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People's Life -ピープルズ ライフ-  作者: おむ
第二章 ジャックという悪魔
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第七話 ジャスミン茶

 丘上から少し離れた場所で、メラは流れる川を横断していた。川の中に点在する大から中くらいの岩の上をブーツを履いていながらも、軽快にジャンプして飛び越える。

 無事に川を横断し、目の前の草むらに近づくと、草木で隠した子供用のテントの出入りの布を手に取った。

 布をめくると、メラはそのまま中へと四つん這いになりながら入る。テントの中は子供用テントの中とは思えない光景が広がっていた。

 まず目に入るのは水が噴き出す噴水が中央にあり、噴水の中では魚が数匹泳いでいた。

 噴水の近くには高級そうな金の刺繍が入った赤い絨毯が敷かれ、その上にはこれまた高そうなガラス製の長テーブルと悪趣味としか思えない骸骨頭の装飾が肘掛け部分に取り付けられた一人用のソファーがあり、そこにメラが足を組んで座った。

 身を乗り出し、目の前の長テーブルの上に置かれた木製の皿からクッキーを摘んで口に入れた。すぐさま二個目を摘もうとしたら、右耳に付けている月のイヤリングが微小に光った。

 クッキーを摘むのを止め、ソファーに背中を預けながらメラが口を開いた。


 「なに?」

 

 その言葉はイヤリングに向けた言葉だ。

 そしてすぐに返事が。


 「えっとね、ただ話がしたくて繋げちゃった…えへへ」

 「……あんたって、暇なの?」

 「暇ぁ…ではないんだけどね。これから隊の子たちのテストをしないといけないし。あぁ、こ、こ、こんにちわぁ…」


 イヤリングの向こうで、すれ違った人からの挨拶を気弱な感じで挨拶をしているようだった。


 「話って言っても、あんた毎日話しかけてくるけん、話のネタなんてないけど」

 「話のネタなら大丈夫やけん!今日ね!メイドの子にまた褒められたの!案外、いい子なのかな?」

 「姫だか王女の側近のメイドやったっけ?よかやん」

 「ミラ!姫「様」だよ!本人の目の前で姫とか言ったらダメやけんね!!」


 王族の人間と対面する機会あるわけないじゃんと思いながら、メラは「はいはい姫様ね、分かった」と答えた。

 それからもイヤリングの向こうの主の話は続いた。

 「それとね、一ヶ月後くらいに泡沫ほうまつさいがあるんやけど、ミシエルに来る予定なかぁ?」

 「よかばい、来たら美味しいとこに連れてってくれるとやろ?あと、メラやけん!」

 「あぁ…ごめん…。美味しいとk」


 イヤリングから話す主との会話を一方的に中断して、肘掛けに上半身を乗せながら背後の入口を睨んだ。

 入口を睨みつける理由は、メラの根城に誰かが近づく気配を感じたからだ。決して、誰かいる?ではない。誰かいる!だ。

 防犯対策をしないほどメラも馬鹿ではない。魔術的セキュリティーをしっかりと其処彼処そこかしこに施してある。

 メラは入口付近を凝視しながら、姿勢を低くしてピカピカに輝く白い大理石の床に人差し指で丸を描いて、その中に三角形と逆三角形のテッペン同士がキスするような構図で描いた。その速度、二秒ほど。

 えがいた簡易的魔法陣の上に人差し指と中指の腹部分で触れ、入ってくる人物に備えた。

 入口から光りが漏れ出し、人物の影が大理石に映り、メラは無意識に右手に力が入り、魔法陣が青く光る。あとは軽くれんを右手から床に流し込めば魔法陣が発動という時に、入口から声が聞こえてきた。


 「相変わらず住みにくそうなところだな…。ん?何してんだ?お前…」


 侵入してきた人物は顔見知りであるジャックだった。

 ジャックだと知ったメラは、「はぁ…」と肺から息を吐き出し、ジト目で平均的な下乳を持ち上げるような感じで腕を組んだ。


 「勝手に入らないでもらえるかしら?」

 「勝手に入ってほしくなかったら、呼び鈴でも置いとけ。あと一応、入る前に『入るぞ』を二回言ってから入ったからな」


 どうやらイヤリングの向こう側の人物との会話で気が付かなかったようだ。

 ジャックはそのまま中に入り、魚が泳ぐ噴水に近づき、魚を見下ろした。


 「これ飼ってんの?」

 「食用だけど、なに?」

 「美味いのか?」

 「……要件は何なのかしら」


 明らかにピキっているメラを見て、ジャックはここに来た用事を済ますことにした。

 右手に持った布袋を掲げ、


 「ルキのやつがお前に渡し忘れた差し入れを俺が持ってきた」


 布袋が渡され、メラが中身を確認した。

 特に中身を取り出す事もなく、「お礼をお願い」と小さく言った。

 「OK、OK」と言いながら、ジャックは噴水の端に腰を下ろすと、メラが口を開いた。


 「もう用済んだでしょ。何で座っているのかしら」

 

