第十三話 拳
上空に打ち上げられた屋根の一部らしき木片が轟音と共に地上に落下し、地面に突き刺さった。
爆発が起きたキッチンルキの屋根は無くなり、外壁も五十パーセント近く消失していた。そんな中、キッチンルキだった建物内部の木片の下からローアンが姿を現す。
額から血を流しているが、ローアンは無事だった。
「ステューシー!ゼフ!ウィスラー!大丈夫か!!?」
近くにいるはずの仲間の名を呼ぶが、返事はなかった。
爆心地であろう場所が地面を軽く抉り、半径二メートルのクレーターを形成して、そのクレーターの中心地では白い煙が空に向かって噴き出していた。
「ロ…アン…」
今にも消えそうな声量の声を聞いたローアンは再び叫んだ。
「どこだ!!」
三百六十度見渡していると、積み上がった木片が小さく盛り上がるのを捉えた。すぐに邪魔な木片を撤去すると、ゼフがそこにいた。
「怪我はないか?」
「…頭が割れるように痛い。あと…足元に倒れたテーブルをどかしてくれねぇか?」
「任せろ」
大男状態のローアンにとって簡単な要望が入り、すぐに足元の木材やらテーブルが重なった物の撤去を行ったが、邪魔が入る。
爆心地のゆらゆら上がる白い煙の中からローアンめがけて一直線に何かが飛んだ。そしてローアンは左首付近を蹴られ、何が起きたのか分からないまま、反対側にある民家へと衝突した。
ローアンを蹴った者はクルクルと宙で回りながら、両手の指と両足の指を地面につけて着地した。まるで爬虫類かのような体勢だ。
ローアンを蹴り飛ばした人物はゆっくりと筋肉質で逞ましい足で地面に立つ。
身長と同じ長さはある青のロングヘアで服を着ていない裸姿の成人女性という痴女だが、胸元や腰回りの肌から噴き出す白い湯気で乳房や鼠蹊部は完全に見えなかった。
ローアンが飛んでいった建物へ歩き始めようとした時、キッチンルキだった建物内からグラウディーの声が聞こえてくる。
「フレンチ!手を貸せ!」
呼ばれて舌打ちした後、その場で助走もなしに上空を五メートルほど跳躍し、声がした地点に軽やかに着地した。ちょっと木の残骸を取り除くと、グラウディーが倒れていた。
フレンチはグラウディーに右手を差し出すと、右手を見るや不服そうに口を開く。
「左手を貸せ」
「は?右手はどうした?」
「……無いんだよ。左手を早くしろ!」
キレ気味に左手を催促すると、フレンチはニヤリと笑いながら右手から左手に変えた。
「お前の右手を無くした相手は強かったか?」
全裸女が投げかけた言葉はグラウディーへの煽りではなく、相手の強さへの単純な興味だ。それはグラウディーも認識した上で言葉を吐き捨てる。
「はっ!強かったら私はここには居ない。ただのラッキーマンだ」
「なーんだ。ならどうでもいいや」
右腕を切り落とした相手への興味をなくしながら、グラウディーを床から引き起こした。
グラウディーが立ったと同時くらいに、彼らの左右から人影が急に現れる。ウィスラーとステューシーだ。
二人は額や太ももから血を流しながら、剣鉈をグラウディーとフレンチに振るった。
ステューシーの斬撃はグラウディーを狙い、ウィスラーの斬撃はフレンチを狙っていた。彼らが現れて、刃が二人を切り裂くまで一秒足らず。奇襲的攻撃であったが、ステューシーとウィスラーの攻撃は不発で終わった。
ステューシーの頬にフレンチの踵がヒットして横に飛ばされ、ウィスラーの斬撃はフレンチの右手による掴みで止められた。
ウィスラーは剣鉈を動かそうとするが、ピクリとも動かせない。それどころか剣鉈の刀身が割れた。
「う…うおぉぉッ!」
なんとか自身を奮い立たせる為にウィスラーは叫んだ。割れた剣鉈でフレンチに突っ込むが、剣を握る手首を手刀で叩かれて剣を落としてしまう。
剣を振り落とし、流れるようにウィスラーの胸ぐらを掴んで右手で殴って殴って殴る。
「や、やめ…ろぉ…」
ウィスラーの顔は痛々しいほどに腫れまくっていた。
溜めの一撃を顔面に入れる瞬間、「キャー!」という叫び声が近くから上がった。叫んだのはドンマラに住む住民の一人だった。キッチンルキの爆発音で騒ぎに気付いたようだ。
「なんだ?」と次々と建物の扉が開いていく。
フレンチは再度、溜めの右ストレートでウィスラーを殴って飛ばし、グラウディーに話しかけた。
「あれ殺していいの?」
「好きにしろ」
その場からハリボテのように立ってるキッチンルキの壁を一瞬で破壊し、叫んで腰を抜かした女性の前で急停止した。腰を低くしてズザザ…と地面を少し滑りながら、力を溜めていた右拳を女性の顔面へと発射させた。
女性の首から上は、フレンチの拳によって無くなっていた。
「次」




