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People's Life -ピープルズ ライフ-  作者: おむ
第二章 ジャックという悪魔
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第四話 クソ猫

 ドンマラから丘上の建物に着く時間は大体、三十分くらいで、丘上へ週に二、三回通っているルキ。

 初期は肩で息をしながら登っていた道だが、今では鼻歌混じりに登れるようになった。

 道から外れた林の方へ目を向けて、白兎ホワイトラビー鹿しかを眺める余裕すらある。

 丘上から降りてきたふくよかな体型をした男性商人と顔見知りのウィスラー、二人の御者ぎょしゃたちと互いに軽く手を振って挨拶を交わしながら丘上の建物へと到着した。

 コンコン、と片開きの木製ドアを叩くと、数秒してから筋肉質な体型をした男がルキをお出迎えした。

 

 「おー、ルキちゃんじゃねぇか!入って入って!」

 「お邪魔します。ボランダさん」


 部屋に入ってすぐにキョロキョロと周りを見るルキだったが、視線がソファー下に集中し、ルキはソファーへと歩み寄る。

 栗色をした側面の髪を耳に引っ掛けながら屈み、ソファー下を覗いた。覗くとそこには大量の瓶が散乱していた。

 その中の一本を腕を伸ばして掴むと、ボランダに瓶を見せる。


 「これ、なんですか?」

 「あー……、酒を飲んだ時に、奥に入っちまったんだろう」

 「見える範囲で六本ありましたよ。ちゃんと掃除してますか??」 

 「してる!してる!そうですよね!旦那ぁ!」

 

 ボランダは二階から降りてくるジャックに気づき、彼に助けを求めた。

 ジャックは革ジャンの袖に腕を通しながら言った。


 「ルキ、そんなに怒んなよ。可愛い顔が台無しになるぜ?」

 「怒っていません!」

 

 ルキの眉が逆八の字になっているが、怒っていないらしい。

 階段から降り、ルキの正面に立ったジャックの背は高く、ルキは少し顔を見上げる形になっていた。

 右手で両目の目頭を摘んでマッサージしながら、

 

 「ルキは俺が相手するから、ボランダは外していいぞ」

 「分かりました」


 そう言って、ボランダは外へと出ていった。

 二人っきりになり、ジャックは四、五人は座れるソファーへと座り、両腕を大きく広げて足を組んだ。


 「ルキ、隣に座れ」


 命令口調だが、その言葉のどこかに優しさと甘さが混じっていた。その言葉でどれほどの女子を座らせたのだろうか。

 女子が隣に座る確率九割越えはあるだろう言葉をルキは冷ややかな目をジャックにぶつけた。


 「そういうのヤメてください!セクハラですよ!」

 「ただ隣に座ってほしいだけなのによ、なんて言われようだ」

 「肩に手を回してくるじゃないですか!」

 「ただのスキンシップだろー」

 

 ここで目の前の机の上にトートバッグが置かれていることに気づいたジャックは、バッグを指差す。


 「それ、メラのために作ってきたやつか?」

 「はい!この容器にはサンドイッチが入っていて、お肉は白兎ホワイトラビーなんですが、メラさんは兎のお肉は食べれます?」

 「食べるんじゃねぇか?こっそり食糧庫から肉だけを強奪していくクソ猫だからな」

 「食べれるならよかったです。……というか、それ本当ですか……?食料買うお金無いのかな……」


 不安そうになるルキをジャックが一蹴いっしゅうした。


 「金なら持ってるぞ。直近だと、二日前に千五百センゴヒャクルド払ったからな」

 

 ジャックは二日前に払った金額を思い出し、深いため息を吐いた。

 

 「それって、魔法の練習?訓練……代ですか?」

 「そうだ。それと《魔法》って言うと、キレる。《魔術まじゅつ》だそうだ」

 「マジュツ……理解しました。それで、マジュツをジャックさん達は使えるようになったんですか?」

 「………まだだ」

 「え?」

 「……っていうか、な?俺らはアイツに詐欺られてんじゃないかと思っている。わりと真面目に」


 はたしてそんな酷いことするかな?とルキが思う中、ジャックはどんどんと不満を吐き出していく。


 「一週間前だって、あそこの棚に置いてある連絡できる巻貝二つをセンルドで買ったが、変な模様が刻まれたただの巻貝だ。今じゃインテリアだよ」


 棚に近づいて、丸みがある茶色の巻貝を観察していたルキがジャックに確認を取った。


 「触ってもいいですか?」

 「触れ触れ」


 巻貝に触ると、貝の上から触り心地がいいように何かの液体でコーティングされているようだった。

 

 「どうやって会話するんですか?」

 「刻まれた模様を触りながら巻貝の口に向かって喋ればいいだけだ。巻貝に刻まれた模様と同じ巻貝が繋がっているらしい」


 ルキは三つの刻まれた魔字まじの一つだけを触った。


 「こ、こんにちわぁー」


 五秒くらい返答を待ったが、返答はなかった。


 「な?詐欺だろ?あのクソ猫にガラクタを買わされてるんだよ」

 

 巻貝を棚に戻そうした時、巻貝から反応があった。


 「クソ猫って、何?」


 不意に言葉が返ってきて、ルキの手元が狂った。ルキの頭上を飛び、落下を始める。

 ルキの背後の床を目指して落ちるのをジャックがキャッチして回避した、がそんなことよりも。


 「おいルキ!どうやって会話した!?」

 「え?え?普通に模様を触って話しただけですよ」

 「もう一回してくれ」

 「えぇ……と、これを触って………き、聞こえますかー?」

 

 五秒後に反応あり。だがしかし、声質がさっきの女の子の声ではなく、色気がまとわりつくような男の声が返ってきた。


 「どなたでぇすかぁ?売買ばぁいばぁいでぇすかぁ?それとぉもふくろ関係でぇすか?」

 

 ルキが反応に困っている中、ジャックが巻貝に顔を近づかせて吠えた。


 「バリー間違えた!ルキ、多分こっちの模様だ」

 「そぉーのこぉえは、ジャァックさぁんじゃないでぇすかぁー。巻貝まぁきがぁいを使える――」


 ルキが違う模様を触った瞬間、粘り気のある男の声は途切れ、聞こえなくなった。

 再び、違う模様を触りながらルキが口を開いた。


 「ど、どうもー」


 次の返答は一秒で返ってくる。


 「……何?私をからかっているの?」


 巻貝から冷ややかな声が返ってきて、ルキの代わりにジャックが返答した。


 「違うんだメラ。ルキに巻貝を触らせたらお前と会話できちまったんだよ。これってよ、結構凄いんじゃねぇか?ルキは魔術のすら知らないんだぞ」 

 「それが本当なら凄いわね。才能あるんじゃない?」

 「だからよ、ルキも今日の練習に参加させていいか?」

 「えぇ?!」


 ジャックのすぐ横にいるルキが声を上げた。

 

 「……なんで?」


 向こう側のメラという名の女は、不服そうだった。

 だが、ジャックはなんとか説得を試みた。


 「安くはない額をお前に払ってんだ。誰も魔術を習得できなかったら、無駄金になっちまうだろ。それに一人増えようがお前の労力変わらんだろ?な?」

 「まず、お前って言うのヤメてもらえる?」

 「……すまん、メラ」

 「いえいえ。そうね、別にいいわよ。参加したいなら参加しても」

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