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第一章 エピローグ

 結局、夕方時にアルバートからの連絡はなく、数日間は待ちになったが、進展がないわけではなかった。

 騒動があって以降、ベッドに運ばれて眠っていた白髪少女が起きたのだ。

 第一発見者はジークと白髪少女を付きっきりでお世話をしていたシスターのミーファと部屋の掃除をしていたロブだった。

 むくりと上半身を起こしていた少女を目の前にして、ミーファはどうしたらいいのか混乱していたが、ロブが早急にアルバートへと報告し、アルバートとリラが駆けつけて対応した。

 ちなみにジークはその時はぐっすりと寝ていた。

 白髪少女の名はスコッティーというらしい。副団長のアルバートがファミリーネームも聞いたが、少女は頭にクエスチョンマークが出ているような首を傾げていたらしく、ファミリーネームはないようだ。

 ジークと白髪少女のスコッティーが意思疎通をしたのは、事件があって二日後の昼だった。


 「団長と連絡が取れました。大至急ミシエルへ歓迎するようにとの通達でございます。ジーク様、今から出発したいと思ってい、いまするが、よろしいでしょうか?」


 アルバートが噛んだ。

 ジークは苦笑いしつつ、


 「アルバートさん、今まで通りで大丈夫です。逆にむず痒いので」

 「……そうか?」


 ミシエル騎士団団長からは要人として接するようにとのことみたいだ。

 ジークがカリメア王国の息子だからなのであろう。アルバート含め、ロブやリラ、ミーファが神妙な顔つきでアルバートの隣に立っていた。

 ジークにとって地位に下や上はない。自分と接する際、敬語もいらないと思っている。

 アルバートは奥でベッドに腰掛けて見つめるスコッティーへ見た。


 「スコッティー、君もミシエル王国に招待されている。来てくれるか?」

 「うん」

 

 スコッティーは頷いた。

 現状、スコッティーが何故、男に誘拐されそうになっていたのかも分かっていない。

 唯一、分かっているのは、全く記憶がないということだ。

 全くと言っても、名前は分かっていたようだが、なぜあの場所にいたのか、今までどうしていたのかも分からないという。

 精神的ショックで一時的に記憶が喪失したのか、それともロングコートの男によって記憶喪失したのか分からないが、とりあえずミシエル王国で保護という感じになった。

 そんな中、ジークはスコッティーの瞳を見つめた。事件の際、目隠しをされていて見えなかった目。色は赤。別に珍しい色ではない。ありふれた目の色ではあるが、ジークにはもう一つの色に見えた。

 真っ赤に光る具現化した鎌の刃。その鮮やかさといい、目を奪われるようなそんな目をスコッティーはしているのだ。

 スコッティーの目を見ていたら、スコッティーが首を傾げながらジークを見ると、目を逸らしながら言った。


 「悪い。目がきれいだなって見てた」

  

 頬を少し紅潮させ、スコッティーは呟く。

 

 「そ、そう」


 そんな二人のやり取りを気にする事なく、アルバートが口を開いた。

 

 「ミシエル王国までは早くて三日くらいかかる。二人ともよろしく頼む」

 「よろしくお願いします」

 「よろしくー」


 アルバートの言葉に返事をするジークとスコッティーだった。



※※※※


 薄暗い空間を歩くグラウディー≠アンドレアス。

 ある夜に青年によって、右腕の肘下を失い、ロングコートの右袖には腕は通っていない。右袖を悲しく左右に揺らしながら歩き、止まる。

 首を左へ向け、暗闇を睨む。その数秒後に渦巻くように動きながら暗闇から【黒い球体】が出現した。

 【黒い球体】はグラウディーの顔の前で止まる。あとほんの少しだけ前に動けば当たるくらいの至近距離だ。【黒い球体】にはきれいな歯並びの口だけがあり、にぃっ!と白い歯を剥き出しにして笑っていた。屈強な大人二人くらい普通に丸呑みできそうなくらい大きく、不気味で異質な存在が目の前にいた。

 そんな【黒い球体】を間近にしても表情一つ変えずに睨んだまま、グラウディーは口を開いた。

 

