肆 不幸中の災い
落ちた虚像の中で一先ずは左腕がどうなっているかを確認する...血が出ていないどうやらこの場所で怪我の悪化を恐れる必要は無いようだ
そして次にどれ程削られたかだが...外側だけを見るなら長さは10センチ程抉れていて深さは骨の3分の2位を削る程だろうか...それにしても断面が綺麗すぎて美しさすら感じる
取り敢えず外に出ても血が出ない様に適当に衣服を千切って紐にしたがこれも長くは持たないだろう...しかもその上なんか明らかにやばい称号持ちに狙われている状況だ
この世界に逃げてから謎の移動が発生した現象...そもそもとしてあれがあるから逃げられると思っているが今回も発生するとは限らない...何ならその移動に関する文面は魔法欄に一切書かれていなかった...何ならその真逆のことを書かれているのに私は今それをあてにしてる...そんなことであれから逃げられるのか?
いや...出来ないだろう、私が昨日生きていた土地とは命の危機...それの軽さが違う、何か自分に保険がある...逃げられるだなんて考えるだけ無駄だ
ならばどうすれば良い?少なくとも終いの壁を超えるを逃げ道と見るのは辞めた方が良い、あくまで回避用と考えるべきだ...
そう考えるて戻った際の行動チャートを組んでいく、まずは移動しているかどうかで変化する、していた場合は至極単純で落下に気をつけて着地する...これは前の移動での反省を生かすためのものだ、そこからは何でもいい...と言うかカリスネクトの行動が何も分からないので随時適切に動くしかない
そして移動していなかった場合、こっちの方を重点的に考えるべきだまず必要なのはカリスネクト...奴のいる場所を確認して奴の攻撃絡みを守りながらとりあえず切り落とした数本の刃のひとつを拾うこと...これが最低条件だ
ただしあくまで最低条件...まだ足りない、奴から逃げるために必要な事...少なくともあれがどうやってタールを殺した犯人を見つけ出し、且つ私の場所を確認したのかが分からない...
思考を回すが脳に働いた電気信号は解を得られずにいる...魔法かそれに準ずる何かである事はほぼほぼ間違いないと考えていたが私を睨んでいた黄色の目と長く揺らしていた灰褐色の髪が私を刈り取る為の武器へと姿を変えた時、魔法のような何かや呪文が聞こえた訳でもない...
詠唱の必要が無い魔法でもあるのか、それともあの正方形の様な魔法器具とでも言うべきか...まあ名称とかは今ここではどうでも良い、そんな感じの道具でもあるのだろうか?
そして...忘れていたことがひとつ、現状MPは最初が18そして3分間の終いの壁を超えるで3謎の低下...今回の懸念点で2そして2分の回復で6...そして今回の終いの壁を超えるで残りが1
つまり最速で終いの壁を超えるを使った場合MPが0になる...その場合1つの地雷が私の傍にばら撒かれる...謎のMP低下だあれがどうやって発動したものかも分からない...この世界の何かが私の体に拒否反応でも起こしてるか、それとも病気とかからでも私も守っているのか...他にもターツに最後付けられた背中の傷とか様々なものが考えられる
得策としてはやはり終いの壁を超えるをMPが7か6になるまで使わない事だが...あの猛攻に絶対回避無しで逃げ切る...はっきり言って訳が分からない...移動していたら少しは時間を稼げるがそれを確認するには判断材料がたったの1回だけだ...移動出来なかった場合を考えるほうが良い...
