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People's Life -ピープルズ ライフ-  作者: おむ
第二章 ジャックという悪魔
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第一話 キッチン・ルキ

 ドンマラという町に一軒だけあるお食事処しょくじどころ【キッチン・ルキ】。

 昼間ということもあり、店内に客は片手で数えるくらいしかおらず、ウェイトレスの三人中、二人はカウンターテーブルの奥で椅子に座って雑談していた。

 あと一人のウェイトレスは注文された品をトレイに乗せて、客に持っていくところだった。

 

 「お待たせしました!ご注文のサンドイッチとコーヒーになります!」


 トレイからサンドイッチとコーヒーが客のテーブル上へと置かれていく。

 品を置く最中、客はずっとウェイトレスの顔をガン見していた。

 そんな客に怯えることなく、


 「ごゆっくりどうぞ!」


 元気いっぱいに言って、膝下まであるスカートをひらりとさせながら、カウンターテーブルへと戻っていった。

 カウンターテーブルへと戻ると、雑談していた二人のウェイトレスが接客を終えたウェイトレスに詰め寄った。


 「ルキさん!大丈夫でしたか!?」

 「ジャックさんに相談した方がいいですって!何か起こってからじゃ遅いですよ!!」


 二人の言葉の圧に戸惑ったウェイトレスのルキだったが、優しい口調で言った。


 「二人とも心配しすぎだって。あの人、別に悪い人には見えないよ」

 

 そう言われ、ウェイトレス二人はカウンターテーブルの上に乗っかって、さっきまでルキが接客していた客を覗き見た。

 注文したサンドイッチとコーヒーが目の前に置かれた男は黒いソフトハットを頭から外し、テーブル端へと置いた。

 頭に地毛はなく、白い肌を晒したスキンヘッドの男。

 サンドイッチとコーヒーを受け取った際に貰ったペーパーナプキンを首元に付けるため、ワイシャツの首付近のボタンを外して、ペーパーナプキンをセットした。

 いよいよ実食――とはならず、テーブル横に備えられた調味料にスキンヘッドの男は手を伸ばした。男が手に取ったのは辛さを増す調味料で、それをサンドイッチへと激しく振った。

 どろっとした赤い液体がサンドイッチをコーティングしていく。

 サンドイッチが真っ赤になって気が済んだのか、男は辛味調味料を元あった場所へ置いた。

 もうサンドイッチに赤以外の色はなかった。

 いよいよ実食――とはまたならず、次は塩を手に取った。

 キャップを外し、赤く染まるサンドイッチに振りかける。二、三回程度ではない。何十回も振りかける。

 さっきまでサンドイッチが赤色一色だったのが白色一色に変わって、スキンヘッド男は振るのをやめた。

 次こそ実食――の前に、男は両手に付けている黒い手袋を外した。

 黒手袋を着ている黒スーツの内ポケットに入れ、両手がサンドイッチを掴む。

 躊躇することなく、サンドイッチに食らいつき、食べていく。

 確実に辛さとしょっぱさが異次元なはずだが、男は顔色一つ変えずに食していた。

 そんなスキンヘッド男を見て、身を乗り出して眺めていたウェイトレス二人はドン引きしていた。

 改めて二人はルキに詰め寄った。


 「絶対ヤバい人ですって!」

 「サンドイッチをルキさんに作らせておいて、あんなことしてるんですよ!!私もジャックさんに言うんで、どうにかしてもらいましょう!!」


 確かに男はルキに作るように指示をして注文していた。だが指示するのはそれくらいで、他には何もない。

 あの男が来店するようになって五回だが、五回とも調理の指示だけで、セクハラやナンパなんかも一回もない。

 食べて、帰るだけ。

 過去に一度だけ興味本位でルキが世間話をしてみたが、男は顔をガン見するだけで、何も話さなかったので、それ以降は話を振ったりしていない。

 そんな謎の男ではあったが、ルキは別に怖いとかそういう感情はなかった。

 特に問題ないので、別にこのままでもよいと思っている。いつかあの男と世間話ができるその日まで。

 「落ち着いて」とルキが二人をなだめる中、スキンヘッドの男はサンドイッチをぺろりと平らげていた。

 鼻下のカイゼル髭に付いた辛味調味料をペーパーナプキンで拭い、コーヒーカップを手に取る。

 コーヒーには辛味調味料やらを入れることなく鼻下に持っていき、コーヒーの香りを堪能していた。そのままの流れで口先に持っていくと、黒い液体を口へ流し込む。

 ゴクゴクゴクゴクと息継ぎなしの一回でコーヒーを飲み干し、コーヒーをテーブルに置いた。

 ペーパーナプキンで濡れた上唇を拭うと、黒のソフトハットに手を伸ばして、頭に乗せた。

 いつもならサンドイッチとコーヒー代である四ルドをテーブルに置いて、無言で退店するのだが、今回だけ違った。

 席から腰を上げ、カウンターテーブルへと近づく、スキンヘッドスーツの男。

 近づくのに気付いたウェイトレスの三人のうち二人は謎に臨戦体制のポーズになる中、残るルキだけは首を傾げて男を見ていた。

 男はカウンターテーブル前で止まり、スーツの外ポケットに手を入れて四ルドを静かにカウンターテーブルに置き、ウェイトレスの目を見ることなく口を開いた。


 「美味しかったよ」


 ダンディーで優しい声の男に感謝され、ルキは後ろに花が咲くのではないかというくらいの笑顔を添えて頭を下げた。


 「ありがとうございます!またのご来店、お待ちしています!!」


 頭を下げるルキを一瞥いちべつした後、何も言うことなく、【キッチン・ルキ】を退店した。

 男が退店した【キッチン・ルキ】では、「ほら!悪い人じゃないでしょ!」と、ウェイトレス二人にルキが話していた。

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