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不死鳥の卵が化石になる時

作者: 平榎えい

「おい、見えたか?」

ハンスは地下に掘られた鳥狩り用のトンネルの天井に

小さく空いた穴から空を見上げて言いました。


「いたな」

ハンスの横でレヴィンは目を細めて小さな声で言いました。


穴から見える空の遠くの方に

赤い羽根をした小さな鳥が飛んでいます。

通称「不死鳥」

この地域でこの鳥は栄養価が高く

全ての病に効くと有名な鳥です。


「もろこし婆さんにあの不死鳥をあげるんだ

そうすれば元気になって、肌も綺麗になるさ」

ハンスは意気込んで小さな穴から空に向かって矢を構えました。


「そうだな、もろこし婆さんは僕たちの

大事な人だ、孤児の僕たちを育ててくれた」

レヴィンも隣にある穴からよく晴れた空に向かって一緒に矢を構えます。


シュッとその小さな体格に似合わない

速さで不死鳥が目の前にやって来ました。


今だ!2人は息を合わせて

矢を放ちました。


ハンスの矢に驚いた不死鳥は体制を崩して

そこにレヴィンの矢がうまく届きました。


ボトっ

小さな不死鳥は地面に落ちました。

2人は大急ぎで暗いトンネルの階段を駆け上がります。


それを木陰から何かが見ていました。

すごいスピードでその何かが地面に落ちた不死鳥を

捉え、似たような鳥に入れ替えました。


2人が地上へ出た時にはその何かはもう居ませんでした。


2人は地面に落ちた鳥を大切にカゴに入れました。

「さあ、急いでもろこし婆さんのところへ帰ろう」


2人は村へ戻る薄暗い道を行きます。


にやああと死んでいるはずの不死鳥ならざる何かが

笑っているではありませんか。


それに気づいたのは、草むらをはって2人を見上げた

芋虫だけでした。


「もろこし婆さんただいま!」

「2人ともおかえり….」

か細く弱った声で、もろこし婆さんは2人を迎えました。

全身はボツボツで、皮膚に栄養を取られて痩せてしまう病気に

かかっていました。


「さあ。早く薬草と一緒に不死鳥を煮よう」

ハンスが言ったその時です!

レヴィンが持っていたカゴの中から、鳥を出すやいなや!

死んでいたはずの鳥が急に大きくなって2人の上をぐるぐると

飛び回りました


「これはなんてことだ!撃ち殺してやる!」

すぐに矢を構えるハンスの横で

レヴィンは昔、村のおじいさんに聞いた呪いの不死鳥の

話を聞いたことを思い出しました。

その鳥は人の悪意を吸い込んで、とても大きく恐ろしい鳥だと

おじいさんは話していました。

悪意の物の怪がそれを時たま不死鳥と入れ替える、

そう言っていたのです。


鳥のようなそれを殺して森を歩き回る悪意の物の怪に返さねばならん、そうしないと皆死ぬ

物の怪は自分の苦しみを癒そうと不死鳥を食べたがる、だが効果はなく

苦しみ続け、森をさまよっているのだ…

そうしてたまに人間はそれに出会ってしまう

おじいさんは震えながらレヴィンに昔話をしたのです。


すばしっこく勝気なハンスはもう矢を十発も撃っていました。

しかし全然効果がないのです。


レヴィンは大急ぎで薬草倉庫に入り

精神の滅入りに効くという粉を矢の先に水で解いてつけました。


「ハンスこれで打ってみよう!」


鳥につつかれボロボロになったハンスに向かって

レヴィンは言いました。


その時です!心が穏やかで、ハンスに比べると随分と弱々しく見える

レヴィンに目掛けて鳥は大きく口を開け

頭を飲み込みました


肩から下にかけてなんとか踏ん張って、レヴィンは鳥と取っ組み合いになりました。

そのすきにハンスは20発近く薬草を塗った矢を鳥に打ち込みました。


するとどうでしょう。

鳥は静かに動かなくなりました。


「レヴィン!レヴィン!大丈夫か!」

青ざめた顔で、ハンスは鳥の口からレヴィンを引き摺り出しました。

レヴィンの顔は真っ黒な血管のような模様でいっぱいになっていました。


「大丈夫だよ」レヴィンは静かにそう言いました。

「早く、この死んだ鳥を「悪意の物の怪」に返さないと!」


2人は物の怪を探しに森へ入りました。


しばらく歩いていると真っ黒な何かが

すばしっこく草木をかき分け歩き回っているのが遠くに見えました。


「あれだ!」

2人は目を見合わせます。


その瞬間レヴィンの顔から何か糸のような粘り気のあるものが出て

物の怪に磁石のように吸い寄せられて体ごととばされました


「レヴィン!」ハンスは大声で何度も叫びながら

物の怪に向かって走り寄りました。


真っ黒なそれは意識を失ったレヴィンを取り込みながら

目ともわからないような潰れた瞳で

ハンスを覗き込みます。


「お前が欲しいのはこれだろう!!

レヴィンを離してくれ!」ハンスは鳥を差し出しながら森中に響き渡るほどの大声で言いました。


「うううう…

うううう…」

声なのかも何かもわからない不気味な低い声で

その黒いものは騒ぎ始め一瞬にして

ハンスのことを鳥ごと取り込みました。


黒い透明の中でハンスは必死にもがきます。


何か核のようなものがハンスの頭の横に現れました。

こ!これは!

ハンスはぐちゃぐちゃの中で矢にてを伸ばし

それに突き刺しました。

穴が空いた中に、レヴィンの作った薬草を溶いたものを

全て注ぎ込んだのです。


すると黒いそれはみるみる縮んでいき、鳥と一緒に消えてしまいました。

その後には何か、光る小さな石が落ちていました。


レヴィンは意識を取り戻しましたが顔は黒いままでした。


「おやまあ、これは、不死鳥の卵の化石だねえ

50年ぶりに見たよ」

もろこし婆さんはひかる小さな石を見て言いました。

「この化石を煎じて飲めば、何の病でも治せると言われている。

不死鳥の肉よりも確かな効果があるものじゃ。

しかしこの化石がどこで作られるのかは誰も知らねえ。

私が子供の頃、村の勇敢な男がこれを持ち帰ったことがあってな

その時流行病で何人も死んでいたが、皆これを煎じて飲んだら

治ったのじゃ」


「それはすげえや!」ハンスは元気よく喜んでいます。

「さあ、おばあさんこれを飲んでよ」レヴィンは少しそれを

削るとお茶に混ぜてもろこし婆さんに渡しました。

レヴィンも黒くなった顔が治ると信じ、同じものを飲みました。


夜中にハンスが寝る準備をしているとレヴィンが

家を出て行く姿が窓際から見えました。

「レヴィン!こんな夜中にどこへ行くんだよ!」

レヴィンは何も答えず、振り返りもしませんでした。


薬草庫かな…ハンスは夜中にレヴィンが色々な薬草研究に

勤しんでいるのを知っていたのであまり気に止めませんでした。


翌日になるとおばあさんの肌はすっかり綺麗になり

見違えるように元気になっていました。


しかしレヴィンの姿は見えません。

薬草庫にもいないのです。



ガサゴソガサゴソ…

大雨の森の奥で黒い何かがうごめいています。

それを見たのは蝶になろうと蛹になりかけた芋虫だけでした。



-おしまい-

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