 「お前に会いたがっていた人間がいたぞ」


 すると、【黒い球体】ではない誰かの声が返ってくる。


 「へぇー誰だろ〜?女の子ぉ?女の子ならぁ〜、思い当たるんだけどー?」


 声質は猫を被ったような甘ったるい声。


 「男だ。随分と怒っていたぞ、ふん」

 

 グラウディーは鼻で笑った。

 「なら知ーらない」と女の子の言葉が返ってきたところで、グラウディーは背後へと振り返った。振り返ると、【黒い球体】は後方の暗闇へと消えた。五歩くらい前へ歩くと、二人の少女が地べたにいた。

 グラウディーは、地毛は黒だが毛先が赤く染まった赤黒い髪の少女と身長以上あるロングヘアの水色の髪の少女を見下ろしながら呟いた。

 

 「何してんだ、お前ら」


 反応したのは赤黒い髪の少女。


 「着へ替えちゅうぅ♡」


 赤黒い髪の少女の言う通り、水色髪の少女を赤と黒のゴスロリ系の服を着せようとしている最中のようで、水色髪の少女は絶賛半裸状態だった。

 半裸状態で白い太ももが露わになり、もう少しで股が見えそうな状況だった。そんな状況でありながら水色髪の少女は寝息を立てて眠っていた。

 赤黒い髪の少女は着せ替え中と言ったが、現状は半裸の少女の上で四つん這いになり、水色髪の素肌を晒した首や太ももを舐めて体と体が絡み合っている状況だ。

 いいようにされている状態でも水色髪の少女は全く起きる気配はない。

 赤黒い髪はおもむろに立ち上がった。

 赤黒いショートボブの髪の左右に生えた根元が黒く、先に行くほど赤みを帯びた立派な二つのツノ。そんな右ツノの根元に赤と黒のリボンの装飾が付いていた。

 服装は露出が高く、上半身は胸全体を隠す黒い布と腕先を包む黒い布くらいしかなく、肩や腹、背中は褐色の肌が剥き出しになっていた。下半身部分は短めのヒラヒラの黒いスカートで、足はニーソックス風の布で覆われ、お気に入りであろう真っ赤な光沢製の靴を履いていた。

 そんな彼女の尾てい骨付近には、黒い動線が地面に伸びていた。尾てい骨から伸びる黒い動線を辿った先には、【黒い球体】と繋がっており、赤黒い少女の近くに寄り、ゆらゆらと宙に浮き、舌を出してヨダレを垂らしながら佇んでいた。

 ツノが生えた少女はステップしながらグラウディーに近づき、グラウディーの右腕を見つめた。

 

 「腕、もう生えないの?」


 その言葉には笑いが含まれていた。

 グラウディーにとって、今一番触れられたくない話題。煽っているツノ少女を見る事なく、床で気持ちよさそうに眠る半裸少女を見下ろしたまま、言った。


 「時間だ。行くぞ、お前ら」

 

 無視されて両頬をぷくーと膨らませた後、ジト目のニヤニヤ顔でグラウディーをまた煽る。


 「マジでだっさー、弱すぎなんですけどぉー」


 その一言を聞いて動いたのはグラウディーではなかった。

 薄暗い暗闇から馬並みの大きさのジャーマンシェパード犬が牙を剥き出しにして現れたのだ。

 犬の登場で、ツノ少女と繋がっている【黒い球体】が舌を出したまま、ゆらゆらと浮きながら犬へ急接近した。

 犬と玉の一触即発の中、水色髪の女の子が眠る姿をずっと見たまま、グラウディーが口を開いた。


 「アリス、下がれ」


 グラウディーの言葉を聞き、すぐに犬の姿が霧のように溶けて消える。


 「出発の時間だ。これ以上、何も言わない」


 グラウディーは踵を返して暗闇へと歩き、消える。

 そんなグラウディーの後ろで赤黒い髪のツノ少女と【黒い球体】は、あっかんべーをしていた。

次の第二章から更新頻度が下がります。

申し訳ございません。

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