そんな数多もの問題に対処する方法も確信に至る答えも思い至らないまま視界の虚像は実像へと戻る...覚悟も何も無いままに1つの予兆も無く浮遊感が肉体へと伸し掛る...幸運だ移動する方の可能性を引くことが出来た
準備はしていたので過去2回の落下の様に着地に失敗するなんてことは無い...丸まって考えていた体を伸ばして余裕を持って地面に着地する...そうして辺りを見回してみる、すると1つの良いとも悪いとも取れない事実が分かる...圧倒的に移動距離が短いのだ
この事実はカリスネクトに見つかる可能性を高めると同時にあの森近辺での攻防地帯...あそこに落ちた武器を取れる可能性を高める...そんな打算的な考えを行っていたが直ぐにその思考を改める...そんな事は後でいい今考えるべき事象はカリスネクト...奴の居場所確認だ
周囲を見渡して数瞬もしない内に恐怖と絶望が脳を支配し、足はすぐ様にあの攻防の地へと地面を蹴っていた...明らかにこの辺りの霧が濃くなっている...姿を変えたあのときのことを考えればおそらくあれからネクトカリスへと姿を変えられるのだろう、思った通りに霧は一箇所へと集まっていきその姿を形取る
刃物までの距離があと数m程となったその時凄まじい殺気が現れる...その刹那すんでのところで手を管に伸ばし、転がりながらも武器を手に収めることができた、そして少しの衝撃波を感じ首元に少しの風圧を感じる...地面を強く蹴りその攻撃を避けると何故か首から上の刃物を人間の顔へと変化させたカリスネクトが視界に映る
「それで...何が目的なんだ?カリスネクト、少なくとも時間稼ぎはお前には必要ないだろ?」手元に収まった管を更に深く握りしめて辺りに霧が残っているかを警戒しながら目を向ける
「いえ...ただ貴方の事が本当に謎...と言うか不明点が多すぎるので色々聞いておこうかと...」体から少しの煙を出してそれを斧に形を変えながらそう答える...質問をするとか言っておきながら馬鹿みたいに攻撃するきじゃないか?それとも私なら対処できると評価されてるのかな...全くもって嬉しくない評価だ
そう考えながら今持っている武器を...唯一あれに対抗するための手段を強く握る...
しかし強く握った拳は結果として自分の掌に爪を刺す結果となった...管はどこだと下を見てみると不自然な霧の跡が見つかる...なぜこの可能性に思い至らなかったのだろう...奴は自分の姿を霧...いや煙に変えられるのだろう、それが何故奴の身体を削ぎ落としただけのあの刃に当てはまらないと思ったのだろう
「それで...唯一の対処手段潰しながらお話しましょうって?お前の中の私は本当に何なんだ?、話しどころか普通に死ぬよ?」手を振ってみてきっちりと何も無いことをわざとらしく見せる
「まあ、私もそれは分かってますよ...可笑しな回避力や対応力はあっても地の力は持っていないでしょうしね...」後に付け加えられた押し合いの時少しの抵抗も感じませんでしたしという言葉に特に思うことが無くなる程度には力の差を深く感じつつ含みを持った言葉に続きが気になる...
「ですが今回の武器は魔力吸収特価のものですので」都合のいい物もあるんだなと思いつつひとつ思い出す
「あ〜ひとつ聞くが私この世界に来てから謎にMP1減ったんだゼロになったらやばそうなんだが...そこら辺はどうお考えで?
後こういった事ってあんたも起きるもんなのか?」
「私にはそういった事象は発生したことも何なら聞いた事すらありませんね、まあ...その辺りは準備しておきましょう...後その方法については教えるつもりはありませんので悪しからず
何なら回答次第では偶然見逃してしまう事も視野に入れてますので」そう答えられたが裏を返せば回答次第では殺しにかかってくるということだ...薄々勘づいてたけど悠長にお話とかはできなさそうだ...