 足を組み、噴水の端に両手を付きながら、だるそうにジャックは返答した。


 「疲れたから少しくらいは休ませてくれよ…。あと、茶をくれ…」


 反論したそうな顔ではあったメラだったが、ぐっと堪えて、ジャックとは反対の方向へと小走りで歩き出した。

 メラが奥に歩いていくと、自然とジャックの目線は部屋の物へと移った。

 両方の肘掛けに骸骨が置かれた物騒な椅子、骸骨のランタンらしき物、壁一面に貼られた印が付けられている地図、なんか足やら肩の露出が多そうな服が吊るされた服掛けスタンド。

 吊るされた服が気になってスタンドへと近づき、おもむろに一着を手に取った。手に取った服はピンク色のメイド服のようで、下半身に付ける用の白色の前掛けとセットになっていた。裏返して「背中丸見えじゃねぇか!」と思ったところで、手に持っていたメイド服と服掛けスタンドが消える。

 

 「勝手に、触らないでくれるかしら?」


 衣服類を一瞬で消した人物は、言葉に怒りを込めたメラだった。

 特に杖や手をかざすことなく物を消す姿を見て、ジャックは俺たちでも物を消すことはできるのか?と呑気に思っていた。


 「座って」


 ジャックの目の前に下顎部分が付いていない骸骨と目ん玉が足部分にたくさん付いたテーブルが現れ、メラは手に持っていた花柄のティーカップとティーポットを異質なテーブルの上に置いた。

 たぶん椅子用であろう骸骨頭を見て、ジャックはつぶやく。

 

 「…普通の椅子はないのか?」

 

 腕を組んでいたメラはノーアクションかつ無言で骸骨頭の椅子を消して、デカい石を出現させる。デカい石が出現した時、少し宙に浮いていたこともあり、地と接触した際、ゴン!と言う鈍い音が鳴った。

 明らかに人が座るようの石ではなく、そこらへんの石を置かれたのは明白だったが、あの悪趣味な人間が座る用に作られた頭蓋骨の椅子に座るよりはマシだったので、ジャックは文句を言うことなく素直に座った。

 ジャックが座ったのを見て、メラはティーポットに入った茶色い液体をカップに流し始める。

 カップに注がれた液体の香りがジャックの鼻へと流れていった。


 「これって、もしかしてジャスミン茶か?」

 「分からないわ。これがあるから飲んでるだけよ」


 ジャックは確かめるべくカップに手を伸ばし、カップを鼻先に持っていき、嗅いだ。

 間違いなくジャスミン茶だった。しかも、もしかしたら飲んでみたかったジャスミン茶かもしれない物だった。


 「このジャスミン茶はカリメア王国のジャスミン茶だよな?」

 「?」


 メラには何のことか分からないような感じだった。

 ジャックは質問を変えた。


 「このジャスミン茶は、なんでここにあるんだ?」

 「友達がお土産で持ってくるから飲んでるだけよ」

 「まじかよ…」


 ジャックは度肝を抜かれた。

 それもそのはず、このジャスミン茶がもし仮に【カリメア産のジャスミン茶】だった場合、いま目の前に注がれたティーカップに入った量だけで最低、千…いや、一万ルドはかかるだろう。植木鉢一つ分の水やりで無くなる量でだ。

 だから当たり前ではあるが、上級じょうきゅう爵家しゃくけクラスが飲むような代物だ。そんな物をお土産として渡す友人は何者なんだ…とジャックは震えた。

 謎多き魔女ではあるが、またさらに謎が増えた。

 生唾を飲み、ゆっくりと口元にカップを近づけ、茶を短く啜った。

 最初に感じた味覚は甘さだった。この甘さはたぶん花の蜜なのだろう。後味も癖がなく、すっきりとしたお茶だった。


 「うめぇ…」


 ジャックがジャスミン茶を飲んで感動している様を見て、ティーポットを右手で持ち上げて、一言。


 「まだ飲む?」

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