 筆箱には鉛筆や消しゴム、さらには小刀なども入っていた。

 私は、枕元に準備のできたランドセルを置いて「早く明日が来ればよい」と思っていた。その時の私は、父母兄弟という小さな世界から、友人とか学校という新しい大きな世界に飛び出す境目にいた様に思う。

 明日になって友達と遊び、この鉛筆で文字を習い学校で勉強するのだと思うと、筆記用具が詰まった筆箱というロケットに乗って、地球から宇宙へ飛び出すようなワクワクする心持であった。

 その時を機に私の世界はどんどん広がり、拡大された宇宙を歩んできたように思う。


 私は返信葉書に印刷された文字、「筆記用具」を眺めている。

 文学講座では、講師は何を語るのだろう。私は鉛筆で何をノートに書きしたためるのだろうか。空想すると楽しい。

 まさに、ロケットに乗って地球を飛び出し宇宙旅行をするような、未知との遭遇に私の胸は躍っている。



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