表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
People's Life -ピープルズ ライフ-  作者: おむ
第一章 ジークという人間
9/17

第九話 カイゼル髭

 数分前と違い、今は虫の鳴き声が鮮明に聞こえるほどに静かな夜を取り戻していた。

 この教会を最初に見た時は、こんなにボロボロに老朽化した教会のあるのかと驚愕したが、今現在はさらにボロボロになってしまった。壁には大きな穴が二つ開き、壁には氷のデコレーションまで付いた。数少ない木製の長椅子も隅の方に裏返ったり、縦に床に立っていたりしている。

 肩や腕、腰に足と全身が痛む中、床を這いずる形で、俺は目の前の床のくぼみを目指していた。多分、床に血を塗りたくって進んでいるかもしれない。

 前に進むたびにギィギィと床が鳴くが、這いずり状態で自重も分散しているから床落ちの心配はないはずだ。

 時間をかけて目的の穴まで行くと、床下では目と口が閉ざされ、腕と足が拘束された白髪の女の子が蠢いていた。

 

 「怪我は……ないか?」


 声を発したら脇が痛み、言葉の途中で声が詰まった。

 声が聞こえてきて、女の子がより一層に暴れ始める。


 「怖がらなくて大丈夫だ。俺は君を酷い目にはしないから」


 俺の言葉を聞き、女の子は暴れるのをやめた。

 とりあえず女の子の今の状態をどうにかしないといけないと思い、女の子に指示を出した。

 

 「そのまま上方向に近づいてくれるか?そう!もう少し」


 素直に指示に従ったくれた。

 腹這いのまま、左腕を床穴に入れる。腕を精一杯に伸ばし、女の子の目を覆っていた布切れを下方向(額側)に引っ張った。布で隠れていた紅色べにいろに輝く瞳がぱちぱちと二回瞬いた。

 吸い込まれそうなあかい瞳は上目遣いで俺を見ていた。

 女の子が、んー、んー、と何か言いたそうだったので、次は猿轡さるぐつわを外そうとしたところで俺は意識を失った。


※※※※


 教会の尖った屋根部分の頂点にて、姿勢を正しく直立不動でたたずむ男が一人。

 白い肌が月で照らされ、鼻下で整った八の字の形をしたカイゼル髭の両端が風で少し揺れる。頭に被る黒のソフトハットの端も風で激しく揺れていた。

 ぱたぱたと黒いスーツの裾を風でなびかせ、右手に持つ黒羽ペンでスラスラと左手にある小さなノートを開いて何かを書き込んでいた。ノートへの書き込みを終えると、手首をスナップさせて右側にポイっと黒羽ペンを放り捨てた。捨てられた黒羽ペンは黒い塵となって跡形もなく消えていく。

 左手に持つノートを閉じ、完璧に着こなした黒スーツの右側の内ポケットに仕舞しまった。

 ちらりと下を見る。

 男が視線を送る先には、直径二メートルほどの穴があり、その奥には腹這いで意識を失ったジークと、視界が解放されて目の前で意識を失ったジークをどうしたらよいのか焦っている白髪の少女の姿があった。

 二人を助けることもなく、無表情な顔で一言だけ呟いた。


 「頑張りましたね」


 ダンディーな声の男は、流れる風と共に一瞬でその場から姿を消した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