3 魔王ディス
ここは冥界の魔界。
迎えた未來王時代。
堕天使・ルシファーと大天使・ミカエルは合成合体した。
そうして。
ハイブリッドのメタフィジカル『魔王・ディス』が誕生した。
ディスは獰猛狂気に美しい男である。
瞳と髪は鉛色。
背中には黒い翼が生えている。
これはほんの幾年前。
とある日のおはなし……。
ミカエルは嘆く。
永きに渡る歳月。
軍神と讃えられてきた。
大天使と崇拝されてきた。
そうして移ろう時代のなか。
どれほどの血の海を見てきたことか。
歴史を紐解けば。
我欲のための覇権闘争ばかり。
人間同士が憎み合い、殺し合う。
追い詰めて、捕らえて、拷問惨殺する。
親玉の恫喝。
軍人の怒号。
子どもたちの号哭。
女たちの悲鳴。
焦土と化した街。
灰色の瓦礫。
惨憺たる死体の山。
泣き崩れる人びと。
これが天国?
これが天の思し召し?
戦争の勝敗に『神の采配』など、皆無だというのに…………
ルシファーは嘆く。
永きに渡る歳月。
悪の権化と惧れられてきた。
魔王悪魔と忌み嫌われてきた。
振り返れば。
理不尽で不当な割り振りだった。
空恐ろしいほど。
痛哭で屈辱的な日々だった。
もしも人類が『不死の肉体』を得ていたならば。
地球は腐敗消滅していた。
増え過ぎた人類によって窒息した。
とうの昔に滅びていた。
今日まで地球が現存できたのは。
冥界のはたらきの賜物だ。
もしも六世界に霊界地獄がなかったら。
屍の行き場所はない。
人類は再生不能となっていた。
『転生』の可能性など、皆無だというのに…………
未來王は提案する。
「ミカエル。
そしてルシファー。
おふたりに選択権を与えます。
選択肢ひとつめは。
今日までの立場を完全交換する『とりかえっこ』プランです。
ミカエルを魔界の王に。
ルシファーを神界の王に任命いたします」
「選択肢ふたつめは。
合成合体して『ひとりの王』となるプランです。
嵌合体として生まれ変わった『新たな王』に。
魔界の指揮統括をお任せします。
その場合。
神界は魔導師4人衆が指揮統括します。
どちらのプランを選択しますか?」
ミカエルとルシファーの兄弟は即断即決した。
迷うことなく『合成合体』を選択した。
未來王は首肯する。
ふたりをやさしく包みこむ。
ピッカアアアァッ…………!
眩むような閃光が放たれた。
大天使・ミカエル、堕天使・ルシファーは合成合体した。
新時代に於いて。
ハイブリッド型メタフィジカル・全能善神に生まれ変わった。
瞬きして目を凝らす。
そこには鉛色の髪と瞳を有した《《大男》》が立っていた。
それは魔導師4人衆に負けず劣らず。
猛烈に美しい男だった。
あれは手段の純粋性。
それは適切で調和のとれた結合。
これは…………
(ガンディーのことば)
未來王は微笑む。
「今日からあなたの名は『魔王・ディス』です。
この名は。
ディスリスペクト(軽視・軽蔑)の意、ではありません。
ディスカバリー(発見・見出す)の意、です。
これよりは。
赦せぬ罪を犯した者たちに相応の罰を与えてください。
不遇な死を遂げた者たちを弔ってください。
ときには肉体再生させてください。
魔界の神々、幻妖霊獣の指揮統括をお願いします。
そして4人衆と共に。
輪廻転生の舵取りをお願いします。
皆で相応世界を目指してゆきましょう」
魔王・ディスは跪拝する。
そして、問う。
「親愛なる未來王よ!
ネオ・トレジャンよ!
わたしは、あなたの弟子になれたのでしょうか?
魔導師4人衆と同様に……。
あなたの友人になれたのでしょうか?」
未來王は深く頷く。
「はい、もちろんです。
ディスは我らの友であり家族です。
あなたのこの先の未來は……。
図抜けた仲間たちと共にあります。
ですから、もう孤独ではありませんよ?
そして。
あなたはあなたらしく、お願いします。
本来の自分を偽って取り繕う必要はありません。
手前勝手に創作された『最悪な役割』を演じる理由もありません。
自己犠牲の精神……。
それはたいして美しくないのです。
貴男は、
貴女でいいのです……」
魔王・ディスは驚愕する。
大きく目を見開いた。
「本来の姿……?
さらけ出していいの?
ホントに……?
ンフッ!
ンフフフフフ……ッ!」
ディスは鉛色の長い髪をかき上げた。
そして。
妖艶に笑った。
「嗚呼ッ!
偽装しないって最高っ!
自分らしく居られるって幸せね?
トレジャン!
これからよろしくね?」
……シュンッ!
魔導師四人衆からメッセージが届いた。
Ⓢ「ディスよ!
我々は未來王の弟子であり家族である!」
Ⓔ「これからは協力してさ?
ラディカルに遊ぼうね?」
Ⓖ「我らは無二なる友となった。
つまり! 図抜けた仲間たちである!」
Ⓒ「ディス!
これからよろしくなァ?」
魔王・ディスはそっと涙をぬぐう。
そして応える。
Ⓓ「ンフフフ……、
あたしに全能善神の役割を与えてくれて……。
トレジャンの仲間に迎えてくれて……。
ありがとう……」