風鈴のなる音を傍らに私達は互いを鋭く睨み合う...カリスネクトが『狼藉』と少し呟いたかと思うと短剣のようなものを作り出したかと思うと地面を強く蹴り、向かってきた
飛び交う斬撃を躱し、時折放たれる拳や体術を右へ左へと流しつつ半ば独り言のように「何で狼が日本語理解してんだよ、人間共詠唱以外で使ってなかったぞ畜生!!」と叫ぶ...そうすればちょうど良かったとカリスネクトが言葉を投げる
「先程も思ったのですがあなた異世界から来てますよね?会話の内容からもそれが感じられますし魔法の言語を理解してますし」本当に話す気があるのかと思う程の猛攻を受ける...一先ずは回避が先決だな、いやもういっそ会話を辞めるか?...辞めておこうこの感じはまだまだ余力があるということだ、しかもあいつなんか当然のごとく魔法使ってたから何をしていたのかさえ分からない...最悪気づく暇なく首が物理的に飛ぶ
右脇辺りと首辺りに短剣を振りかざし背後に回避を選択したや否や拳を振るう選択を取る...振るわれた拳は無警戒だった左肩へと向かう、瞬間的に腕を掴み腕を押し出す形で力を込める...腕のきどうをまげる事こそ出来なかったがピクリとも動かないその部分を軸に体全体の位置を右にずらすことが出来た
その後カリスネクトを見たがいつの間にか短剣を逆手に持ち替えていた...まあこの辺りで漸く言葉を返せそうかな?脇腹辺りに迫る短剣を避ける軌道を考えつつ言葉を交わすことにした
「まあ、そうだろうね...そもそもとして私の元いた場所に魔力なんざないし狼煙なんか伝統にすらいない...死体に群がる蝶って物も聞いたことは無い」会話中はある程度手を緩めているのだろう...勿論油断できる様な攻撃ではないが先程までの1mm身体を別の方向に動かせば四肢がバラバラになりそうな攻撃を食らっていれば嫌でもその攻撃の温さを理解できる
「さはりそうですか...それでは次の質問ですね、これは先程の問に繋がるものなのですが貴方はどの力を持ってこちらに転生してきたのですか?」先程からの温い攻撃から一転、段々と腕の軌道は早くなっていく...これ多分早く答えろって事だ...しかしそもそもとして私の現状は転生か転移かも分からない...いやここはもう転生だと断定しておこう、別の可能性を考える必要なんて今は無い、そして力...かここに来てからで思い当たるものは...手の内を明かす事にはなるがまぁこれ相手にはあまり関係ないだろう
「確か『終いの壁を越える』...だったっけな...何かこことは別の世界に移動できるらしい、そんな感じの魔法をこの世界に来て初っ端から手に入れてたね」急に攻撃が止まる...それに気づき目の前の存在の顔を見あげてみれば数多の軽蔑にそれを埋めるほどの驚き...まさしく馬鹿を見るかの様な...いや実際あいつには私が馬鹿に見えているのだろう...然し何故だ?その答えを返す様にカリスネクトは口を開く
「あの...私が聞いてるのは大罪か美徳...いやこれはそもそも関係無いですね、とにかく私が聞いているのはどんな烙印を〘転生〙に押されたのかですよ」大罪?美徳?烙印?転生?訳が分からない、専門用語を専門用語で解説された時に感じる物ってこう言う感覚なのかと理解ができた
カリスネクトも其れを理解したのだろう「いや...貴方が別の世界から来たのならまず出会う筈でしょう?そして烙印を押されて適当な街でスポーンっていうのが定例なのですが」...出鱈目な話だそもそもとして私は唐突に森の地面に落とされただけでその前に何かに出会った訳でもない
何なら街に入ろうとしたら親の仇かとでも言うが如く殺しに来られたし...そうなればやはりあっちの認識が間違っているのではないか?
「いや、そもそもとして転生とやらに出会ったことすらないし...君がこれまで聞いた事の範囲外...例外だったってだけじゃないのか?」気づけばそれを口にしていた...今になって時間を稼ぐのに絶好のチャンスと思ったが不意に口に出たものはしょうがない
どうせ言ってしまったのならばしょうがないと私がここに至るまでのことも話す「実際私はあっちの森に急に移動されてターツに襲われ人に襲われでここに居るんだし...」
...だがその回答に対して対してカリスネクトはねじ斬れんばかりに首を振りそれを全身全霊で否定する、それが一段落着いたところで「いえ...そんな事は始祖の者の一角である私が産まれてから今までの間1度も聞いたことがない事例です...と言うかそれだったらエルフ等が...」そう言葉を小さくしていき...終いには黙り込む、そして言葉を小さくしていくと共に目を細める...それと共に困惑の表情が先程よりも更に大きくなっていく
そして...「いや...本当に貴方はどんな存在何ですか?」予期した通りに新たな疑問が投げかける...だけど正直私自身もわかっていない、まず私が元々この世界にいた訳ではない...それはほぼ間違いない、そしてその場合あれが言うには転生...つまり死んでそして〔転生〕とか言うややっこしい名前の存在に色々言われて人の街に落とされるらしいだけど...そう言った事象には一切出会ってない...
答えを出すことも出来ないまま「あなたの魔力をよく見て見たんですが...ちょっと珍しい...いや、それどころか私も1度しか見た事の無い様な...そんな魔力なんですよね、しかもトラウマ掘り起こす感じの...いやまあ、少し違うのですが...」そう...カリスネクトは語る...私の魔力がおかしいと
「そもそもとして私も未だ魔力とか言うのがどんな物なのかすら分かってない...と言うか何か『終いの壁を超える』の説明文を無視した自称すら発生してるのに...って言うか魔力に種類とか合ったんだ」
「ならば...理解は出来ます...ね?」カリスネクトは私の言葉全部聞いてない様子で独り言を始める...何を理解したのだろう...気にはなるけどどうせ教えられはしないのだろうな...そう思い私は意識を目の前に向き直る
そうすると「疑問は粗方晴れましたね...それでは最後の質問です」その言葉と共に唐突に攻撃が再開される...攻撃は今までの全てを優に超えるほどの速度で猛攻をしかけてくる...
幸い全ての攻撃は馬鹿みたいに集中すればあの管の郡よりかは避けやすいてそしてその猛攻の中嫌に遅い斬撃が右腕に入り込む...背後に飛び、攻撃を避けたかと思っていた...しかし剣の刀身がほんの少しだけ、そう...本当に少しだけ刀身が伸びた、だがその少しが今の私にとっては命取り...戦いの中での前提が崩れる...CQCの中でそれは致命的と言えることだった
その結果としてカリスネクトの握っている少しだけ青色に発光した銀の刀身は私が右腕に付けていた布の切れ端を割いてそのままの勢いで私の腕を斜めに落とす...
しかし、痛みは一向に訪れず腕が地面に落ちることもしない...聞こえた音は微かに布と草が擦れる音、それどころか刃の表面が肉に当たる感覚すらない
「落ちて...無い?」
切られてないのだ...肉が...腕が...何故?そう思ったがカリスネクトの言葉でその理由を思い至る
「え?確かに魔法は殆ど使って来ませんでしたが...これじゃ、最大でも...」そうぶつくさと思考を回しているのだろう...カリスネクトは口に手を当てて思考を始めた...それと対照的に私は疑問に対しての解を得た...私から対抗手段を奪ったあの時に確かに命の保証はする...そんな言葉を吐いていた気がする...
そしてそれを確定させるため...久しぶりに自分のステータスを開く...見てみるとMPの欄に書かれた数字は2...つまり想定よりも1つ少ない数字が書かれていた、そのことを確認すると私はそそくさと両目を開け、ステータス欄を閉じた
そうしていると...風鈴が鳴る、間が悪いとは感じなかった...寧ろMPが0になるという不安定要素を消せてよかったとさえ思う...そんなこんなしていると自分の中で結論が着いたのだろうカリスネクトがこちらに語り掛けてくる
「一応...言っておきますね、貴方の存在はどれ程数があろうとも私の本体の足を見ることすら出来ないと判断しましたので...今ここで処分させて貰います」そう言い終わるや否やカリスネクトは手に握っていた短剣を長い長い剣と余りにも過剰な程のサイズの大槌へと姿を変え...向かってきた